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紙の本
目標設定能力の格差
2005/12/29 03:35
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:森山達矢 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説は、人生の目的・労働の意味を巡るものだ。
主人公には、この目的がない。
同棲相手のヤスオ(仕事を辞めたプー)と主人公は以前、
アジアへ放浪旅行に行き、主人公はスリランカで病気に罹った。
その時助けてくれた聖地巡礼途中の家族に向かって、
主人公は、あなたたちがうらやましいと言う。
「私だってあなたたちがうらやましいと、だから私は言いかえした。家族全員で、こんなにたのしそうに、待ちに待ったのであろう巡礼にいけるなんてとてもうらやましいと言うと、女はぽかんとした顔つきで私を見る。うらやましいのはあなただとくりかえしながら、なぜか、しまったと心のなかで思っていた。しまった、言うべきではないことを言ってしまった、と。ものがあふれるなかで清貧を賛美するような悪趣味なことを口にしたという気持ちではない。もっと何か——自分たちの旅にまつわる決定的なことを、思わず漏らしてしまった気がした。それがいったいなんなのか、しかし今は考えるべきでない気がして、私は女に笑いかけた。」
そして主人公34歳の現在。
「羨ましいと自分が口にした理由が、今なら分かる。彼女たちには目的地があった。目的地は折り返し地点だ。目的を果たせば人は帰ることができる。あのとき私が彼女たちを羨んだのは、だからだったに違いない。」
目的がないということは、現在も同じなのである。
主人公は、長期的な目的が設定できないでいる。
その代償として刹那的なそれを設定する。
主人公は、携帯電話で知り合った立花光輝との出会いに、絶望的な状況を変えるような何かを期待する。
「プライドばかり高い無能、いつだったかヤスオがそんな単語を口にしていたが、私も所詮、そのような種類の人間なのかもしれない。雑居ビルに貼られた、黄ばんだ張り紙から目をそらし、空を仰ぎ見る。空はくっきりと青い。私はかつて、いったい何になりたかったのだったか、そんなことを思う。みずからにどのような希望を持ち、どのような期待を抱き、どのような目標のもとに日々をすごしてきたのだったか。空に引っかき傷をつくるように、長く細い雲を引いて飛行機が飛んでいく。」
立花光輝は、一応大学に属しているが、料理人になりたいという目標を立て、大学を辞めて専門学校に行く決意を固めていることを主人公は知る。
それを知ったとき、
「ジグソーパズルの最終場面にとりかかっているような高揚した気分が湧き上がるのを感じ」、「人生にはすべて意味がある」と大きく頷く。
主人公は彼のために金を工面しようと決意する。
主人公は、思いつきの目的のために嫌な仕事も簡単にこなしてしまうようになる。
しかし結局、この主人公の目的は、些細なことで潰えてしまうのだが。
これらのエピソードが暗示しているのは、仕事と目的との関係性である。
この小説で3つの関係が示されている。
主人公:刹那的目的を見つけ仕事に勤しむ
ヤスオ:なんの目的もなく仕事をする
立花:明確な目標があり仕事をする(バイト先のマスターもこれに入るだろう)
これらの登場人物が示しているのは、現在の労働者がこのように階層分化しているということである。別の角度から言うと、ある個人の「目的を設定(発見)する力」によって階層分化(勝ち組・負け組)が引き起されているということである。
『希望格差社会』とか『下流社会』という言葉がある。
こういう言葉で表現される現在の労働状況・階層化をリアルに表現した作品といえる小説である。
紙の本
愛はお金で買えるか
2020/06/26 00:23
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
年下男性の夢を応援するために、貯金にとり憑かれていくヒロインが滑稽でした。夢から醒めたようなラストと、手元に残った現金が切ないです。