紙の本
第一巻にはなかった著者「後記」があってこの作品を描く船戸の基本姿勢が述べられているがこれが一読に値する。
2008/03/12 11:18
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和5年1月、浜口雄幸内閣が金解禁を実施したことにより日本は世界大恐慌の直撃を受ける。農民、都市労働者の窮乏、深刻化する国民生活。4月に締結したロンドン軍縮条約を政友会の犬養毅、鳩山一郎が統帥権干犯として議会で追求。軍部は将来の国家総力戦準備として、満州の鉄、石炭などの資源獲得を緊要とするとともに、最大の仮想敵国であるソ連との戦争に備えるために南満州の確保を必須とした。さらに朝鮮統治の安定、大恐慌下の社会的不安の鎮静や人口問題の解決などのためにも、満蒙問題の解決が必要であると高唱されるようになった。満蒙領有化か五族協和か、温度差はあれ、日本中に大陸侵攻を必然とする熱気が沸騰していた。だれが流れを作ったのか、関東軍の暴走か、それはあるだろう。が、それだけではないことも事実であろう。軍部も、政府、経済界、学者、思想家、宗教家そして一般庶民、あらゆる階層が昭和狂気の激流に飲み込まれていくようだ。
船戸はこの流れを「やむをえなかった」とする立場をとるものではない。逆に「間違いだった」と直接の論評はしない。冷静に小説家として、昭和狂気の実相に鋭いメスをいれていく。
『満州国演義2 事変の夜』、著者は昭和5~6年の二年間を400頁のボリュームでもって詳細にかつ多様な素材を駆使して描き出している。そのディテールは確たるものがある。著者がこの作品へいかに力を入れているかがうかがい知れる。「軍部の暴走をめぐり対立する太郎と次郎」「流されるままに謀略馬賊として軍に協力することとなった次郎」「自分の罪のために上海に潜伏する四郎」四人の兄弟は立場が違うが共通して良識ある人たちであった。その彼等がこの昭和の激流に押し流される。その悲劇性を徐々に徐々に丹念にそして残酷に描写していく筆の冴えが素晴らしい。
「後記」で著者がこんなことを述べている。
「筆者は昭和19年の生まれで飢餓体験はあっても戦争の記憶はもちろん中国で九・一八と呼ばれる満州事変前後の事情ともなるともはや遙かなる過去でしかない。したがって執筆にあたってはすべて資料に頼った。小説は歴史の奴隷ではないが、歴史もまた小説の玩具ではない。これが本稿執筆の筆者の基本姿勢であり、小説のダイナミズムを求めるために歴史的事実を無視したり歪めたりしたことは避けて来たつもりである。」
同じ年代の私としてはあらためて昭和史を勉強している気分になる。思えば昭和史理解なんて学生時代に読んだ松本清張の『昭和史発掘』ぐらいのものだ。そして小説のダイナミズムを充分に楽しみながら読んでいる。いつの時代でも、現代のおいても同質の危険な熱狂というものがありうるのだと思いながら………。
まさしく本著は「本格歴史小説」の名著である。
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軍部の暴走をめぐり対立する太郎と三郎、流されるままに謀略馬賊として軍に協力することとなった次郎、自分の犯した罪のために上海に潜伏する四郎……四兄弟の苦悩をあざ笑うかのように満州、そして上海で戦火が炸裂する。
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日本史のターニングポイントに生きた4兄弟。歴史に翻弄されながらそれぞれに違った関わり合いをもつ物語は面白い。
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なんとなくあっさりと満州事変が起こったように思っていたし、この後の歴史を知っているので、必然の流れのように思うけど、実際にはその時代時代にはいろいろな未来があって、その中の一つを選択していったのだと思う。
そんなあたりまえのことを再認識。
しかし、登場人物は浮いているなあ。とくに四郎。
それと三郎もいつもいつも受動的に時代の目撃者をやっていないで、もうちょっと主体的に動きなさい。
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張作霖爆殺が張学良の不抵抗路線によって不発に終った関東軍は次々と謀略を続ける。満鉄を中心に起こった満蒙独立の路線に切り替えて遂に事変を迎える。 泰天・上海 関東軍・領事館(外務省) 馬賊・中国民衆と広範な流れを追う為にそれぞれ立ち位置を異にした敷島四兄弟を配置したのは上手かったが、何かが起きるときかならずそこにいる特務がスーパーマン過ぎではありませんか? 今後この特務がどんな運命を辿るのか。
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愚かで悲惨な結末が見えているのでやや息苦しい思いはあるが、面白く読めた。歴史の勉強にもなる。関東軍の暴走により満州事変が起こったとは聞いていたが具体的に分かった。特務のおっさんは狂言回しかと思っていたらスーパーマン的な歴史と主人公への関与度合い。逆に主人公の4人がいずれも傍観者的、受動的な役割で歴史に係っていないのが物語としては弱い。3巻以降に主人公の活躍を期待する。
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九月十八日、満州事変の日が近づいてきている。
満州事変から満州国建国前夜まで、
様々な意見、立場がある中での小説、
作者の後記「小説は歴史の奴隷ではないが、歴史もまた小説の玩具ではない」
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西太后の思惑で即位させられ、袁世凱により紫禁城で宦官と共にある意味幽閉されてきた溥儀が、今度は関東軍によって弄ばれる歴史が紐解かれていく。それは、楽しみであるよりも恐ろしい。軍事国家であった日本の凋落は、ここに始まった。
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相変わらず銜えたばこのシーンが多いのに閉口するのですが、ストーリーは満州事変や上海事変を中心に進んでいきます。支那人は、満州事変や錦州への無差別爆撃に遭遇しても、なぜかそのような状況に無縁に生きているように、三郎の眼には映っている。しかしながら一方では、抗日運動は日増しに激しくなるし、関東軍は馬占山軍や十九路軍の執拗な抵抗に苦戦を強いられる。そして、この上海事変の段階では、登場人物の一人に「支那の未来は支那人の民族意識を国民党と共産党のどっちが吸収するかに懸かっている」と語らせているのが印象的。
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間垣徳蔵を狂言回しに,敷島4兄弟にそれぞれの役を分担させて,満州事変へと突き進む.軍隊の自分勝手な理屈に押し流されていくのが,本当に怖い.
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関東軍の暴走が進行.満州事変が勃発.三郎は太郎に銃を向ける.「〜したのは〜の時だった.」「どういう意味ですか,それ」など船戸与一の決まり文句が少し花についてくる.
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危ういながらもかろうじて保たれていたタガが張作霖爆殺事件と田中義一内閣崩壊によって外れるまでが前巻。
二巻のメイントピックはサブタイトル通り、満州事変の勃発。
一般的には一部軍人達の暴走として結論付けられる満州事変が、はたして本当にそれだけだったかというと、正直よくわからない。
当時の多くの日本人は昭和恐慌で加速する生活の悪化を改善するため、少なからずこういう事件を求めていたではという気がする。
当時の人々にとって、地下資源豊富な満州は《近代化した日本が抱えた矛盾や経済的苦境を一挙に解決してくれる金脈のようなもの》であったのだから。
とりあえず感じるのは、軍部の暴走による満州侵攻を、日本国内においては歓迎する風潮があった。
おそらくこれだけは確かだろう。
事変を主導した参謀による「五族協和」「王道楽土の国家建設」というスローガンは、そういう明言しにくい欲望を誤魔化すための方便(もっといえばプロバガンダの一種)だったと思う。
満州を日本が占領するのではなく満州に誰もが安心して暮らせる平和な国家を築くのだ、という詭弁。
満州事変が太平洋戦争にまで至る日本の暗黒時代の引き金であったことは周知だけど、それをどう捉えるべきかを今の時代になって考えるのは難しい。
「明らかな間違い」という人もいれば「当時の日本にとってはやむを得なかった」という人もいるし、もっといろんなことを言う人もいる。
ただ言えることがあるとしたら、当時の空気は明らかに事変に向けて熱を帯びていて、制御できないものになっていたということ。
当時の暴走した軍部や、彼らを制御できなかった政治家や、彼らを賛美したメディア等を非難するのは容易いけど、でも何が彼らをそうさせたのか。
その背景まで考えないことには、本当に敗戦を振り返り、過去に学ぶことにはならないと個人的には思う。
誰が悪いとかそういう話じゃなく、もっと根源的なものがあったのではないか、ということ。
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満州国演義シリーズ第2作。1巻の張作霖爆殺事件から始まって軍部の暴走がいよいよ止められなくなってきた頃。当時の総理大臣は濱口雄幸、若槻礼次郎。濱口首相はテロ事件に遭い後に死亡するがこの頃の日本はテロが頻発し、桜会事件や血盟団事件など、クーデタ未遂も起きた。そして起きる柳条湖事件、満州事変。そのような時代背景の中で4兄弟が大陸でそれぞれの道を行き、その道は時に交錯する。いよいよ3巻からは満州国建国が宣言されるようである。詳細→
http://takeshi3017.chu.jp/file9/naiyou10140.html
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ロンドン海軍軍縮条約から満州事変を経て上海事変までを描く。
満蒙領有論がいかに国民から支持を受けていたのかが分かる。
現在の平和主義的な国際感覚とはあまりにかけ離れている。
敗戦によるショックがいかに大きかったか。