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舞台は中国。壊れかけたお社の中で、今は落ちぶれた主人公が、和尚を相手に子供時代の身の上話をする、と言うのがこの小説の体裁。
主人公は、村中が屠殺(差別用語として使っているつもりはありません。念のため)を専門にしている村に生まれ、肉をこよなく愛して育ちます。浮気をして家を出た父親、肉料理の名手であるその愛人、後に残った肝っ玉母さん、主人公に眼をかける村の実力者、と個性的で魅力ある人物がたくさん出てきて、善悪も愛憎も一筋縄ではいかない関係を繰り広げていきます。
この昔語りに、「現在」の主人公が挟まるのですが、今は大人のはずの主人公の語り口は子供のころと変わらない。描写される状況も、幻想的だったり、主人公が知るはずもない過去の話だったり、虚実ないまぜです。
そもそも一番初めに「おいらの話は『ほら』じゃない」って書いてあるくらいのほら話。ほら話って楽しいよね?
ぐいぐい引っ張っていってくれる語りについていけば、「うおー、おもしろかった!」と言って読み終われるような本です。初期の作品でガルシア・マルケスに比べられたことがある人みたいですが、それも納得。
舞台が中国で食肉文化が描写されるので、犬とかロバとか猫とかの肉が出てきて、ちょっと食欲減退な感じですが、そんなに残酷なシーンはでてこない、と思います。でも繊細な方だと違うのかな…。まあ人間生命を食べずには生きられないわけだし。
肉が傷まないようにホルマリンを注入しちゃうとか、「中国の食品やばいよ!」みたいな旬な題材もでてきて興味深いんですが、それが吹っ飛ぶような濃い語りでした。主人公が子供だからか、主要モチーフが食と性だからか、善悪を吹っ飛ばすような異様な逞しさがあるんですよね。大陸だからかしら(←島国の人の偏見?)