紙の本
表題作の評価がイマイチらしいようですが、わたしは好きですね。ミステリとしては破綻しているとは思うんですが、作者の思いが伝わってきて。他の作品も、いかにも島田らしいです
2006/08/04 19:36
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
さてさて、このところ再び活動を活発化させている島田荘司の書き下ろしを含む中篇集です。ほぼ同時期に出た『帝都衛星軌道』は、島田自身が傑作と言い切るに相応しいものでしたが、個人的には不可能状況、怪奇趣味(難病を怪奇とは、失礼な話なんですが)溢れるこの作品集のほうが好きかな、なんて思います。
収められているのは四つの、作品で
「溺れる人魚」は書き下ろし。
「人魚兵器 」は、二〇〇五年八月『名車交遊録』所収。
「耳の光る児」も、二〇〇五年八月『名車交遊録』所収。
「海と毒薬」は、二〇〇四年四月『島田荘司「異邦の扉」に還る時』所収。
となっています。ちなみに装幀は岡孝治、装画は記載がありませんがロセッティか誰かでしょうか、西洋名画風です。
各篇に簡単に触れると、72年のミュンヘンオリンピックで大活躍をしたポルトガルの女性天才スイマー アディーノ・シルバは、結婚後、奇矯な行動を取るようになります。原因不明の症状を抑えるために取られた処置が、彼女から水を、感情を、そして幸福を奪っていきます。離れた場所でほぼ同じ時間に起きた自殺と他殺、その謎と一人の女性の悲劇を描く「溺れる人魚」。
キヨシが偽物、と断じた人魚の剥製。それにそっくりの、でも骨がきちんと繋がった不思議な生き物の写真をモスクワ郊外の診療所で見たというロシア青年が現れた。第二次大戦下のベルリンで写されたという写真をめぐる「人魚兵器 」。
旧ソビエトだった国々で、生まれた4人の耳の光る赤児。ロシア政府の要請により世界各地から集められた専門家たちは、彼らの親たちに共通点を見つけ出したが、チームはロシア政府の手で急遽解散を余儀なくさせられる。一人、ウクライナの地に向かったキヨシの「耳の光る児」。
石岡のもとに届いたのは、20年以上前に『異邦の騎士』を読み、その本によって救われたという女性からの手紙。恋人に去られ、火傷で顔に致命的な怪我をした女性が絶望の果てに手に入れたのは、モルディヴの海と同じ色をした美しいブルーの液体、劇薬 硫酸D。苦悩の果てに、彼女が選んだ「海と毒薬」
個人的に言えば、ヘタレの石岡が出てこない、それだけで心が休まります。唯一、石岡の影が仄見える「海と毒薬」でも、殆どは悲劇に見舞われた女性の独白です。
どの話も印象的で、甲乙つけがたい出来です。ただし、お話は面白いのですが、ちょっと無理だろう、というのが「溺れる人魚」のメイントリック。ま、それが駄目であれば殺人は起きない、という含みのあるトリックですが、殺人が終った後のほうは、あまりにご都合主義。でも、それが物語りの足を引っ張らないのは、殺人事件のなぞよりも、主人公を見舞った悲劇が圧倒的だからでしょう。
トリックに破綻があっても、作者が訴えたかったことが十分に重ければ、作品は必ず評価される、という見本みたいなものでしょう。悲劇が、その歴史の暗さがどの話にもついて回りますが、少し軽めなのは「耳の光る児」。それにしても、話のタネになるような不思議な病例などを、よく見つけるものだなあと感心します。
泳ぐことさえできなくなった元天才水泳選手が自殺し、その「原因」を作った医師が殺害された。しかし不可解なことに、離れた場所であったにもかかわらず、同じ時間に同じ拳銃が使われたというのだ…。書き下ろしミステリー。
〈島田荘司〉1948年広島県生まれ。武蔵野美術大学卒業。81年「占星術殺人事件」でデビューを果たす。作品に「御手洗潔シリーズ」「吉敷武史シリーズ」などがある。
投稿元:
レビューを見る
6月23日購入。29日読了。中編集です。えー,ミステリーって言っていいのか…。まあ,お話として楽しめましたが,文章ヘタになってない?
投稿元:
レビューを見る
奇想天外なネタ・・・
どっからネタを拾ってくるんだ、この先生。すげー。
短編集です。「耳の光る児」は歴史+科学ミステリィ。幅広いね〜。デンマークの人魚像、見に行ったなあ〜なんて思いながら懐かしく読みました。最後の短編は「異邦の騎士」の続編?みたいなことがふれこみだったが、全然違うお話です。
投稿元:
レビューを見る
四篇からなる短編集。表題作のみ書き下ろし。ミステリとしてまともなのは表題作だけで、残りの三篇は作者の妄想じゃないかと、その出所の状態を心配してしまった。表題作にしても、ネタとしては弱いものの、応用次第ではもっといい出来になったろうにと残念に思う。どうして余計なことにこだわるのだろう。本格に対して何かしらの限界を感じてるのだろうか。新しいミステリを模索してる最中なのだろうか。いずれにしても中途半端であることには変わりがない。食材を見極める眼はまだ健在なのでそこまで危惧はしてないが、調理方法が偏りすぎている。なので読者のバランスが徐々に崩れてくる。手遅れになる前に策を講じてほしいものだが……。
投稿元:
レビューを見る
御手洗潔が出てくる〜と期待して読んだら…ん〜、物足りない。でも、ヨーロッパの地理とか歴史とか色々ためにはなったかな。島田さんの作品にしては「大人しい」作り。最近はトリックとかよりも薀蓄系?なのかな。ミステリーって感じじゃなかったよね、この本は。
投稿元:
レビューを見る
これをミステリというカテゴリに入れていいのかというと、正直疑問なところですが、話としてはまぁまぁ面白く読めるとは思います。
文章が少し気になったのですが、もしかしてわざと翻訳したような(言い回しが少々ぎこちなく感じる)文体にしておられるのかなー、と思ったりしました。「病を得る」とか…あまり日本語として使わなくないですかね…?
投稿元:
レビューを見る
最近の御手洗シリーズは、少し好みの範疇を超えてしまったかもしれないと思う。
ロボトミーやナチスの人体実験など題材自体は好みなのだけど。
ハインリッヒ視点だからわざと文体を硬くしているのかな。
投稿元:
レビューを見る
人魚をテーマとした短編集。。。ここのところ間違えて短編を手にしてしまう。一応御手洗シリーズとなるのかな。やっぱり石岡の語り手が好き。
投稿元:
レビューを見る
初島田作品。普通に面白かった。理論立てて書いてるような印象。御手洗シリーズだとか、知らない分ちょっと物足りない印象はあったものの(ミントンハウスとの繋がりだとか)楽しめました。面白かった。何か実際あるんじゃないかと思わせるような報告レポート、みたいな印象も。
投稿元:
レビューを見る
解かれてみると「おおぅ、そうなのか!」と思える。見た目がそのまま真実ではない。そんなんありか!とゆー人体実験はちょっとファンタジー(SF?)でしたね。好きだけど。
投稿元:
レビューを見る
『溺れる人魚』
ミュンヘン・オリンピック水泳で4つの金メダルを獲得したアディーノ・シルヴァ。オリンピック後コーチ・ブルーノ・ヴァレと結婚した彼女の転落。性的な興奮を抑えられないアディーノ。麻薬、暴力など問題行動も増え、ロボトミー手術に踏み切るブルーノ。彼女に間違った診断を下しのうのうと生きるコスタ教授。彼のテレビ出演ご自殺したアディーノ。同時刻同じ拳銃で射殺されたコスタ教授。ハインリッヒがたどりついた事件の真相。
『人魚兵器』
御手洗潔シリーズ
ヤン・ユックが持ち込んだ人魚のミイラと言われる置物の正体を解析した御手洗。その過程で聞いたクリミア半島にすむ老人の持つ焼けた人魚の写真の謎の真相に挑む。
『耳の光る児』
御手洗潔シリーズ
ロシア各所で発見された耳の光る子供。紫外線を当てると光る謎の耳。母親には無い共通点。「インぺリット」に隠された秘密。
『海と毒薬』
御手洗潔シリーズ
石岡君から御手洗への手紙。石岡君が出会った女性からの手紙。男に騙され転落した女性の人生。
投稿元:
レビューを見る
『溺れる人魚』『人魚兵器』『耳の光る児』『海と毒薬』の短編集…です。
短編と云うには忍びないほど中身は濃い4編です。
最後の「海と毒薬」だけが、他の3編とはちょっとテイストが違っていますが、基本は奥の深いミステリー。
謎が解き明かされたときの法や国家、時代、医学と云った平民には考えも及ばないような、抗いようのない波に飲まれた犠牲者達の切ない現実。
学がない私などは「実話?」と思わず信じてしまうほど。
世界の裏側、自分の知らない世界というのは確実にあって…人間の恐ろしさ、弱さに迫るものがあります。
それにしても…よく勉強してあるなぁと驚きの作家さんでありました。
投稿元:
レビューを見る
090311貸出
短編集だったので意外。あと、表紙にちょっとだまされた。
キヨシはもう、メインでは出てこないのか…
投稿元:
レビューを見る
ハインリッヒは石岡君と違って察しがいいわあと思ってたら後半まさかの石岡君からの手紙!!!うわああー!!!
過去と向き合い未来に一歩踏み出している石岡君に涙
投稿元:
レビューを見る
表題作のみがミステリー調だった、というのと、その表題作を読み終えた直後にこれがシリーズものの一部だと知ったこともあってか、個人的な気持ちの問題なんだけど、その後の話の印象が薄い。陰謀説とか大好きな性質なのでものすごくわくわくはしたけども。
とりあえずシリーズものはおしなべて表紙にその旨を記すべきだと思う。有名な人なんだから把握しとけとは言わずに。(友人に愚痴ったら逆にそう言って鼻で笑われた。ちくしょう。憎い。)