紙の本
世界の果てでロスクンロールを叫ぶ
2006/03/26 22:46
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「いやぁ、嘘じゃないですよ。寒いと、本当に唇が鉄の戸だかに、くっついちゃうんですよ。」
フィンランドの現地ガイドはそう言った後、排泄物が極寒の中でどうなるかを、半ば笑い話めかして語ってくれた。でもその後に、ちょっと真面目な顔をして、ぼそっと、こうつけ加えた。
「ただ、北欧って自殺が多いんですよ。大きな声では言えないけど。やっぱり夏にいつまでも続く昼と、冬にやたら長い夜があるからかもしれませんね。」笑い話になる現実と、笑っていられない現実。
旅先で垣間みた、相反する二つの北欧。自伝的長編小説である本作の中にあったのは、まさにそれだった。
本編の主人公である少年達が住んでいるパヤラは、ちょっと日本語に訳するのは躊躇される地区「ヴィットライェンケ」にある。「本当はスウェーデンではないのだ。たまたまくっついているだけ(p55)」と見なされるような、本当に小さな村だ。同じスウェーデンでありながら、インテリアデザインを賞賛される首都ストックホルムとは、全然違う。住まう人も、「フィンランド人ではないのにフィンランド訛りで話し、スウェーデン人ではないのにスウェーデン訛りで話す(p56)」どこか中途半端な存在だ。そんな中で、彼等がアイデンティティを確立しようと思うなら、別の土地で生きる事を選択するしかない。それは、今まで慣れ親しんだ人も風景も、全てを捨てる事でもある。
但し、そんな厳しい現実は、マッティとニイラにはまだ遠い先の物語だ。意外な相手との初キス話、鼠取り作戦がとんでもない事件に発展する話など、「どこまでがフィクションなんだろう?」と想像するだにおかしい(いや、恐ろしい?)日常を生きている。
中でも、サウナに入ったマッティと父親のエピソードは印象深い。おもむろに「人生とか…人のこととか…おまえも少し大人になったから、知っておいたほうがいいと思う」と言い出した父親が続けたのは、祖父の艶話やら、キャピュレット家とモンタギュー家も真っ青の因縁話。念の入った事には、父親はこの後もうもうと湯気の立つサウナの中で、話した事のおさらいまでさせるのだ。この章を「こうしてぼくは、おとなの仲間入りをした」と結ぶ、著者のすました顔が目に浮かぶようだ。そして彼等のアイデンティティ確立への欲求と結びついたのは、何とビートルズ!世界中の若者を熱狂させた音楽は、パヤラの少年達に板きれとゴムひものギターを持たせ、新たな世界を切り開いた。村の因習を引きずらない素晴らしい先生や、やたら喧嘩と酒の強い少年との出会いを経て、気の弱かったマッティを、ステージの中央へと引きずり出す。
世界の果て・パオラで、ビートルズと共にあった自らの思春期を綴った作品は、いくばくかの哀惜と、たまらない懐かしさを感じさせる。
紙の本
北欧に対する見方が変わります
2006/04/27 22:07
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナカムラマサル - この投稿者のレビュー一覧を見る
1960年代、フィンランドに限りなく近いスェーデンの小村が本書の舞台だ。主人公はちょうど思春期を迎えたばかりの少年。エルヴィス・プレスリーのレコードを彼が初めて聴いた時の感動が微笑ましい。「これが未来だ。未来っていうのは、こういう音がするんだ」。
国境に位置する辺鄙な村に暮らすがゆえに、自らのアイデンティティについて悩まざるをえない少年の成長物語だが、ただの成長譚ではない。あまり鹿爪らしく捉えないほうがいいタイプの小説で、登場人物たちの奇人変人ぶりや、読者を煙に巻くような語り口には度肝を抜かれる。たとえば、読み始めてすぐに次のような表現が出てくる。
—「ぼくらの住む地区は、地元ではフィンランド語でヴィットライェンケと呼ばれていた。『おまんこの沼』というような意味だ」
ここを読んだだけでも本書がきれいなだけの少年小説でないことが少しはお分かりいただけるだろうか。たびたび表れるオゲレツなユーモアには北欧そのものに対する見方まで変わってしまうほどだ。
本書の中で最も印象的なのは、春になって氷の河が解けて流れ出す場面だ。自然の偉大さを目の当たりにした少年の姿に愛しさがこみ上げてくる。
変化球ではあるが極上の成長物語だ。
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900万人しかいないスウェーデンで75万部売れたという、スウェーデンの田舎の村の青春小説。いや青春小説ってのはダメだ。そんな軽薄な作品じゃない。自伝的小説らしいので、作者の子ども時代がずっと描かれていて、外国の子どもの微笑ましく、またうらやましい感じで話が進むんだけど、ある意味マジックリアリズム的なところ(まあ、俺はマジックリアリズムがなんだか知らんのだが)がある。それはスウェーデンのフィンランド国境付近の村の自然と風習とが、いい味を出してるから。でも、煙に巻かれる感じは全然しない。それは、語り口もあるのかも。最後ににやりとさせるような一言で締めくくるから、むしろ作者像が出てくる。とにかく、田舎のガキがバンドでもやったんだろ、スウィングガールズみたいなやつだろ、とか思うのはやめなさい。むしろ、俺のイメージではファンタジー系の冒険小説(エンデのジム・ボタンみたいな)に近い。それを一人称語りで文学にしている感じ。いやーうまく言えないなあ。とにかく俺は子どもを主人公にした小説にやられるってことがよく分かった。これはやられる。子どもの目というフィルターを通すことにすごく興味があるんだわきっと。遠いものが神秘化されたり、手の届かないものがなぞめいたり、解釈は自分本位で、だからこそ自由。そして、気持ちが素直。とりあえず、現時点では今年のベスト候補。
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舞台は1960年代、スウェーデン北部の小さい村。
主人公の僕と親友ニイラのおかしくてほろ苦い青春の日々が描かれてます。
小さな子供時代の2人が巻き起こす珍騒動の数々が素晴らしい。
ユニークすぎる出来事を真面目に語っているところが、また妙にツボにハマってしまうのです。
「プクク…」と含み笑いしてしまう箇所がたくさん出てきて、最後はしんみりとしてしまう。
どんな年代の方にもオススメしたい、極上の青春小説です。
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かわいい表紙とは裏腹に、もっさりしたエピソードが満載の小説。田舎の暮らしのおかしみが読むにつれ身にしみてへんな感動に変わる一冊。寒い季節に読んだほうが気分がでていいです。
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物語の舞台は‘世界の果て’。 けれど奈良の田舎町で育った僕の少年時代にもなぜかずいぶん似てるんです。
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ゆったりと、重たい時間が流れる小説。
いっきに読み進められないくて、時間をかけてちょっとずつ読んだ。
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思っていたよりも真面目にぶっ飛んだ本でした。
北欧の昔話が入り混じりつつ、彼らの生態系もうかがえて・・・
ただ、あまりにも現実とおとぎ話が交差して途中わけわからなくなったけど
その部分がちょうど登場人物たちが酔い潰れるところだったので、演出として良しかなと
思いました。
最後のしめくくりが妙に大人びた書き方で、そこがより
少年たちが大人になった現実を出してて、しんみりしてしまいました。
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北欧スウェーデンの片田舎に住む少年の自伝的エッセイ。
どこにでも居る思春期の少年の心の動きと、北欧の風土、歴史、習慣の新鮮さがあいまって結構面白かった。
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1960~70年代、少年マッティの幼い頃から思春期までを描いた小説。
舞台は、都市文化からはるか遠く離れた北極圏に近い村、スウェーデン北部トーネダーレン地方パヤラ村。
村の慣わしとなっている独特な風習や、そこに暮らす人々の頑なで素朴な気質を織り交ぜながら、時におかしく、時に切なく、時にお下品に、物語は進んでいきます。
ある日、親友のニイラがロンドンに住むいとこから1枚のレコードをプレゼントされます。それがビートルズ。
ニイラとマッティは、“ぶっ飛ぶような”衝撃を受けます。
実はビートルズについてはこのあたりで触れられるだけで、あとはほとんど登場しない。
最初は二人で、そのうち友だちと4人でバンドを始めるのだけれど、これが笑っちゃうほど下手くそだったりします。
男の子たちの無鉄砲さや愛すべきおバカさ、正直すぎるほどの感情の動きなど、結構笑えて、同時に心がしめつけられるような感じもします。
知られざる北欧の、とある一面を知ることができる小説。
映画にしても面白そうです。
"My Life As a Dog"のような感じで作ってもらえるといいかも。
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思ってた以上にビートルズ云々はでてこない。特別大きな事件はおこらず、出てくる女の子はみんな、ませていて男たちはみなケンカや酒、噛み煙草を好んでしている。
原書は読めないから訳がどれくらい忠実かわからないけど、文章が好き。読みやすかった。
始め、「ライ麦畑でつかまえて」を思い起こさせる何かがあって、自分が男の子だったらまたおもしろいだろうなと思った。
赴任してきた先生(名前忘れた…)の登場のおかげで、少し明るさを感じ、村に風がふーっと入って来たように感じた。
ネズミの場面はご飯の前に読んでしまい、相当後悔したけれど。。
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北極圏に近いスウェーデン北部の村で生まれた少年は、ある日無口なニイラと友だちになる。それが、はじまりだった。雪と氷の世界の果てにも、音楽はやってくる。ロックとの出会い、はじめてのバイト、女の子。寒い地域のお話なのに心温まる、ボーイ・ミーツ・ミュージックな成長物語。
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スウェーデンの北の果て、北極圏の小さな村「トーネダーレン」で育った作者ミカエル・ニエミの半自伝的小説。
もっと全編バンドとロックンロールの話かと思っていたらそうでもなくて、スウェーデンの自然だとかアルバイトの話だとか、おじさんの婚礼の話だとか、友だちや家族のことだとか、多様な話題がユーモラスに語られている。
そう、語り口にユーモアがあって、コメディ映画を観ているよう(実際2004年に映画化されているとか)。
おじさんの婚礼のときのご馳走がおいしそうだったなぁ…
「若い娘のほほのようになめらかな甘いロールパン、白くぱりっとしたカンゴス・ビスケット、みごとなパヤラ風クリーム菓子、しっとりしたスポンジケーキ、アイシングをかけた菓子パン、はっとするほど美しい北極地方のラズベリー入りロールケーキ…
それだけでなく、ボウルいっぱいのホイップ・クリームと、太陽と黄金の味がする温めたばかりのクラウドベリー・ジャムも添えられていた。
(略)
コーヒーに添えるために、冬用のタイヤほどもある黄金のチーズが転がされてテーブルの上に置かれ、甘いお菓子の中央には、メインである固くて茶色い干したトナカイ肉のかたまりが置かれた。塩気の強いトナカイ肉を薄く切ってコーヒーに入れ、さらにチーズをひとかけかき混ぜながら加え、くちびるに白い角砂糖をはさむ。そして全員が震える指で肉とチーズを混ぜこんだコーヒーを受け皿に空け、それをすすって天にも昇る美味を味わった。」(P130…デザートタイムの記述)
父親が大人になる心得として話す内容が、身につまされたというかなんというか…
「憂鬱な思いにふけるのも、心を病む原因のひとつだった。ものごとをあまり考えすぎてはいけない、できるだけ考えないようにしろ、考えるっていうのは、すればするほど心を傷つけるからな、と父さんはぼくに忠告した。その毒を消すには、きつい肉体労働が効く。雪かきをしたり、薪を割ったり、クロスカントリー・スキーをしたりするのが一番だ。なぜなら、ソファに座ってだらだらしたり、なにかに寄りかかって休んだりしているときに、人は考えるってことを始めがちだからだ。
(略)
とりわけ大切なのは、宗教についてくよくよ考えないことだ。神と死と人生の意味なんていうのは、若くて傷つきやすい心にはきわめて危険な問題だ。うっそうとした森のように、たちまち道を見失って、最後には深刻な狂気の発作に襲われる。そういうのは歳をとるまで安心して放っておけばいい。そのころにはおまえも頑固になって強くなっているし、ほかにたいしてすることもないだろうからな。
(略)
なによりも危険で、なによりも警告したいものがある。それは読書だ。そのせいで、大勢の不運な若者がたそがれの狂気の世界へ追いやられた。このけしからん習慣は、若い世代のあいだに広がっているようだが、ぼくがその傾向をまったく示していないことが、言葉では言いつくせないほどうれしい、と父さんは言った。精神病院は本を読みすぎた連中であふれている。その連中も、昔は父さんやぼくと同じように、強い体を持ち、率直で、快活で、バランスがとれていた。それなのに彼らは本を読みはじめた。」(P207)
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最近読んだ本で一番面白かった。作者は北極圏の出身。スウェーデンの領内だが、フィンランドとの国境の村なので、フィンランド語を話す。作者の自伝的小説。子供の頃から思春期までの物語。村の子供達は殴り合って生きていて非常に粗野。ロッタちゃんと同じ国の話と思えない。
自然の描写も美しい。色とりどりのオーロラ、凍てつく川。村の人々の結婚式の場面は面白かった。豪華なごちそうの後、両家親族の自慢大会になって、腕相撲したり、皆で裸になってサウナに入ってがまん大会をするのだ。また近所のおばあさんのお葬式をしたあと、相続をめぐって親戚一同の大げんかが始まったり、学校の先生が自転車でスクールバスと競争したり、ギターを買うためネズミ退治のアルバイトをしたり、奇想天外な転回になって読者を惹き付けてやまない。
村の因習も困難な歴史の背景も作者のユーモアのセンスで重苦しくならず、面白く読めた。さすがスェーデン人で12人にひとりが買った本だけある。映画もあるそうで、観てみたい。
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スウェーデンの北部トーネダーレンの小さな村で生まれ育った著者の自伝的小説。
都会から来たいとこが貸してくれたビートルズのレコードに衝撃を受けて友達とバンドを組んだり、隠れて子供同士の飲み会を開いたりありきたりだけど女にもてあそばれたりとか、幼少期から青春真っ只中までがつづられている。
こんな青春を送りたいなではなくこんな風に自分に起こったことを描けたら素敵だなあと思った。