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紙の本
2006年度のNHK大河ドラマの主人公、山内一豊とその妻千代の実像を練達の歴史家が鮮やかに描出!
2005/10/29 11:41
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
2006年度のNHK大河ドラマは、山内一豊とその妻千代を主人公にした「功名が辻」(司馬遼太郎原作)に決まり、収録も徐々に進んでいるという。原作は、土佐二十万石の大大名にまで出世した山内一豊とその妻の千代の波乱に富んだ生涯を描いているが、ドラマではどのような華麗な戦国絵巻が展開されるのか歴史劇ファンとしては今から楽しみである。
出版界では、放送に先駆けて、山内一豊関係の書籍の刊行が既に始まっている。
この十月には、新書に限っても、本書の他に「山内一豊」(PHP新書)、「検証・山内一豊伝説」(講談社新書)が刊行されている。
これからも、しばらくは硬軟取り混ぜた関連書籍が多く出版されると思われるが、本書は練達の中世史家が執筆しただけあって、歴史学的考証も行き届き、随所に新鮮な見解が盛り込まれていて読み応えのある内容になっている。
本書の特色を挙げるとすると、「関ヶ原合戦」に至る過程がこれまでにはない視点で分析されていることと「戦国大名の妻の役割」が女性史的視点を交えて論じられていることである。
関ヶ原合戦については、これまで徳川家康と石田三成の対決に焦点が当てられ論じられて来たが、著者は山内一豊を始めとする中規模大名の動向からこの天下分け目の合戦を論じている。
ここで謂う中規模大名とは、豊臣秀吉によって東海諸国に配置された山内・生駒・堀尾・中村の諸大名のことで、徳川家康は、秀吉亡き後、彼らを巧妙に味方に引き入れることで東海道を安全に進軍することが可能となり、それが関ヶ原合戦の勝利に大きく繋がったという。このような指摘は、管見の限りではあまり例がないようであり、貴重な知見を読者に提供している。
また、著者は女性史研究者らしく、一豊と千代との関係や戦国大名の夫婦の関係を論じている。戦国大名の夫婦の関係については、様々な見方がされて来たが、著者は一豊と千代を例にとって、共に様々な危機や困難を乗り切って行った盟友という見方をしている。一豊と千代にとって最大の試練は関ヶ原合戦であり、著者は合戦前の夫婦の動向や夫婦ともどもの働きが認められ土佐二十万石を拝領するまでの経緯を詳しく辿っている。
特に、妻千代の大坂方に関わる情報提供は家康の一豊への評価を著しく高めたと伝えられており、将にこの出世は夫婦で勝ち取ったと言えるものであろう。
著者は一豊夫婦以外にも、毛利元就や池田輝政を例に取り、戦国時代の夫婦の関係を探っており、一般には知られていない女性の大きな力を明らかにしている。
本書は、この他にも、山内家のルーツ、一豊と豊臣秀吉の関係、土佐一国の治世の様子、山内一豊と千代の人となりにも筆は及んでいる。時便に適った書であると同時に、岩波新書の名に恥じぬ好著である。
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