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紙の本
生きる素晴らしさを全身で教えてくれた少年
2006/09/08 09:27
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆう - この投稿者のレビュー一覧を見る
不治の病に冒された少年と、棋士である妻との交流を綴った表題作をはじめ、友人の死や我が子の誕生など、生と死に関する出来事をありのままに綴った私小説。
とにかく最初の表題作から号泣してしまった。
不治の病に冒されながらも、自分の妻の足の怪我を心配している事を綴った少年からの手紙。
嘘がなく澄んでいて、わずか9歳ながらにも、人を思いやるすばらしい力を身につけていた少年の姿。
綴られている全ての事に感動し、ページを繰ることさえもままならないほど涙が溢れてしかたなかった。
この少年の死後、いつまでも著者とその妻の生き方や考え方に大きな影響を及ぼした事も、著者自身の渾身の筆を持って綴られていて、それがとてもよく伝わってきて心が揺さぶられた。
今まで、著者のエッセイは読んだ事はなかったが、小説とは違って飾られる事もなく、ありのままが丁寧に綴られており、心に響くものは小説よりも大きかった。
多分、そこには、血の通った真実という存在があったからなのではないかと思う。
飾らなくても、読み手の意図を量らなくても、真実には最初から備わっている動かせぬ力があるからだと。
「誕生」という我が子との出逢いを綴った編で本作品は締めくくられ、少年と出会った事で教えられたものがこの編にも繋げられていた。
生と死という両極端なものをテーマに綴られた作品だったが、それはいつも隣り合わせに存在して、めぐりめぐって繋がっている事をしみじみと教わった一冊だった。
紙の本
まるで神のような優しさ、少年が遺してくれた暖かな光
2006/08/03 09:35
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 なおこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説家大崎善生さんの私小説。
表題の「優しい子よ」は大崎さん夫婦とある少年の
ふれあいを綴ってある。
一度も会うことなく、メールや手紙だけのやりとりだったわずか三カ月間。
しかし、この思い出は深く、
これからもずっと心を暖めてくれる光のような出会いだった。
大崎さんの妻のホームページに一通のメールが届いたことから、この話は始まる。
9歳の少年を持つ父親からだった。
少年は治る見込みのない難病にかかっていた。
大崎さんの妻は女流棋士をしていて、息子が妻の大ファンなので、
色紙を一枚書いていただけないかという内容だった。
「まれに見るほどの優しい心と、
光輝くような勇気に満ち溢れた茂樹という名の少年」と、
子どもの頃に足を切断する寸前の大怪我をして、大きな手術を繰り返しながら育ってきて、今は女流棋士となった妻との出会いだった。
二人のメールのやりとりが続く。
茂樹君からは大事にしていた熊のぬいぐるみが送られ、
妻からは色紙や本、そして愛用のセンスが送られた。
茂樹君のメールにはいろんな夢と決意が綴られていた。
「こんどのゆめはいつの日か先生としょうぎのしんけんしょうぶをしてかつことです。」
「これからもいっしょうけんめい生きます。
そして先生をおうえんしていきます。
そしてよわいけどしょうぎはつづけます。」
「じぶんをよわいとおもわず力いっぱい今をいっしょうけんめい生きていきます。」
「もしぼくのことをおもいだされたらまたいつかおてがみくださいね。
これもぼくのゆめです。」
妻の足が痛くならないようにお祈りをしていますとも、あった。
妻と少年の間で数通のメールのやりとりがあった。
お見舞いに行く話も出たが、
病気で苦しんでいる姿を見せたくないという茂樹君の気持ちを尊重した。
彼からの最後の手紙は
やっとの思いで書いていることが伝わってくるような文面だった。
末尾には
「ぼくはいたいけど、あしはいたくないですか。
いたくならないようにおいのりしています」
と書いてあった。
「まるで神のような優しさ。」
「本当にありがとう、優しい子よ。
あれから妻の足は一度もいたくなってないよ。」
大崎さん夫婦にはその後、男の子が生まれたそうだ。
茂樹君が遺してくれた暖かな光は、いつまでも大崎さん一家を
つつんでくれるのだろうな。
表紙の少年のまっすぐな瞳を見て、そう思った。