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日本の法務省の外国人収容施設の外国人への非人道的な扱いを告発したノンフィクション。不法滞在として収容された外国人の扱いは酷い。収容者は自由を奪われ、暴力や性的暴行、侮辱にさらされ続けている。
収容者は医療を満足に受けられない。以下のように報告されている。「入管のドクターはいつも『大丈夫、大丈夫、問題ない』と言って、ちゃんと診療をしてくれませんでした。頭が痛いときも手が痛いときも同じ薬をくれるか、『薬はない』と言うかのどちらかでした」(111頁)。
「収容所の医師に三回診察を受けましたが、『だいじょうぶ、だいじょうぶ』と言って終わりでした」(124頁)
大丈夫という日本語は害悪である。公務員的な保身第一の卑怯な使い方として「大丈夫か」の質問がある。相手に「大丈夫です」と回答させ、それで問題ないというアリバイ作りにする。これは、それ以上に悪辣である。患者側が苦痛をうったえているのに勝手に「大丈夫」と決めつける。
まともな医療を提供しない一方で過剰投薬が行われている。「向精神薬・抗不安薬・鎮静剤・催眠剤・抗うつ剤が長期間かつ大量に与えられ、時には一日三〇錠以上の投薬に達することもある」(110頁)。
「薬をたくさん飲まされ一日中頭がボーとしてしまい、日常生活に支障がでてきていました」(125頁)
適切な医療を受けられないことと向精神薬などの過剰投薬は、死なせる医療という日本の医療のディストピアにつながる。現実に公立福生病院透析中止事件では透析中止に加えて鎮静剤ドルミカムの大量投与を批判する見解がある。入管行政の非人間的扱いは、日本人への非人間的扱いにつながっていくものである。
異常性は入管職員が収容された外国人に自分達のことをセンセイと呼ぶことを強要していることに現れている。支配者感覚を持ちたいのだろうか。本書は職員個々人を批判していない。逆に外国人の人権を抑圧する職務に就く職員の人間性も奪うものと同情的である。
「入管収容の処遇を改善していくことは、被収容者の人権侵害を防止するだけでなく、職員の人間性をも取り戻すことになるのではないだろうか」(144頁)
外国人の人権について全く考えていない日本政府を相手に少しでも外国人収容施設の改善を進めるために職員の人権を持ち出すことは戦術的には考えられる。しかし、抑圧される外国人と抑圧する職員では、前者を先ず同情したい。「職務に従っただけ」という公務員的な思考停止が。外国人は収容によって一生治らない肉体的精神的傷を負っている。そのことへの想像力が欠如している。
本書は韓国と比べた日本の後進性を明らかにする。韓国でも外国人収容施設の人権侵害が頻繁に起きていたが、権力を監視する国家人権委員会の勧告により、改善された。
「二〇〇六年三月に韓国の収容施設を訪れたところ、内部の視察が簡単に許可され、しかも所長・課長・医師らが対応し、入管の業務内容が詳しく説明された。入管行政の透明性は確保されているとみていい」(144頁)
日本で改善となると点数稼ぎの公務員体質では人権侵害発生数ゼロのような数字を奇麗に見せることに走りがちである。これ��対して韓国は透明性を確保することで外部からチェックできるようにしている。韓国の改善は本物になる。
本書は「第二刷のための追記(二〇〇九年六月二一日)」で「収容所内の待遇改善は進み」と記す(178頁)。しかし、「良くなったからといって安心できない」と書くように問題は継続している。
長崎県大村市にある大村入国管理センター(大村入管)ではベトナム人のグエン・バン・フンさんが収容されて1年後に甲状腺に腫瘍が見つかったため治療の必要性を訴えたが、入管側は「年齢が若く治療の必要がない」として認めなかった。腫瘍は約4センチに拡大し、飲食時に痛みを感じるという(「ベトナム人男性、収容中に腫瘍の治療認められず「人間として扱って」」毎日新聞2022年3月15日)。
難民認定申請をしているネパール人男性は適切な医療措置を受けられず歩行困難になった。男性は2019年1月末に大村入管に収容され、4月に他の収容者の足が左の股関節に衝突した。男性はすぐに医師の診断を願い出たが、速やかに診察やレントゲン検査を受けることができず、1週間後に施設内で医師の診察を受け、打撲と診断され、痛み止めを処方された。しかし、痛みはおさまるどころか、増していった。
男性は職員に外部の医療機関の受診をたびたび求めたが、実現しなかった(「「適切な治療なされず」 大村入管収容者が国賠提訴」長崎新聞2021年1月7日)。4カ月後の8月に職員が同行して初めて外部の医療機関で受診すると左大腿骨頭壊死症と診断された。大腿骨頭と呼ばれる股関節付近の骨が壊死していた(「【長崎】大村入管センター医療問題で国賠訴訟」長崎文化放送2021年1月7日)。
その後も積極的な治療が施されることのないまま時間が経過し、2022年1月下旬の時点で、Aさんは歩くことも、自力で起き上がることもできなくなった(「大腿骨壊死のネパール人、放置されて「寝たきり」に…餓死事件後も「大村入管」改善みられず」弁護士ドットコム2022年2月20日)。痛みにより車椅子にも乗ることができない状態である。
男性は2021年に長崎地方裁判所に国家賠償請求訴訟を起こした。「この裁判は、日本の全ての入管収容施設における医療処遇の問題を訴え、改善を求める裁判」と主張する(「【長崎】大村入国管理センター収容者国賠訴訟初弁論」長崎文化放送2021年4月26日)。