紙の本
ブッシュが最も倒したい男
2006/08/31 17:05
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:植田那美 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ブッシュが最も倒したい男」という言葉を聞いて、あなたが最初に思い浮かべる人物は誰だろうか?もし、即座にウーゴ・チャベスの名を挙げられたとすれば、あなたには本書はおそらく必要ないだろう。もし、あなたの答えがマイケル・ムーアだったとすれば、本書は『アホでマヌケなアメリカ白人』の100倍ほど堅苦しい本だが、一読をお勧めしたい。もし、あなたが条件反射的にオサマ・ビン・ラディンやサッダーム・フセイン、その他テロリストと呼ばれる有名人を思い浮かべてしまったとしたら、ウーゴ・チャベスとは誰かということを知るためだけにでも、本書を手に取ってみることは悪くないと思う。
ウーゴ・チャベスとは誰か?「ブッシュが最も倒したい男」という本書の宣伝文は、彼をメディアの死角に追いやってきた日本では過大評価のように見えるかもしれないが、本書を読み終えてみると、実に簡潔にして的を射た表現だと思う。南米の産油国ベネズエラの大統領であるチャベスは、選挙によって民衆に選ばれた革命家であり、新自由主義的グローバリゼーションに対抗する「もう一つの世界」を象徴する存在でもあるからだ。米国は、OPECやラテンアメリカ諸国の団結、スラム住民への所有権の授与、土地改革、識字教育、先住民の権利保障といった改革を推進するチャベスを政権の座から引きずり降ろそうと必死になっているが、民衆の圧倒的支持を得た彼を「倒」すことはできずにいる。
本書は、キューバ革命の英雄であるチェ・ゲバラの娘アレイダによる、チャベスへのインタビューという形式を取っている。チャベスは、初対面のアレイダに対して「あなたはいつもここにいる」と言い、彼女の父ゲバラが彼の中に息づいていることを仄めかす。本書を通じて印象的なのは、チャベスという人物が、世界に新しい可能性を生み出しつつある歴史の創造者でありながら、つねに自らを歴史の中で相対化していることである。「指導者はある意味で、歴史によって条件づけられた歴史の囚人だ」という彼の台詞は、本書全体を貫くひたすら硬派なチャベスの知性と理想主義が、彼だけのものでなく、ベネズエラの、ラテンアメリカの、そして世界の民衆の意思によって作られたものであることを端的に示しているように思う。
本書を読み終えたとき、ふと想像した。いつか遠くない将来に、チャベスの娘がある人物にインタビューを申し込む日のことを。その人物は、初対面の彼女に向かってこう笑いかけるだろう。「あなたはいつもここにいる」と。そうやって歴史は語り継がれていくのかもしれない。「生きる者たちのために死んだ者は、死者とは呼ばれない」というチャベスの言葉の通りに。
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ラ米の外交は昨今芝居くさい。いわゆる右派も左派もどちらもうまく機能しないことには変わりないのでチャベスを批判するつもりもないが、彼の演説や会話を読んでいると滑稽に思えてしまう。ALBAってそんな適当に生まれたのかと腰が抜けてしまった。でも彼の話術が人を惹きつけることは確か。文書ではなく生できいてほしい。
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ベネズエラ大統領チャベス。
そしてインタビューアーは彼の尊敬するエルネスト・チェ・ゲバラの愛娘アレイダ・ゲバラ。
何かあからさまな反米ということでお笑いのネタになることもある(日本では、かも)チャベスですが、すごい人やなぁと思いました。
私たちが日本のメディアから受けるチャベスの印象っていうのは作られてるものだと思う。
チャベスやチェが他のゲリラと違うところは、かなりの勉強量、本当に市民のことを考えていることと明確ではっきりしたビジョンをもっていること。そして練りに練られた革命手段。
チャベスは民主的に選ばれた大統領であり4年に1度選挙があるという制約があるためキューバの場合とはまた異なるし、何より石油に頼っているという点が特徴である。この本の最後に訳者が解説しているとおり、石油というのは今でこそ力は持つけれども将来石油収益が激減すれば革命が危機に陥るという脆弱性は否定できない。今のやり方では、チャベスは否定したけれどもやはり石油がなければ何もできないと思う。そしてやはり、石油があるということで米国の対ベネズエラ外交はキューバに対するものとは違う。2001年に起こったクーデターをはじめ様々なところで米国は介入しているし、今でも寡頭勢力が力を失わないのはそこに米国の力があるんだろう。
今のところ、チャベスのかかげる理想郷にはベネズエラはなっていない。治安も最悪、貧困もなくならない、政治腐敗も存在する。
でもチャベスも言っているようにボリバリアーナ革命には相当な忍耐が必要であり、長い年月がかかる。
果たしてベネズエラは第二のキューバになれるのか。(キューバもいいところばかりではないけど)徹底的な農地改革に踏み切れるだろうか。
もう少し米国の介入であるとかチャベスの革命思想について勉強したいと思う。
でもその前に多分ゲバラやカストロ、マルクス、あるいはシモン・ボリバルなどについてもっと詳しくならないと理解できないんやろうなと思った。
社会を変えるには相当な勉強量が必要。
的はずれてるかもしれんけど、その本から一番学んだのはそういうこと。
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中南米の政治はかつてのチリの政治混乱が代表するように、米国に反するか組するかという軸を中心に動いている。いわゆる「アメリカの裏庭」はキューバ一国だけでなく、対立全土を包み込む規模の纏まりだ。その中でチャベスという人間の持っていたある種の政治的カリスマ性は、強烈な印象とともにいくつかの混乱も起こしている。そうしたことも含めて全体像がつかめたのは面白かった。だが、訳者も述べているように、チャベス亡き現在、後継のマドゥロがどのような働きができるかによってこの地域の将来は決まってくるだろう。
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ベネズエラの保健制度は分散化され破壊されていた。分散化も、新自由主義の謀りだ。教育面では、(中略)学校側が〈自発的寄付〉を保護者に課すという問題があった。これは自発的なものではなく、教育や保健に予算がほとんど回されてなかったため、保護者は寄付金の支払いを余儀なくされていたのだ。すべてが民営化されていた。生命が民営化されていたのだ。
中略
ベネズエラでは、石油産業が民営化されていた。この計画は、始まってから五年を経過していた。2002年、私たちはこの民営化過程を覆した。彼らは、石油公社の中枢さえ民営化し、それを米企業に委ねていた。彼らが引き渡していたものを想像してみたまえ!
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民営化、日本でも流行ったなぁ。サービスが行き届いて良くなりますよ、的な触れ込みだったけど…うーむ…
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ベネズエラの前大統領、故チャベス氏の人生や考え方について書かれた本。彼は度々ニュースに登場していたが、この本を読むまで考え方などは知らなかった。
アメリカ側に属するか否かで混乱していた頃の南米を見て来たチャベス氏は、国民やベネズエラ自身がどうやれば本当の意味で豊かになるかを模索し、実行していたことが分かった。
チャベス氏は既に死去してしまっているが、なかなか興味深い人物だと感じた。