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三度楽しめる、三度楽しんで欲しい物語だと思います。
劇的なドラマではないけれど、誰にでもこの物語の片鱗を味わった経験があるはず。共感と世界観に浸れる作品です。
同著者の『クレイジーカンガルーの夏』を随分昔に読んでいて、スピンオフのような続編のようなこちらも購入したのですが、何年も本棚で眠ったままでした。ちょっと遠出する際に目に留まって持ち出して、夢中になって読了。
「目線が上手いなあ」と思わせる描写力が印象的です。
主人公の晴(はる)は、人生で言うところの思春期に片足を踏み入れたくらいの、十三歳の女の子。風景や香り、周りの人間の仕草、そして物語のキーである音楽。すべてが、くどいくらいの描写力で、でも実際にこの年齢の、この立場の女の子だったらこれくらい吸収しているだろうなという目線で描かれています。そして描写する言葉が綺麗。ほぼすべての登場人物が関西弁ですが、「原風景」「懐かしさ」を読者に伝える重要な役割を果たしています。各人物のキャラクターも書き分けも秀逸で、まるでノンフィクションドラマのように、全員が生きていました。
まずは晴の目線で見て欲しいから、中学生で一度。そして晴のような経験もひととおり終わり、大人の世界を分かり始める、私のような二十歳前後の年齢になってから二度目。そしてこの本のすべてを理解できるのは、きっと、原田先生と同じくらいの年、三十代になって三度目を読んだときなのではないかなと思いました。私はあと一度、この物語を楽しめるわけです。今から楽しみ。
登場人物がとても多く(それもリアルで良い点なのですが)、人によってあだ名、名字、名前と様々な呼び方が飛び交うので、人物のフルネームをメモしておいた方が分かりやすいです。その手間を考えて星四つの評価です。
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『クレイジーカンガルーの夏』のスピンオフ作品。前作は夏休みの男の子たちの物語だったが、こちらはその夏休みが終わった直後2学期の始業式から3学期の始業式までを女の子の視点で描いている。舞台は同じ場所なので、前作の登場人物たちもちらほらと登場するが、前作を読まなくても多分読めるだろうと思う。ただ前作のネタバレは多少あるので、私は順番に読むのをオススメしますが。なりたくなかったのになってしまった学級委員、くだらないことばかり言う女子たち、くだらないことですぐ衝突する男子たち、自分をまったく理解してくれずイライラさせられっぱなしの親、そして自分自身、周りのものみんな「バッカみたい」と感じつつも、なぜか不思議に心を騒がす存在がある・・・。潔癖で無垢で、もう自分は子供じゃないと思っていたけど本当はまだまだ子供だった時代のことが懐かしく思いおこされれる。物語のなかで主人公の晴は、11月の夕暮れの空が好きだという。すぐに闇に包まれてしまう前のほんの一瞬の美しい空。多分13歳という季節は、その夕暮れの空と同じで一瞬で過ぎ去ってしまうものなのだと思う。その一瞬の煌めきを凝縮したような物語だ。物語の中にはたくさんの音楽が登場し、巻末に音楽リストがついているので、音楽に詳しいともっと面白かったかなと思う。でも、前作同様ためらわずに面白かったと言える作品だった。
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1979年の女子中学生の群像劇。面白い。クレイジーカンガルーの夏の姉妹編。カンガルーの男子中学生らを別視点から読むことができたのも楽しかった。聡明さと幼さのアンバランスさ、それゆえに頑固な主人公は可愛らしく思える。友人への思い、親への思い、教師への思いに揺れる多感な心。どんなに頭の良い子でも、人気があっても、問題児であっても、受け持つ教師によって、中学生たちの評価は大きく変り、彼らの精神と今後の人生に多大な影響を与えているのだろうという事が窺えた。心の傷も、幸福も、人生の糧にして強く生きられたらいいのに。
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『クレイジーカンガルーの夏』のスピンオフの位置にある作品。これまた、挿し絵が一枚も無くライトノベルの要素がほとんど無い作品。
『カンガルー』に出ていた関西弁を話さない優等生男子と一緒に学級委員になった自分に自信が無い女子、菅野晴が主人公で、この子の中学校生活での色んな思いを読み進める。
全編にこの子が好きな洋楽が登場しており、それが良い味わいを出している。物語の時代が1979年なので、60~70年代の洋楽であるので、これ等を知っている人は乗り楽しめる。『ピアノ・マン』のコーラス場面はテンション上がる!後半の『シーズ・リービング・ホーム』の場面はぶっ飛んだ。
自分には相容れない描写が多々あるけど、中学生の淡くて苦い心を描いた佳作だとは思う。