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【愛蔵版】の「入江泰吉大和路巡礼」である。2005年発行 。
hotaruさんのレビューを読んで、本書を手に取った。どうしても
「不運な運命を辿った大津皇子の怨念を表現したくて、美しい夕焼けの二上山ではなく、暗澹とした雲が立ち込める不気味な二上山を撮るために十日に渡り粘り続けた」
という写真を見たかったからである。
ところが、図書館にも本屋にも文庫本の「大和路巡礼」が見つからない。愛蔵版だけが図書館にあった、おそらく文庫本の秋冬版と春夏版の元になった写真集だと思われる。しかしながら、100ページに見開きで出ている二上山がホントに文庫本に載った写真かどうかは確認できていない。確かに「暗雲立ち込めて」いる。私はもっとおどろおどろした雲かと想像していたのだけど、それほどでは無かった。しかし、よく考えれば二上山は大和の西方である。この黒雲がやがて真夜中に大和を覆い尽くすと考えると、確かにかなり不気味だろう。
もっと不気味なのは、92-93ページの「神南日 三輪山」であった。大判なので、目の前にいっぱいお盆をふせたような黒い山が存在している。ちょっと前まで晴れていたのか、右端には青い空と白い雲が見えるが、画面いっぱいには、二上山のそれよりももっとおどろおどろしい雨雲が広がっている。「龍神が怒っている」古代の人がそう思ってもおかしくはない景色である。
写真集には、大和路の風景は半分以下で、多くは寺や仏像がアップで撮られている。それら全部含めて、飛鳥時代から奈良時代にかけての古代人の視線そのもので大和を見ようという試みなのだ。ということがありありとわかる写真集である。
その時代に興味関心がある方ならば、もっともっといろんな想いを伝える本になると思う。私の興味は3-4世紀の大和なので、三輪山にビビッと来た他は、奈良時代の人々が3-400年前の昔を想像して見ていた風景を想像するという観方しかできなかった。
それでも、ここまで徹底して一つの地域にこだわり続けた写真家には敬意を表したいし、その価値を認めて支持し続けた昭和の日本人にも敬意を表したい。
入江泰吉の全作品は、奈良市写真美術館に収蔵され、常設展示されているらしい。次回はちょっと寄ってみようと思う。