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紙の本
青山光二を知らなくても楽しめる昭和を彩った作家たちの姿。
2006/01/29 22:36
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:heizo64 - この投稿者のレビュー一覧を見る
青山光二という作家をご存知だろうか?
ご存じなくともこの本を読むのに差し支えはない。そういう僕自身もこの「文士風狂録」を読むまで、ほとんど知るところがなかった。装幀家で美術評論家の青山二郎(白洲正子や宇野千代の著書で知られている)と混同していたくらいだ。
心配しなくとも、この本を読んだ後では、青山光二という1913年生まれで90歳を越える現役最高齢作家について一通りのことは分かるようになっている。そして、彼が関わってきた多くの作家たちのことも。
この本は、旧制第三高等学校で織田作之助と知り合い、ともに文学を志した青山氏が昭和を彩った作家たちとの交遊を語ったものだ。話を聞き、このような回想録にまとめたのはちくま文庫の織田作之助作品集の編者でもある大川渉氏。大川氏は、青山氏の発言の引用を最小限にとどめ、インタビュー内容を三人称による客観的な文章で再現する方法を選択している。それによって、談話による冗長さをまぬがれ、簡潔で読みやすい作品となっている。
内容の話に移ろう。
はじめに語られるのは青山氏が「無二の親友」と言う織田作之助。三高で知り合った二人は文芸部の機関誌に関わった。その合評会の参加者は、二人の他に、野間宏、富士正晴、桑原静雄(筑摩書房社長となるのちの竹之内静雄)、そして顧問がフランス文学の翻訳で有名な伊吹武彦教授という錚々たるメンバー。これから、昭和の文学の一翼を担っていく人々がまだ己の才能を内に秘めたままでここにいる。それだけで、なにかウキウキとした高揚感を感じてしまう。この席で、織田作之助は野間宏の小説を酷評し、野間の友人である富士正晴ともやり合った結果、野間と富士は袂を分かって自分たちの雑誌を作り始めるのだ。このように、若い力がぶつかり合って、それぞれの道に踏み出していく。文学史というのはこのように作り出されていったのだなと思う。
その後、流行作家となった織田が東京へ出て、太宰治や坂口安吾と知り合い、あっという間に命を落としていく姿が印象的に描かれる。織田作之助に割り振られたのは第1章だけなのだが、太宰治(第2章)、坂口安吾(第3章)、林芙美子(第4章)までは、織田作之助との関係を中心に描かれており、語り手の青山光二氏と書き手の大川渉氏にとって織田作之助という存在がいかに大きいかが伝わってくる。この4章までが、前半のハイライトだと思う。
5章以降、田中英光、花田清輝、丹羽文雄、舟橋聖一、三島由紀夫、梅崎春生、色川武大、笹沢左保、木々高太郎、芝木好子、田宮虎彦といった作家たちとの思い出が語られる。それぞれ、面白く読めるのだが、後半のハイライトは笹沢左保の章と木々高太郎の章だろう。この2つの章を通じて語られるのは、直木賞の選考委員であった木々高太郎に対する青山氏の憤りである。笹沢左保も青山氏もともに木々高太郎選考委員によって直木賞の受賞を阻まれるのだ。あるバーで「木々高太郎を殺す」と言う笹沢と会った氏は、それをなだめながらも「やるときは俺も一緒にやるよ」と口にする。まるで筒井康隆「大いなる助走」の世界だ。このような思いがまた二人の文学を押し進める力となっていく。これだから、文学の世界は面白い。
装幀に関しても触れておきたい。
カバーの紙は布地を思わせる触感のものが選ばれ、装画は林哲夫氏による味わいのある本の絵である。デザインは間村俊一氏。このような外身も中身も充実した本を読むのは楽しい。
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