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紙の本
構造改革がぶち壊そうとするものを作った男
2006/10/25 23:31
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
田中角栄。新潟の貧農のせがれから身を興し、類いまれなる努力と才能と政治力とにより、総理大臣の地位にまで登りつめた男の栄光と挫折を描いた伝記小説である。
天才大悪党というタイトル、実際に本書を通じて常に引用されるその呼び名にもかかわらず、著者が描く角栄像は、日本社会の底辺でじっと耐え、生き抜く地方の民衆を親身になって救おうとする献身的な政治家の姿である。中央官庁やファミリー企業を通じて巨大な利権をあさったこの男が、常に追い求めたのは、日本のすべての地方が平等に栄える世の中であった。その基礎となったのは、尊敬する理研会長大河内正敏の唱えた農工両全主義であり、日本列島改造論もこのような考え方にもとづいて出されたものであった。
角栄は意外なことに、日本をアメリカへの隷属から解放しようと奮闘し、アメリカに向かってノーと言った戦後最初の、おそらくは唯一の政治家であった。しかし、そのことがアメリカを怒らせ、彼の政治家としての歯車は次々と狂ってゆく。東南アジア諸国歴訪でのボイコット運動。金権政治に対するマスコミからの突き上げ。平民宰相として人気を博した角栄は次第に国民の恨みを買う存在となってゆく。そして、ロッキード事件...これらの背後にアメリカの陰謀、特にCIAの活動を匂わせるのは、少々ミステリーじみているが、まったく根拠のないことではない。
本書における中心テーマの一つは、角栄と政官界のエリート達との戦いである。故郷新潟であれ、政界に繰り出してからであれ、小学校出の角栄を常に蔑み、その足を引っぱり続けたエリートたち一般をここでは、主達衆(おもだちしゅう)というお国言葉で呼んでいる。もち前の努力によってのし上がった努力の人角栄に、主達衆は冷酷で狡猾な攻撃を容赦なく加える。政界におけるその代表者は、岸信介とその一派の佐藤栄作や福田赳夫であり、また三木武夫であった。特に三木は、クリーンなイメージをアピールしながら自己の政治的地位を確保するため、ロッキード事件において、稲葉法相とともに異例の警察権への介入を行い、無実の角栄を陥れた。角栄が大悪党なら、三木はまさに大偽善者として描かれている。その一方で、官僚出身ながら、角栄の人間性とその考えに共鳴し、彼の生涯の友となったのが、大平正芳であった。二人の盟友は手をたずさえ、日中国交正常化など数々の偉業をなしとげる。そんな大平が、福田・三木に陥れられ、ついには憤死したときの角栄の無念を描写するくだりは、男として泣かずにいられない。
著者の杉田氏があとがきで述べているように、道路、郵便、年金等々構造改革がぶち壊そうとしている諸制度の枠組を作ったのが、田中角栄である。氏によれば、角栄は地方と民衆の代弁者であり、小泉やそのあとを継いだ安倍は、エリートや金持ちどもの代表となる。このように言うと、構造改革が弱者を無視し、中央のエリートに都合のよい社会をめざしているかのような印象をあたえるが、角栄の頃とは時代が違うので、そのように単純な図式を現在の政治に当てはめることはできまい。しかし、角栄がめざしたすべての地域、すべての国民が平等に幸せになる世の中は、常に政治家の理想であるべきだし、それに情熱を傾けた角栄の動機は純粋だったと思う。構造改革もこの理想を否定するようなものであってはならないし、逆にいえば、このような理念と根拠にもとづいて構造改革が進められるかぎり、それは決して間違った方向へ進むことはないと私は信じる。
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