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命の番人 難病の弟を救うため最先端医療に挑んだ男 みんなのレビュー
- ジョナサン・ワイナー (著), 垂水 雄二 (訳)
- 税込価格:2,750円(25pt)
- 出版社:早川書房
- 発行年月:2006.4
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紙の本
もし家族が、治療法のない難病に侵されたら・・・。
2006/08/12 22:02
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:求羅 - この投稿者のレビュー一覧を見る
大工のスティーヴン・ヘイウッドは、29歳の時、ある難病に侵される。
病名は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)。ALSは、運動神経細胞が少しずつ死んでいく病気で、患者は発病から3〜5年で亡くなることが多いという。有効な治療法はなく、脳の腫瘍(ガン)でさえ、ALSに比べると軽いというのだから、その深刻さがよく分かる。
もし、家族の一人が治療法のない難病に侵されたと知った時、自分がどういう行動を取るか、想像してみてほしい。
ショックのあまり呆然とする。事実を受け入れられない。泣き叫ぶ。嘆き悲しむ。運命を呪う。宗教に救いを求める。治療できる医者を探す。余生を楽しく過ごさせてやろうとする。大方、こんなところだろうか。
しかし、スティーヴンの兄・ジェイミーの取った行動は、このどれとも違う。
弟を救うべく、最先端の遺伝子医療の分野に乗り出し、ALSに敢然と立ち向かっていくのだ。エンジニアで起業家の彼は、門外漢ながら、財団を立ち上げ、医師や研究者からなるチームをつくりあげ、治療法を見つけ出すことに奔走する。時間との勝負だけに、ジェイミーの奮闘には鬼気迫るものがある。人は覚悟決めた時、ここまで真剣になり、自分の限界を超えることができるのか、と圧倒されっ放しだった。
言うまでもなく本書は、ノン・フィクションである。映画やドラマなら、ハッピーエンドで幕を閉じるのかもしれないが、現実はそれほど甘くはない。研究が思うように進まず、いたずらに時間が過ぎていくことに焦燥感を募らせていくジェイミーの姿に、読んでいて息苦さを感じた。
本書は、ヘイウッド家の挑戦に迫った人間ドキュメントであるとともに、現代の最先端医療の問題と課題を鋭く描いた科学読み物でもある。
人はどこまで命を操作できるのか—。この問いかけに対して、人類は答えを模索している最中である。本書で問題になっているのは、遺伝子治療そのものの科学的議論というより、それをどう活用していくか、という生命倫理に係わる問題である。
研究から治療法への転換をスムーズに行うにはどうすればいいのか、見込みの薄い治療法で患者にリスクを負わせることは適正なのか、誰がどのような規準で実験に認可を与えるのか、製薬会社の新薬開発費の回収と人の生命尊重との折り合いをどうつけるか(病気が特許で金儲けの対象になっていることの是非)等、本書は、現代の生命倫理が直面している問題を浮き彫りにしている。
1ヶ月ほど前、アメリカのブッシュ大統領が、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)研究への連邦資金支出を拡大する法案への署名に拒否権を発動したとのニュースがあったが、“生命”を巡る問題は、簡単には解決しそうにない。
先に、本書はノン・フィクションだと述べたが、“客観性”という点では少し疑問を感じる。
ヘイウッド家に襲い掛かった運命と時を同じくして、著者のジョナサン・ワイナーの母親は、別の難病に侵された。そのことから、本来なら第三者的立場で冷静にものごとを見つめるべきなのに、著者はヘイウッド家に感情移入し過ぎてしまっているのだ。穿った見方かもしれないが、美しいラストは、著者の希望(願望)が込められているように思う。
けれど、感情に流されてしまいそうになる自分を戒め、ジャーナリストとしての立場と、病気の家族を抱えるひとりの人間としての立場との間でもがきながら書かれた本書は、熱い血が通った説得力のある良書であり、ジャンルの垣根を越えて読む者の心を強く揺さぶる。
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