紙の本
光源氏が存在しなかった現実の平安朝
2012/10/08 01:08
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yjisan - この投稿者のレビュー一覧を見る
平安期の貴族というと、『源氏物語』に出てくるような、
良く言えば優雅、悪く言えば文弱なイメージがある。
本書は、そんな彼等の醜い実像を赤裸々に暴いたゴシップ記事の集成と言える。
小野宮右大臣藤原実資の日記『小右記』が伝える真実の貴族たちの姿は、武士顔負けの粗野・凶暴・残虐なものであった。彼らは宮中で取っ組み合いの喧嘩をしたり、身分の低い者を寄ってたかってボコボコにしたり、粗暴な従者たちを使って他人の家に殴り込みをかけたり、果ては自分の従者をぶち殺したり、他人の従者の生首を持ち去ったりと、ヤクザも真っ青の無軌道ぶりであった。暴力を忌み嫌う藤原実資は圧倒的少数派であり、道長ら権力者の横暴を苦々しく見ているしかなかった。
彼ら特権階級にとって、下層の人間はリンチの対象、暴力のはけ口でしかなかった。貴族同士でも気に喰わないことがあると、すぐさま互いに暴力に訴える。ゴロツキ同然の従者たちを囲って非道の限りを尽くした彼らに、『源氏物語』の貴公子たちの面影はない。殴り合う凶悪な貴族たちは確実に「武士の時代」を準備していたと言えよう。
なお本書には書かれていないが、数少ない良識派である藤原頼通は同じく良識派の藤原実資とは仲が良かったようであり、政治運営においてもしばしば実資に相談している。しかし傲慢で我の強い父・道長と異なり、頼通は良識派ゆえの押しの弱さがあった。優柔不断な頼通は指導力を発揮できず、結果的に、治天による恣意的・専制的政治である「院政」への道を開くことになる。これもまた歴史の皮肉か。
取り上げられた数々のスキャンダルは面白いが、当該期の社会構造に肉薄するような掘り下げた考察がなく、事件の紹介に終始している観があるので☆3つ。
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歌や絵にいそしみむ優雅な生活と、めくるめくる繰り広げられるやんごとなき身分の男女達の色恋模様・・・。我々が一般的に平安時代や平安貴族に対して持つイメージは、「源氏物語」や「あさきゆめみし」で描かれるような「優雅で情熱的で文化的な生活」であろう。しかし、今作は、実際は暴力・誘拐・強姦・殺人といった悪逆な犯罪行為で満ち満ちていたという驚きの歴史の真実を様々な文献・資料を駆使して立証している。もう驚きびっくりったらない。教科書では絶対に書かれることのない歴史の一面。作品全体が発する強烈な黒さと面白さ、エグさに圧倒されまくりの1冊!!
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こういう裏話ネタは大好き。タイトルに惹かれて手に取った。
気取った、お上品な光源氏のイメージばかりが平安時代ではない。
ヤクザまがいの誘拐事件、殺人事件、暴力事件が日常茶飯事あったのかと、まずは驚いた。
今も昔も、世間知らずのお坊ちゃんほど性質の悪いものはない。
成人式で大暴れする新成人の図が真っ先に目の前をよぎった。
また、大しては温和なイメージしか持っていなかった敦明親王(小一条院)だが、無理やり皇太子を退位させられたから屈折したんだろうな〜と思わず納得してしまった。
いずれにせよ、週刊誌のようなノリでさくさく読めて楽しかった。
しかし、この本には問題点があると思う。
出典が「小右記」ばかりだということ。気難しい頑固な爺様(小野宮右大臣藤原実資)がぐちぐち書いた日記である。大げさに書いていることもあろう。だから読み物として楽しんで読む分にはいいが、丸呑みしていいのかとやや不安を感じた。したがって、「小右記」の原文を引用しながらの構成にして欲しかった。まあ、自分で直接原文に当たれよ、と言われればそれまでの話だが。
まあ、平安時代に少しでも興味があれば読むことをお勧めする一冊である。
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貴族はのんびりまったり日々を暮らしている…というのは嘘である。
強姦幇助、殴り合い、リンチ、逆恨みによる殺人未遂、実にやりたい放題だ。
平安貴族は普通に暴力を楽しんでいた。
上は法皇から下は受領まで、己の手を汚さずに暴力暴力。
軽い読み物としてもお勧め。
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当時の貴族の日記ちゃんと読んだら源氏物語の貴公子像ってあれ言説じゃね?的な問題提起。
続々と暴かれる、猛烈にろくでもない野蛮なまろたちの素行に爆笑しつつ史料としての日記の価値に興味が沸いてくる一冊。小右記欲しい(笑)
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けっこう前に読んで忘れてた。貴族とかいうと『みやび』とかそんなイメージだけど,とんでもないなと思った。情報操作の賜物?それとも後世の『貴族』の努力の成果だろうか。
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卒論を書くときに、事例を探すのに利用した。解説はちょっと私の解釈と違ったりするところもあったけど、読み物として楽しめるつくりになっていたと思う。
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バ、バイオレンス・・・
平安貴族の方々は問題解決のために度々武力を行使した事実を明らかにした異色作。
のほほんと和歌詠んだり、はらはら涙流したりしてただけじゃないんだねー
天皇の御前で喧嘩するとか・・・開いた口が塞がらないガサツぶり。
血の穢れとか方角とかいろいろ気にする割に自分の部下の手が血まみれになるのは気にしないらしい。
あんたら北面の武士とか必要ないでしょ!
いや、こんだけ横暴だから自衛のために用意したのか。
攻撃的な敦親親王の段がとても興味深いです。
家族思いで時の権力者道長を向こうに張って対等に交渉する年に似合わない老練な政治家ぶり・・・
彼がもし即位していたら面白かっただろうなぁ。
最近文庫化したので手に取りやすいかも。
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内容紹介:従者の生首を持ち去り、受領たちを袋叩きにし、平安京を破壊。殴られる天皇、犬に喰われた皇女…。藤原実資の日記「小右記」に記された暴力と凌辱の平安朝。源氏物語には描かれない、雅びな都の知られざる暴力事件を読み解く。(TRC MARCより)
資料番号:010880375
請求記号:210.3/ シ
資料区分:一般書
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古典にカテゴライズしていいものか……悩みどころですが。
書店の歴史ものコーナーを覗くのはお約束になっているのですが、いつもと違う書店に行った時、つい目に飛び込んできてしまったタイトル。
以前、【殴り合う騎手】というのを読んだのですが、それに通じるものがあるのかどうか…。タイトルに惹かれて手に取ってみますと、……なかなかおもしろそうでした。面白そうではありましたが、ハードカバーを購入するつもりはサラサラなく、その時は、「図書館で探してみるか」と思って、諦めました。
後日、何気に文庫本になってないかなぁ? と検索してみると、
なっているではありませんか!
さっそく近所と言うほど近くはないけれど、品揃えは豊富な紀伊国屋書店へ走りました。
ありました。さすが紀伊国屋!
田舎住みはこうゆうところで不便を感じます。
それでも昔に比べればだいぶ便利になりましたが。
それはさておき、殴り合う貴族たちです。
初っ端から藤原道長です。
歴史は好きですが、平安時代に関しては、安倍晴明様以外はあんまり知りません。
源氏物語は「あさきゆめみし」で内容を知った奴です。
「枕草子」も冒頭を暗記させられました事くらいしか知りません。
なので、平安時代ビギナーといっても過言ではなく!(苦)
題材に取っているのは 『小右記』 です。ほとんど 『小右記』 からの引用です。
それは少し安直過ぎるかなぁ? と思わないでもありませんが、道長すら刃向かえなかった(?)らしい小野右大臣。歯に衣着せぬ物書きで多少の誇張はあるでしょうが、おべんちゃらやお世辞はないだろうと紹介されています。なので、かなり信頼できる資料なのだそうです。
千年も昔の資料が現代に残っていることが第一に不思議でした。
だって千年よ?!
千年前の日本の高官たちは、雲上人だったようです。
一般庶民は地を這う蟻の如くな存在。
貴族が一般庶民を半殺しにしても御咎めなしとゆーその世界に、「現代に生まれてよかった」と安堵してしまいます。もしかしたら千年前にも生を受けていたかもしれませんけれど、記憶がないので如何とも……。千年前に生きていても、蟻の如くな一般庶民だったでしょうよ。
貴族様たちが殴り合ったというのもありましたが、よくあるパターンは、貴族の使用人たちが、余所の貴族に集団リンチや余所の貴族の使用人と集団暴力。というのが多かったように思います。
あの時代、貴族の屋敷の門前を通るには例え高位の貴族だろうが、牛車から降りて通り過ぎねばいけなかったようですよ? でなければ、門番から石礫を投げられたそうです。石って……。痛いなぁ。
あの時代にはあの時代の掟があったようです。
守らなければ即報復って、恐い時代だ。
……しかし、貴族が参内する為に貴族の屋敷前を通らずに行くのは超困難じゃないのか? あの時代、方違えとか方角にもいろいろ迷信があったみたいだし?
参内するのも命懸けですな。お貴族様。
そんな貴族様の話の中で、源氏物語以外にも物語���タイトルが出てくるのですが、どれも分からなくて、真剣に古文、勉強しようか。という気持ちになりました。
『大鏡』 とか 『更科日記』 とか読んでみたいなぁ。と思わされました。
古文を読んでみようと思わされた本です。
そう思う人はきっと自分だけだと思いますが。
平安時代の日本人が少し垣間見える本でした。あの時代の人間はとても自分に素直だったのだなぁと思わされました。野心と本音だけで生きていけるお貴族様って凄絶です。
面白いですよ。
オススメ!
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暴力反対!
いじめのような集団暴行が、一流貴族たちの間でこんなに起きていたとは。
ショッキングな内容のものもちらほらあり、読んでいて怒りが湧いてきました。
それにしてもこの作者の文章が読みづらい。いらない接続語が多い。
内容は興味深いだけに残念。
作者は道長一派への厳しさに対し、実資には無批判だなぁと思ってましたが、
『紫式部日記』を基にした貴族たちの酔態を書いたところでは実資の行動についても、明らかに酔っ払いの行為であると評してあったのが面白かった。
女房の十二単を一枚一枚数える実資。結構いやな酔い方。
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麿である。牛車で移動である。そう教育テレビでおなじみの おじゃる丸のごときやんごとなき生まれの方々がなんと殴り合い蹴り合い血みどろの喧嘩をするのである、びっくりしたぞ。まぁ 人間だから喧嘩のひとつやふたつやみっつやよっつ するだろさ。けど こんなにフィジカルな喧嘩をしょっちゅうやってたなんて 今の世と変わらないじゃん。しかも喧嘩の仕方というか喧嘩のレベルが低いぞ。そしてトラブルになった後の尻拭いを親に頼んで知らん顔しちゃうってとこも今と同じか。あの光り輝く源氏の君もこんなに野蛮だったのかしらん…
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あとがきで、「「王朝貴族」と呼ばれる人々は、かなりの程度に暴力に親しんでいましたーこれこそが、この本の最初から最後までを貫く主張です。」と書かれています。この本で紹介されている平安貴族、女房までも、全ての人がファイティングポーズをとっています。源氏物語や枕草子などのイメージは、この本で崩されてしまいますが、不思議なことに、平安の世界がずっと魅力的になってしまう本です。この本そのままにドラマ化でもしてほしいものです。
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繁田信一『殴り合う貴族たち』
友人からの薦めで読みました。
最初からクライマックスすぎて笑いました、それはもう。
著者が言っているように、一般の人から見れば平安貴族というのは=光源氏であって、雅な存在でした…が、この本はそんな雅さなど宇宙のかなたまですっ飛ばしてくれます(笑)
平安時代の貴公子たちは、それはもう拉致監禁虐待は通常運行だったようで…「おい、お前ちょっと表出ろや」という平安貴族なんて見たくない(笑)
そして烏帽子の取り合いの激しさと言ったら…烏帽子を取られる事がいかに恥ずかしい事であったかを著者は再三再四述べていますが、だからといってこれはひどい。
まあ、確かに平安時代は自力救済の時代でもありましたから、貴族がそんな事をしていても、確かに問題はない気もしますね…中世になるとこれが一族、国単位になるから大変ですが。
それにしても最後の火薬庫のような宴…本当に何もなくて良かったですよ(笑)
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新聞の読書欄で見かけて「こいつぁ読まないとな!」と思っていた一冊。期待して読んだのに外れませんでした。
平安貴族って言うと「意中のあの人を射止めるべく歌を贈るでおじゃる」とか「きょうは管弦の宴でおじゃる。グビグビ」とかやってるイメージしかなかったので(失礼なイメージですね)、これでもかと列挙される貴族達の暴力沙汰からもう目が離せません。内裏で殴り合いとかって斜め上過ぎて一瞬理解出来ませんでしたよね。
しかしそんな暴力沙汰の影にも、借金問題やら権力闘争やら貴族ならではの鬱屈やらが潜んでいて、時代の裏側をかいま見たようで面白かったです。
軍隊もなかったし警察の権限も(特に貴族に対しては)弱かった時代ですので、問題は私闘で解決するしかなかったのかも。怖いなあ。