紙の本
中国の鼓動を、まるで聴診器で聞くような一冊。
2006/07/19 17:19
16人中、16人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:和田浦海岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
まえがきは
「2004年春、上海の日本総領事館で、一人の館員が、このままでは国を売らない限り出国できなくなるとの遺書を残して死んだ。私は、そのときの総領事であった」とはじまります。
あとがきには
「2004年11月、帰国と同時に入院した際に医師から告げられた最終診断は末期がん。・・抗がん剤の副作用で頭が朦朧とするなか、薬で痛みを抑えながらパソコンに向かい、家族、友人、同僚の激励に後押しされながら何とか書き上げることができた。・・最後に、本書を、上海で自らの命を絶った同僚の冥福を祈るために奉げる。・・」とあります。
第九章「深刻な水不足問題」から第14章「転換期の軍事政策」までがつながりが深く、私には、読み甲斐がありました。
すこし感触を味わいたいという方には、第五章「ココムと対中技術規制」が、6ページほどですから立読みに好都合。
ココム(対共産圏輸出統制委員会)で、アメリカから日本の安全保障の杜撰さの指摘され。ヨーロッパから「日本は平和友好条約まで結んだ中国を信用しないのはおかしい」と皮肉を浴びせられ。その後に、天安門事件が起きて、ヨーロッパも対中姿勢を硬化させて経済制裁に踏み切る。という様子を簡潔に示しております。
チャーチルは
「民主主義というのはろくでもない主義ではあるが、しかし、ほかの主義よりはいいところがある」と言ったそうですが、そんなことを思い浮かべるような言葉が、本文にありました。
「文革時代のひどさを知っている世代は、なにも現在の50代、60代の人たちに限らない。現在の40代でも小学生のときの体験、記憶として強烈に残っている。トイレに入り、床に毛主席の写真が掲載された新聞が落ちていようものなら、用を足すことなど忘れて飛び出したという。万一後から来た人に『あいつは毛主席の写真を踏んでいた』などとあらぬ告げ口をされると、小学生であってもどこかへ連れ去られるといったことが日常的に起こっていたからである。彼らは共産党が何をしてきたかを自分の目で見、体験してきたわけで、意識的に共産党のスローガンに対してものすごく醒めている。だから、政府が躍起になって、戦争で日本がどれだけ悪かったかという教育を一生懸命してみても、その片方で彼らは『だけど、共産党はもっとひどかった』と平気で語る。もちろん、絶対に信用できる人間に対し、隠れてではあるが。
彼らは感覚でわかるのだ。共産党は49年以来の大躍進政策、その後の大飢饉、文化大革命で四千万人もの中国人を殺してきたといわれている。さらに、89年6月4日の天安門での虐殺。共産党の過去の失政を隠蔽したり、現在の目に余る貧富の格差や腐敗・汚職などから国民の目をそらすために反日教育があることを。」(p50)
著者の厚みのある体験・見聞を示しながら、内側からの中国を、本文の中でゆっくり咀嚼するようにたどっておられます。
最後の方には、
「この国が抱えるあらゆる問題がブラックボックス化し、その不透明感が大きな脅威となっている。それは同時に中国自身が自滅する脆弱性にもつながっている」(p315)
「中国の体質を変えることは容易なことではない。
中国の存在がこれほど大きく、世界に影響を及ぼすようになったため、中国の国内問題が、中国の内政問題にとどまらなくなってしまった。中国の問題はもはやすべてが地球的規模の問題だといって過言ではなかろう。・・対岸の火事視することはできない時代になってきた。・・」(p321)
とありました。
テレビの中国解説の喧騒に、痺れを切らしておられる諸兄に、
心して読む一冊が、偶然のようにさりげなく現われました。
かけがえのない一冊として手渡されたような読後感を持ちます。
紙の本
中国と言う国を知るのに、格好の1冊。
2007/05/19 01:47
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うっちー - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者の杉本氏は、あとがきにこう書いている。
「(末期がんの診断を受け)家族の将来がひたすら案じられた。限られた命をどう有効に使うか、時間との勝負となった。」
その前に、彼は上海で同僚を失っている。その為、「上海で自らの命を絶った同僚の冥福を祈るために奉げる」ともある。
2004年春、上海の日本総領事館で「このままでは国を売らない限り出国できなくなる」との遺書を残して一人の館員が自殺した、あの事件のことである。その無念さと、自らの残り少ない命を見つめて、使命感で書き残した、現代中国を分析した本である。
文章は、しかし、情に流されることなく、淡々と冷静に進められている。外務省入省時(1973年)のことから書かれているので、当時の中国の様子、日本との関わり、そして、今の日中関係に至った経緯がわかりやすい。しかも、まさに現場にいた人の言葉であるので、説得力がある。
それにしても、これほどの「常識」の違いがあるとは。日本の常識のまま中国に進出すると、いかに痛い目にあうのか。それを実感させる具体例も多々挙げられている。
中央の方針でも地方政府の不利益になることであれば抵抗する体質、役人の腐敗、都会と田舎の凄まじい格差、深刻な水不足、人口問題、無戸籍児童の多さ…。いずれも、今後の中国を占う上での大きな問題である。
反日運動の背景についても詳しい。共産党宣伝部が、すべては国を挙げての愛党教育のために反日教育を行ってきたのだと、歴史的なコンプレックスにも言及しながら書いている。
一体、日本の外務省は、国益を守るために努力しているのか、きちんと手をうっているのかと、もどかしく思うことも多い。しかし、作者が、外務省役員として、いかに日本の立場を有利にし、中国とうまくやっていくために行動したのか。具体的に書かれているので、少しは見直すことができた。
1860年にシュリーマンによって書かれた、中国と日本の比較論も取り上げられていたが、これは、日中の体質の違いを表していて興味深く、また、日本人としては誇らしい。
巻末にある付録「日中を隔てる五つの誤解と対処法」「日本と中国:過去をめぐる摩擦七つのポイント」は、両国の問題をどう考えればいいのかが、コンパクトにまとめられていて、ありがたい。
中国と言う国を知るのに欠かせない1冊である。
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もと上海総領事が末期癌を宣告され闘病を続ける中でつづった日本と中国への警鐘の書。著者は1949年生まれで、70年代に中国に留学する。その時代をいくらかでも知っているものにとって、著者が描く中国は決して誇張ではない。今や世界が注目するほどめざましい発展をとげているかにみえる中国が実はいかに危ういか、それを救うにはどうすればいいか、草の根の援助運動をしてきた著者の目は厳しくまた温かい。
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自殺した在上海日本総領事館員の当時の上司が病床で書いた、ということで重いかなーとか思ってたけどそういうものでもなく。淡々と筆者の経験が綴られていく。「え、中華民国って何?」レベルの無知な私でも読み進められる書き方だし、中国と日本の関係について色々と知ることができて良かった。でも一部の人達に都合のいいように解釈されて利用されないかがちょと心配。[2006年読了]
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チャイ科は読んだほうが良いです。
今まで読んだどの中国関係の本よりも信じられる。
少なくとも今まで読んだ本のようにいぶかしい気持ちにはならなかった。
元上海総領事である著者が自らの現場での経験を基にして表したリアルな著作である。
中国を擁護するわけでもなく非難するわけでもなく
いかがわしいデータなんかもとにしないで書いているからだ思う。
反日デモを見て中国人を毛嫌いする人がいたら読んでほしい。
「中国政府と中国人は別に考えていただきたい」
著者ははっきりとそう述べている。
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日本と中国との関係について、ここまで骨太な議論が出来る外交官がいたことに感服した。
中国のカントリー・リスクとして著者があげる諸点(水問題、都市と農村の格差、都市における急激な発展の裏側の病理など)はどれも深い。
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中国に住んでいてもなかなか見えない日本領事館の活動内容。
こんなええことをやっていたのかと
気づかせてくれました。
中国在住邦人必読。
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隣国のすさまじい話がある中、日本のちょっといい話も載っていたりします。
総領事館の仕事っぷりは、確かにマスコミは宣伝していません。
悪い話しかニュースにならないってことですよね。
とんでもない日本人を保護し、お世話をやく、大変だな〜これを読む限り、私の印象はかなり変わりました。
どんな場所だって、いいところ(人)も悪いところ(人)もあるんだよね。
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杉本信行 著「大地の咆哮、元上海総領事が見た中国」を読了。
久方ぶりに外交官の在るべき生き方に出会ったような気がする。こういう人材が、若くして亡くなられたのは誠に残念なことだ。
特に、かの国の深刻な水不足問題、農民や環境の問題への指摘は、示唆にとむ物であった。
我が国と中国との関係には、「歴史と外交」の問題が大きく存在する。
「歴史」で「外交」をしてはいけない。
「外交」で「歴史」を論じてもいけない。
「歴史」で「外交」する最悪の例は、日本・中国・韓国・北朝鮮の例である。
「歴史」と「外交」はどこまでも別の問題でなければならない。
この事が、真の善隣友好につながると思う。
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よみやすくて、日中関係のことを以前よりも理解できる点がたくさんできました。
是非読んでみてください。
北京旅行の供でした。
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話題性の高い本だったが、正直内容はさほどおもしろくない。中国に対する見方も「一般的」だし、上海総領事ならではの視点と言えるようなものもなかった。特に巻末の付録は最悪。中国人に歴史認識に関して責められた時の対処法マニュアル。こういうマニュアルなんてつくっているからいつまでも日中間に歴史認識問題はなくならないのではないだろうか。
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領事が見た、ということで、一次的資料(というのかな?)のような要素と政治的主張が絡み合っていて、そのあたりを分けて読めばなかなか面白い本ではないかと思います。中国のことを何も知らずに批判するのは一般的に許されることではないと思いますので、批判する前に是非。w
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感動。泣くようなところはないはずなのに、私はなぜか涙が出たりしました。こんなに中国のために、日本のために頑張っていた人がいたなんて。外務省なんて腐れ役人ばかりのイメージでしたが、こんな立派な外交官もいるんだな、って感動しました。台湾の国際会議参加問題で、著者が奔走するところ、読み応えがありました。
杉本さんのような立派な外交官がいるからこそ、私たち日本人が中国でのんきに暮らすことができるんだ、と本当にありがたく、感謝しました。
思い出すと、05年春に、上海でも大きな反日デモがあったとき、上海総領事館の呼びかけはすごく適切で、HPには動きがあるたびに逐一更新されていて、「現在デモ隊○名が○○周辺で投石しています、ご注意ください」「何月何日にどこそこでデモが行われるという情報あり」という風に。その少し前には、イラクで香田さんがテロ組織に殺された事件などあって、外国在住の日本人の安全に対して、どこまで政府(外務省など)が助けてくれるのか、関心もって手をさしのべてくれるのか、不安に思っていた時期だったので、上海領事館の真摯な態度には、そのときも「ありがたいなあ」と思ったのを思い出しました。
杉本さんの中国に対する考察も素晴らしく、中国に関心をずっと持ち続けていろんな人の意見を読んだり聞いたりしてきたけど、誰よりも中国の現状を見つめ、適切な意見を持った人だ。ODNの件、水不足のこと、台湾統一問題、宗教の統制・・・。
中国が好きで、中国にやってきて暮らしている私は、日々自分の生活だけを送るのではなく、日中友好のためになることを何かやらなくてはいけないような、そんな気がしてきました。
第一章 中国との出会い
第二章 安全保障の目覚め
第三章 対中経済協力開始
第四章 日中友好の最高峰
第五章 ココムと対中技術規制
第六章 台湾人の悲哀
第七章 対中ODNに物申す
第八章 対中進出企業支援
第九章 深刻な水不足問題
第十章 搾取される農民
第十一章 反日運動の背景
第十二章 靖国神社参拝問題
第十三章 中国経済の構造上の問題
第十四章 転換期の軍事政策
第十五章 嗚呼、在上海総領事館
第十六章 中国の農村にCNNを(中国共産党と宗教)
すばらしい本に巡り会うことができました。
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命懸けで国益のために奮闘する外交官の心意気に胸が熱くなるし、地理的に引っ越せないお隣さんなんだから上手くやらないと、って意見はとても分かる。分かるんだけどこればっかりはどうにもこうにも…。
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中国に関する本になかなかいいものがないという実感がずっとあった。
中国の恐ろしい部分をまるで面白がるように、
そして読んでいる人に中国に対する恐怖感を植えつけるように共産党の一党独裁の恐ろしさを書いている本がおおい。そしておそらくそういう本が売れるのだろう。
過去とそれから現在の政治的矛盾など、
わかりやすく解説されている。
元外交官という立場から書かれているため、
確かに文体に少し、あるいは内容に少し、
お役人的なニュアンスを感じないでもないが
靖国問題などは本当にわかりやすくかいてあり、
また解決の為にどういう努力が必要かということまで書いてある。
小泉首相が靖国神社を参拝すると、在中日系企業への締め付けが厳しくなる。
どうしてそうなるか、などにも言及しており
「見て知っていたこと」が文章となって解説がついて目の前に現れる充実ぶり。
「肌で感じる中国」が著者の中にあるからこそ
という感がある。
一度でも中国に行ったことがある人や、
仕事で中国にかかわっている人は
この本を読んで、
納得するのも反発するのもそれはいいと思うけれど、
読まないというのは非常にもったいない。
中国にいました。というと必ず
「これからは中国の時代ですから、いいですね」
といわれる。
かれこれ6年くらいその考えに疑問を抱いてきた。
もちろんあと10年くらいはいい時代が続くかもしれない。
でもこの国にはあまりに解決できない矛盾が多すぎる。
「これからは中国の時代じゃない」
長い目で見るとそうおもう。
私は中国脅威論者ではないが、
こう思わずにはいられない。
まだ同じ意見の人には数人しか出会ったことはないけれど、
この本に出会えてよかった。