紙の本
最先端の物理理論の素人向けの解説書の集大成
2007/03/03 11:16
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
微視的世界を解明する量子論と、巨視的世界を解明する相対性理論やインフレーション宇宙論との関連・関係、素粒子の標準模型と超ひも理論とM理論、11次元やブレーンとの相互関係・関連性・同一性が説明されている。これまで読んできた理論物理学の一般向け解説書ではいまいち曖昧模糊としていた内容が、かなり理解できたように感じられる。ひも理論を作り上げてきた物理学者自身が、理論が着想され吟味されてきた過程について、問題点や行き詰まりの失敗の歴史をひもといているからであろうか。
何事も、成功の過程よりも失敗の過程の記録の方が、参考になるものである。もちろん、門外漢にとって専門家の失敗の記録が直接役に立つものではないが。出来上がった形を説明されるだけでは理解できない部分も、作り上げられてきたその途中の過程・歴史をも説明されると、理解し易くなる。
この本は、最先端の物理理論の素人向けの解説書の集大成と思う。物理学は、我々が存在するこの宇宙だけではなく、ありうる全宇宙(の場、著者が提唱するランドスケープという概念)をも記述できるだけの段階まで、到達してきているらしい。そのありうる膨大な数の宇宙の中で、何故この宇宙に我々が存在するのかは、説明できないらしいが。多くの行き詰まりや失敗を乗り越えて、多くの物理学者たちの論争を経て、驚くべき段階まで研究は進んでいる。
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http://triquetra0726.blog130.fc2.com/blog-entry-267.html
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物理学が研究するのは通常は我々が住む宇宙の物理である。それ以外のことについて考えることは興味の対象ではあっても、学問として研究の対象ではなかった。それがこの宇宙が何故もかくまでに人間が住む必要条件をまるで奇跡の連続のように絶妙に設計されているのかという疑問を生じさせた。
これには「人間原理」という思考があり、「どうして人間に好都合な世界なのか」を考えるのではなく、「好都合だから人間が存在した」と考える。これは一種思考の限界を示すものであり、多くの物理学者は「人間原理」で理解をストップさせるのを生理的に嫌悪した。それは「人間原理」がそれ以上に何も予測することも発展することもないからである。
しかし、「人間原理」はこの従来の文脈からではなく、物理の研究の延長上に現れることになる。それはこの宇宙の構造から分かる存立基盤を考慮すれば、ほかの形態の宇宙も存在可能性があるであろうということである。つまり重力や電磁力、強い力、弱い力、空間次元、宇宙の形、ダークマターなどが異なる大きさや強さで存在することもあるだろうということ。結果、そこでは知的生物は発生することは難しいが、この宇宙はその無数にある宇宙形態のなかで知的生命体が存在しうる絶妙の構造になっていたし、また宇宙形成の歴史も奇跡的に知的生命体が発生する軌跡をたどった。
宇宙があたかも地球に浮かぶ様々な国々のように、いろいろな場所にいろいろな種類の宇宙が配置し、動いている世界観がランドスケープ宇宙である。
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ひも理論の重鎮レオナルド・サスキンドのメガバースと人間原理に関する最新の宇宙論。
リサ・ランドールの『ワープする宇宙』やブライアン・グリーンの『隠れていた宇宙』など、最新の宇宙論が最近日本でも多く紹介されている。ヒッグス粒子の発見の話題もあったからだとも思われるが、これらの議論がこの世界の存在の究極の根拠について考えを巡らせている多くの人の琴線に触れるものであるからだということもあるだろう。科学書翻訳で多くの信頼を得ている青木薫さんも、このテーマで『宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論』という自著を出しているが、あえて翻訳だけでなくオリジナルの本を出してみようと決めた気持ちがわかるような気がする。
著者は、「ランドスケープ」ー 考えられる世界すべてを表す数学的空間を意味する ー という概念を持ち出し、このわれわれが存在する宇宙が無数のメガバースの中のひとつであるとして、単純な人間原理を克服しようとする。これは、自然定数がいくつもの微妙な値を取る根拠や複雑で無根拠な素粒子の標準理論がなぜそういうものであるかについて別の視点から説明を試みるものだ。また、量子力学の確率的解釈(コペンハーゲン解釈)から、分岐し続けるメガバースの文脈で捉えるものでもある。著者の専門であるひも理論も、そういった考えと整合性を取ることで根拠が作られると考えられている。
著者は、宇宙についても進化論のロジックが働いていると説く。ダーウィンが提唱した進化論のコアのロジックは、生物学以外にも企業論などいろいろな分野にも適用されるが、宇宙論にまで適用されるものかと少々驚いた。進化論のロジックは、複雑なものが作り上げられるための必須の要件なのかもしれないと思うと腹に落ちた。メガバースの理論は、われわれが住む以外の宇宙の観測不可能性など、実証的に証明できない点が問題にされるが、現在では多くの科学者からその考え方はサポートされているようだ。この後の研究成果も、翻訳されたわかりやすい言葉にて触れさせてもらえればと思う。
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[ 内容 ]
ひも理論とインフレーション理論が結びついた驚愕の宇宙像。
無数の種類の宇宙が無限回出現する。
[ 目次 ]
ファインマンが描いた世界
物理学の難問中の難問
ランドスケープを転がる宇宙
唯一性とエレガンスの神話
晴天の霹靂
ありそうもない偶然を解き明かす
ゴムひもで動く世界
ひも理論の復活
理論の力だけでどこまで行けるか
ルーブ・ゴールドバーグ機械の背後に
泡を吹き出す宇宙
ブラックホール戦争
要約
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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この世の物理定数は、なぜこの値なのか。何故、生物が誕生し得る組み合わせなのか。究極の問いとも言えるその謎に、ヒモ理論を用いて迫る。
筆者は南部陽一郎とともにヒモ理論の礎を築いた先駆者。触れ書きの通り数式は使わず説明してくれているのだが、なにせあまりにも日常とかけ離れすぎていて、想像つかない。その非日常を求めて読んでいる節もあるが。
10の500乗もあるポケット宇宙、d-ブレーンに巻き付くプランク長さのヒモたち、そのヒモも11次元でないと数学的に矛盾してしうが、3次元空間に収まるために余剰次元はプランク長さまで巻き上げられている…
宇宙という広大な領域を扱う学問と、観測できない最小の現象を扱う量子力学が表裏一体なのはロマン。そして、この世はメガバースというポケット宇宙の集まりのうちの一つに過ぎないという理論は支持を集めつつも絶対に観測はできないという、ロマン。
宇宙に興味がある人は読んでみて下さい。