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タイトルの「浮世の画家」には、違和感がぬぐえない。 もっとも、原題が"AN ARTIST OF FLOATING WORLD"なので、このまま直訳すれば浮世絵師なのだろうか。それなら、まだ「浮世の画家」の方がとも思うが。 主題も掴みづらいが、芸術家における日常がテーマなのだろう。 モーツアルトにも太宰にも、日常生活者としての側面はあったのだ。
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Kazuo Ishiguro の処世作。終戦直後、今までの価値観が 180度転換するようなFloating World に翻弄された老画家を描く。…のだが、ストーリーはこの老人の一人称で語られるため、翻弄されたと思い込んでいるのは実は本人のみという読みがどこまでも否定できない構造になっている。そして、この「信用できない語り手」の構造はもちろん、『日の名残り』のスティーブンスに継がっていくものだ。(英国側から見たときの)異国趣味と、いかにも英国らしいsarcasm を共に備えた佳作。
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太平洋戦争中にアメリカで量産された戦意高揚フィルムにでてくる日本、そんな独特のオリエンタリズムあふれるニッポンがこの小説の舞台。非実在の地名が頻出したり、あずまやの軒に沢山の提灯がつるされいて情緒あふれていたりと、中々日本人には溶け込みにくい世界が描かれる。
物語の最後近く、小野が長女節子と語り合い、言い争いになる部分で、結局著者は何を仄めかしているのか、読者の想像力が試される小説だ。
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読んでいる間、翻訳者の存在を時々意識させられた。
最初、時代設定や、戦後になって老境を迎えた芸術家が主人公であることなどから、川端康成の戦後の作品を思い起こしながら読んでいた。
でも、やっぱり翻訳なんだなあ、と随所で感じた。
日本人作家なら、こういう言い回しはしないだろうと思われるところもある。
翻訳であることを主張する文体を敢えて選んでいるのかとも思う。
一方では、「紀子」「節子」など、人物名がどうして漢字表記なんだろう、と思ったりもしたけれど…それは翻訳者、飛田茂雄さんとイシグロの間で話し合って決めたとのこと。
戦時中「新日本精神」発揚の運動に深く関与したという主人公なのだけれど、「八紘一宇」とかそういった当時のよく見られる表現が一切なく、なんだか日本の話のような、どこにもない架空の国のような…不思議な感覚になる。
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2017年6月26日、再読。主人公に対し、共感は持てないが、年を取ったこともないのに、年寄りの思考が手に取るようにわかるのだろう。主人公の言葉の鼻につく部分は、他でもなく自分の中にある慢心そのもののようで目がそらせない。先の戦争の清算も終わらないうちに走り始めたに戦後日本の様子がよく伝わってくる。
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「私を離さないで」「日の名残り」しか読んだことなかったのでこんな日本を舞台にした小説があるんだとびっくり。でも全然違和感ないし、描きたい人間のかなしさとかは前出2作品とかなり通じるものがあった
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カズオ・イシグロの最後の未読の一冊。きめ細かく丁寧に紡がれる綺麗な文章とノスタルジーは彼ならではであり、情景が浮かぶ。ただその反面、常に一人称で回想する形式を取るので、脱線したり冗長な部分が多かったりする。その余分の積み重ねが全体として見ると実は結構効いてくるんだけど、読んでる最中は時折退屈になる。遠い山なみの光と同様の戦後日本の風景だけど、山なみの方が好きだった。
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過去を回想したときの自負、自信。
しかし結果として認めざるをえない過ち、悔恨。
年老いてもなおそれを乗り越えて前を向く清清しさ。
しかしひょっとするとそれらは全て本人の思い違いかもしれないのだが???
そんな世界を相変わらず美しい文章でゆったりと、そうかといって飽きさせることは決してなく、楽しく読ませてくれる作品
設定は全く違うけど、日の名残とかなり似たテーマですね
ただし日の名残のほうがラストの切れはいいと思う
本作はラストにかけてちょっと書きすぎじゃないだろうか?
次女の結婚のくだりをすっぱりと書かなかったように、黒田とのくだりも書かないほうがよかったような
そういうあいまいな部分を残してくれたほうが本作としては良かったように思う
遠い山なみの光からずっと、谷崎の細雪を読んでいるような心地よさを感じながら読んだ
本作については小津の東京物語、笠智衆が随分主人公と重なった
日本にゆかりがあるとはいえ、日本語は話せないほどに英国人である作者がなぜにこれほど日本的な作品を書けるのか、不思議だ
作者さんの作品は少ない、コンプリートまでもう少し
早く読みたいような、とっておきたいような・・・・
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時代にのみ込まれた画家の話。ある時代に「正」であったことが、時代が転換して「悪」としてとらえられる。歴史の中では往々にして起こりうることだが、それに飲まれた人の心を、繊細に描き出す美しい作品。
2017.10.5追記
ノーベル文学賞!おめでとうございます!
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イシグロが日本を描いた作品は、残念ながらあまり面白いとは思えない。「浮世の画家」も「遠い山並みの光」も、小津映画の雰囲気をそのまま文章にしたにすぎないように思えてしまう。彼は、やはり、ヨーロッパを舞台にした作品を描いてこそ本領発揮という気がする。
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価値観の変化についていけない人もいるし、ついていける人もいる。しかも、これは芸術の分野の変化なので、当の本人たちはさぞ辛かろう。こんな日が遠からずくるのかも、と思う。『わたしを離さないで』の次に読んだので、少しインパクトは薄いけれども、この後じわじわ恐ろしくなって来そうな読後感。やはりこの人のお話は目の付け所が凄い。
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老齢の主人公小野は、かつて戦時中に戦争を鼓舞し高揚させる絵画を描いていた画家であった。
正しいと信じて行った事が、時代の流れと共に移り変わる価値観によって無価値な事へと変化した時、人は困惑する。そして人は、かつての自分が誤っていたのだろうかと懸念しながらも、過去の自分を正当化したくなる。
小野は社会の彼に対する態度の豹変ぶりに困惑しながらも、当時の輝かしい日々の思い出を回想することで自らを慰める。小野の次女のお見合い話の失敗をきっかけに、この二つの狭間で揺れながら老後を過ごし、彼の想いを回想する形で本書は進んでいく。
最終的に次女は伴侶を見つけ、小野も前を向いていこうとぼんやりと思い物語は終わる。
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戦争中,戦争賛美の画を描いた画家の戦後.歴史の流れで変転する価値観の中で,自己肯定と自己否定に揺れ動く姿が痛々しい.親子なのにもかかわらず,微妙交わらない自分の思いと他人の思い,そして価値観.これはこの作家の大きなテーマの一つだろう.
戦後の復興過程にある日本が舞台になっているが,日本人からすればあまり現実感のない町.これも「私をはなさないで」などと通じる世界.
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昭和初期の雰囲気でタルタルと進む(進まない)ようで、
油断していると、一挙加勢。おっとっと。イシグロの文章はテンポが一定じゃないのです☆
一見温厚そうなオノが、恩師とぶつかる。長女とぶつかる。
自分がかくあることを常に自分に言い訳している、このキャラクターがいいですねえ。ちょこっと「充たされざる者」のピアニストを彷彿とさせます。
まどろこしい当たり障りのないやり取りの応酬。見事です~翻訳モノとは思えないくらい。押し寄せる満足感と勝利感に浸るとこなんか、なかなかヤラしい性格で、結構結構。
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過去と今を行ったり来たりしながらゆるゆると進んでいく物語。
戦争が終わって世間の価値観は180度と言って良いぐらいに変わり、戦争賛美の絵を描いていたという理由で周囲からの冷たい視線に晒される主人公。
自分の過去の仕事は間違っていたのだろうかと懸念しながらも、かつて「信念」を持って行動していたことは誇りとして良いはずだと自分に言い聞かせる。いろいろと理由を見つけては自分の過去を正当化したいと思う気持ち…
私自身がもっと年齢を重ねてから読んだらもっと良く分かるのかもしれないと思いました。