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紙の本
オルガムスを巡る社会的な見方の変遷を解明した文化史の傑作!
2006/10/01 16:02
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
かなり煽情的なブックカバーである。さぞかし、その種の図版と話題が満載されていることであろうと思って頁をめくると、図版や写真は全く載せられておらずびっしり活字が組まれており、巻末には五十頁に渡って詳細な註や参考文献一覧表が掲げられているのだから驚かされる。このことからも分かるように、本書はオルガムスを巡る歴史を論じた学術的な書物である。
本書は、オルガムス(男女が愛し合う中で達する性的絶頂を指す言葉)を巡って社会がどのような言説を展開してきたのかということを、十六世紀から今世紀までのイギリス・フランスを中心として、終章ではアメリカを加えて論じている。五百頁にも及ぶ浩瀚な書を要約することは難しい面もあるが、思い切ってアウトラインを示すとすれば、以下のようになるであろう。
ルネッサンスを迎えた西洋社会は、長く続いた宗教的な束縛が緩み始め、性的な規範も徐々に緩やかになって行ったが、十七世紀になるとその規範が再び強化され、社会も概して不寛容になって行った。続く十八世紀の啓蒙時代を迎えると、宗教的な不寛容や社会的な規範に疑いの目が向けられるようになり、性的な領域も開かれるようになったが、十九世紀になるとその反動と資本主義の発展という社会的な要請もあって、性的な規範はかってないほど強化され、それは二十世紀前半にまで影響を及ぼした。しかしながら、第二次世界大戦の終結後から性的な規範は大きく崩れ始め、1960年代の世界的な性革命によって、かっては恥ずべきものとされてきたオルガムスを男女ともに追求することが当然と見なされるようになった・・・。
著者がオルガムスを巡って論じる際の特徴として、当時の人々の本音と建前、社会の表と裏の貌を描いていることが挙げられる。例えば、十七世紀の社会は性的な規範が厳しい時代とされているが、著者は英国のサマセット地方に残されている古文書から、この地方の農民たちの自由奔放で粗野とも言えるセックスライフが繰り広げられていたことを明らかにしている。ある女性農民は、女性性器を指す卑猥な言葉を人目を憚らず口にしたという。また、十九世紀の英国ビクトリア時代は厳格な規範が支配していたとして知られているが、その裏では男性たちは夜な夜な娼婦漁りに狂奔し、その証拠にロンドンだけでも十万にも及ぶ娼婦で溢れかえっていたという。その一方で、女性は厳格に管理され、オルガムスなど追及できる風ではなかったと言われている。それが、口に出して言えるようになったのは1960年以降というであるから、十九世紀の性的な規範の影響の強さには改めて驚く他はない。
著者は、終章でオルガムスについての考察を現代アメリカに広げ、アメリカが1960年代の性革命を経験していながら、最近著しく宗教色を強め、性的な領域についても寛容を失っていることに深い危惧を表しており、既に多くの先進国で、コンセンサスが与えられている「妊娠中絶」「同性愛者の結婚」についても、アメリカ国内では賛否両論があり、文化的に社会が二分されて印象を与えると述べている。
本書は、以上のように、オルガムスという微妙な領域に社会史的な観点から切り込み充分な成果を挙げているが、史料が残されている状況から、対象としているのがフランス・イギリス・アメリカのみであり、他の諸国の状況が不明であるのは何とも残念なことである。また、残された史料の関係から難しいかもしれないが、この問題を巡る日本の歴史的な状況につていても是非知りたいところである。
なお、字数の関係で紹介はできなかったが、書中には、「自意識の発生」、「自慰に対する長い禁圧の歴史」、「娼婦と性病の関わり」、「戦後間も無く行われたキンゼイ報告書の衝撃的な内容」など重要な問題が要所要所で触れられていることを申し添えておきたい。
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