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紙の本
おしえて、黒澤さん
2007/06/20 16:41
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぼこにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
どうして空は青いのか、どうしてリンゴは丸いのか、子供というのはのべつ大人にモノを尋ねている。口笛はなぜ遠くまで聞こえるの、あの雲はなぜ私を待ってるの、とかつてあの有名な少女はさかんに質問を発していたものだが、その割に答えに耳を傾ける体勢はまるで整っていなかった。
たぶん誰かにモノを訊くという行為は(愚痴や苦情を言う場合も)単にコミュニケーションをはかるうえでの方便であって、本当に知りたいことなんてそれほど多くないのではないか。それに子供って無邪気を装って相手の反応を観察していたりするものだし。質問の答えそのものよりも、答えるときの態度が大切なのだということを、人は本能的に気づいているのかも知れない。
学食のひとことカードなるものに書かれた学生たちからのメッセージと、それに応じる学食長とのほほえましいやりとり。こんなアホみたいな質問にいちいち返事を書かずにほっといたらどうか、と思いつつ、若者というのはいつの時代も似たようなもんなのか、と妙な感慨にふけってみたり。将来への期待と不安と忙しいのかヒマなのか分からない生活のテンポに巻き込まれ、自意識ばかりが重たくて花を買い来てツマと親しむ、いやツマはいなかったけれども、結末の分かっているゲームを終わらせるのが怖くて続けているような青い季節。あの落ち着かずフワフワした時期に、地に足のついた職人風な黒澤さんのいる食堂でゴハンを食べる日々は彼らにとって大層貴重なものなのだろう。いやはや、なんか自分の「あのころ」を思い出し、じーんと来てしまった。
大人になったってなにも分かるわけではなくて、ただ人の真似がうまくなったり、細かいことを考え込むには毎日の用事が多すぎたりするだけなのだと、若い彼らが知るのはもう少し先のことだろうか。それとももう知っていて、知らないフリをしているだけなのかも。きっと人生最初の「終わりの始まり」の只中にあって、ちょっとずつ椅子をずらして沈む夕日を何度も眺める小さな王子さまの心境を、明るい笑顔の下で味わっているんじゃなかろうか。
見上げれば世界に続く空ばかりが広く、自分は相変わらず心細くもオロカなままで歳月だけが流れたと知る。そしてなんと今や子供にやたらとモノを尋ねられる側に追い込まれているのだ。ポケットの底には白紙のカードを一枚だけ、青春の名残りみたいに隠していて、大人だって本当のところ、黒澤さんみたいな人にメッセージをしたため何か返事をもらいたいと願っているのだけれども。
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