紙の本
本能寺の変の黒幕説をぶった斬る
2007/07/09 23:54
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MtVictory - この投稿者のレビュー一覧を見る
本能寺の変についてはこれまで数々の本を読んできた。この歴史的事件を知った当初は光秀の単独犯行だったと思う。きっとまだ子供の頃だったからNHKの大河ドラマか何かの影響だろう。それが近年、事件の背後に黒幕がいたとする謀略説と言えるものが増殖し、様々な説を唱える人がいる。歴史小説などでもいろんな見解があって、それはそれで面白く歴史好きとしては、想像を膨らませて楽しめる状況にあった。次から次へと奇説が出てくれば歴史好きは注目し、本も売れることであろう。そういったリピーターたちが市場を支えているとも言える。商業主義的過ぎてけしからん、という人もいるだろうが、「あとがき」にもあるように、「多くの日本人にとって、時代小説と歴史研究は未分化な状態」であるから奇説・珍説も消費され、いずれ飽きられる。本書はそんな状況に冷や水を浴びせるような、ロマンも何もあったものでもない内容であるが、浮かれた我々に真実を求める姿勢を問う本である。決してベストセラーになるような本ではない。
日本人の謀略話好きが背景にある、となかなか厳しい。「謀略史観」とも呼んでいる。謀略説が増殖する状況を異常と考えた著者らは、そういう状況が放置されていることに問題意識を持ち、変の実態を再検討することを始めた。この事件は意外なほど明らかにされていないことが多い。それだけに様々な説を生んでいるとも言える。
著者らは謀略説が成立するものかどうかをチェックした。チェックポイントとしては、実証性(論拠となる史料があるか、それは信頼できるか、正しく解釈されているか)、論理的整合性、常識的に見て納得できるか、当時の社会のあり方や人々の価値観に照らして妥当か、などを挙げている。変については多くの著述があり、研究しつくされたように考えられているが、本能寺での戦いの展開や、それを実行するまでの光秀の行動など肝心な部分が明らかでないのである。
プロローグで天下統一を目前にして「信長は息子達への財産分与(領国)の件で頭を悩ませており、周囲を一門衆で固めようとも考えていた。その限りでは月並みな戦国大名の発想しか持ち合わせていなかった」と書かれているが、光秀に謀反を決意させる何か決定的な出来事があったはずだと考えると、案外そういうことに対して光秀は不満が募っていたのではないかとも考えられる。
第四章では重要なことを言っている。謀反の実行部隊である重臣を説得することが非常に重要だったという点。重臣たちが同意したのも謀反の動機となる共通の予備知識や問題意識があったのかも知れない。
第八章ではもし黒幕が謀略を光秀に持ちかけたとしたら、「信長に疑われて迷惑する」とも書いている。これも想像になるが、ある本では変の当時、中国路から光秀謀反の風聞が信長の耳にも入っていたと書かれていた。もしそれが事実だとすれば実際、光秀は迷惑していただろうし、最初は信長も彼を信頼してかばってくれていた。しかしだんだん世間にも噂が広がるようになって、信長も放置できなくなり、四国攻めの大将からも外したのかも知れない。閑職に追いやられ、将来への不安が切実な問題となってきたと考えれば十分に動機になる。信長と同じ考え方が出来ると自負のあった光秀なら、主君・信長に取って代われるとの自信もあったろう。
著者らは検証を終えて、いずれの謀略説も説得力に欠けるものと断じている。また光秀の事前工作の不手際が目立つとしている。それは単独犯行の証拠に他ならないと。次は謀略説を唱える側の反論を聞きたいところである。
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謀略説が跳梁跋扈したのは本能寺の一件を精査・再査せよと鈴木真哉・藤本正行両著者に促す為であったとも云う可き良書。
副題に「本能寺の変・謀略説を嗤う」とあるだけあって文章全般、読み下し、適宜補注等も有り、平易で読みやすい。但し二部立ての内二部に入って具体的に謀略説を検証する段になればその様な訳にもいかなくなるが、一部のみでも充分楽しめるので忌避するに懸念は無用である。
129頁「河隅書状」の解釈に於いて藤田氏は写しの日付を正しいと前提し書状を読み下すがそこに無理を感じさせ、対す両著者は先ず無理無く読み下した上で写しの日付を間違いであると断ず。両著者の主張に私は首肯出来るのである。
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[ 内容 ]
足利将軍説、イエズス会説、秀吉説、家康説、本願寺説、朝廷説―次々に登場する信長殺しの「黒幕」たちに、事件関与の決定的な証拠はあるのか。
[ 目次 ]
プロローグ 「謀略説」はなぜ流行るのか?
第1部 本能寺の変は「謀略事件」だったのか?(良質史料で描く「信長の最期」;謀反の成否を分けた光秀の「機密保持」;事件前後の光秀の動向;本能寺の変はなぜ起きたのか?)
第2部 さまざまな「謀略説」を検証する(裏付けのない「足利義昭黒幕説」;雄大にして空疎な「イエズス会黒幕説」;誰でも「黒幕」にできる謀略説の数々;謀略説に共通する五つの特徴)
エピローグ 順逆史観から謀略史観へ
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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近年の、「本能寺の変」謀略論に喝!という内容。
明智光秀単独犯説が定番だったのですが、最近は本能寺の変の犯人として、豊臣秀吉・徳川家康・正親町天皇・近衛前久とかが取り上げられるようで、中には奇想天外なものも多いとか。
我々一般読書人からすると、そういった目からウロコの奇説が面白かったりするのですが、この本ではそこらへんをバッサリ!
奇説が参考にしている、史書をひとつづつあげて、誤読・根拠の無い事・結果ありき、などと反論をいたします。
後半では、検証もなく俗説を平然と流すマスコミ批判にも広がって行きます。
その時代の常識を理解すること、資料をきちんと読み込む事の大切さなどを、歴史学者らしい真っ当な意見で語って行きます。
ただ、真っ当な分驚きとかは無いです。
もうちょっと刺激は欲しかったかな。
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「本能寺の変の黒幕は実は~~だった!!」
という説は巷にあふれている。
足利義昭黒幕説、秀吉黒幕説、家康黒幕説と、枚挙に暇がない。
この本ではそのような謀略説は一つも信頼できないと一刀両断!
確かに、本能寺のような状況が生まれたのは偶然の産物で、事前に打ち合わせ等あったとすれば、機密の保持をどうするか、といった常識と照らし合わせても、本能寺の変に黒幕はいないというのが真相のようだ。
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証拠を積み重ねていく手法は裁判にも似てさすが法学部出身の著者。しかしこう理屈で詰められると、「納得性が高い」は必ずしも真実とは限らない、と憎まれ口も叩きたくなる。基本的には面白いんだけども。
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謀略好きの日本人の一人として、本能寺の変は明智光秀の単独実行であり、謀略説を論破する本書は、敵側の論を知るうえで非常に参考になりました。しかし本書の副題に答えて言えば、本能寺の変・謀略説は全てを嗤うことは出来ない!
第一部 本能寺の変は「謀略事件」だったのか?
第一章 良質史料で描く「信長の最後」は、紹介されている事実が逆に謀略派にも有利で面白い。「本城惣右衛門覚書」は光秀の兵士として実際に本能寺に突入して首をとった兵士の実録談。末端の兵は京への浸入は信長が上洛していた徳川家康を討つことだと思っていたという。そして同章にはフロイスの報告(イエスズ会日本年報)にも同じような誤解をした兵士がいたとある。本書は信長が家康を打ち取るメリットは無いと否定しているが、同時代ではこのような命令が出ても違和感がなかったことが証明されている。
第二章 謀叛の成否を分けた光秀の「機密保持」は、本能寺の変の決行は、重臣にも直前に伝え、兵には信長への閲兵のためと伝えて、成功した。黒幕がいては謀叛が漏れた可能性が大きい。光秀が機密保持に成功したことは確かだが、なぜ信長は一万三千の兵が近づくことに気がつかなかったのか?説明は無い。
第三章 事件前後の光秀の動向は、史料で光秀の動向を知ることが出来、役に立つ。この中で本能寺の変のあとに光秀が細川藤孝に味方を懇願した覚書は有名である。花押の形状から偽書との説も紹介されているが、本書は当事者同士が知り得ることを省いているために偽書では無いと断定している。しかし私は内容が既に敗者の体であり、当然、光秀に味方することが予測された細川家が、山崎の合戦後に当事者として作った偽書であると思えるのですが…
第四章 本能寺の変はなぜ起きたのか?は二つの「なぜ」
一つ目はなぜこの時か?信長が少人数で京にいたチャンスを光秀がものにした。二つ目は動機。大体の怨恨説は否定しているが、家康の饗応時に信長が光秀を足蹴にしたらしいというフロイス日本史の噂話は残している。これは秀吉が記させた「惟任退治記」の具体的な記述のない怨恨説の拡散のひとつではないか?
第二部 さまざまな謀略説を検証する
足利義昭黒幕説
イエスズ会黒幕説
明智光秀無罪説
羽柴秀吉黒幕説
徳川家康黒幕説
毛利輝元黒幕説
長宗我部元親黒幕説
本願寺黒幕説
高野山黒幕説
堺商人黒幕説
朝廷黒幕説
これだけ黒幕が並ぶと、返って信長の偉大さが伝わるか?
本書は当然全ての説を論拠を持って否定している。しかし唯一羽柴秀吉黒幕説の最大の理由、中国大返しの成功の理由を謀略ではなく、幸運の産物であるとしていることは、簡単すぎて不満ですが、ここに付け入る隙がある…
結論 本書には謀略説であろうと、論者と出典を明らかにしているので、本能寺の変に興味のある方には参考になる良書です。
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事実をたんたんと整理された本書は
遅れて歴史好きになったものにとり
かけがえのない良書である
本筋に戻ったことになるのであるが
さみしさも残る
写楽が斉藤十兵衛だったのも・・・
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業界の大御所や話題の研究者に理詰めで反論・批判している姿が心地よい。
反論・批判への反論が聞こえて来ないのは、黙殺してるのか避けているのか、それとも気付かないのか。
いずれにしても、議論の応酬を期待するのだが。