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紙の本
なんていうか、こんなにしっかりしたミステリなら、なにも漱石におんぶしなくてもいいんじゃないか、そんなことを思ったりします。もう、ここらへんでこのパターンから卒業してはいかがでしょう、柳さん
2007/08/07 20:08
10人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
実は、柳広司ってあまり好きじゃないんですね。本当にくだらない理由なんですが、名前がね、格好よくない。古臭いっていうか陳腐というか。うーん、失礼な発言だってことは重々承知で書いちゃいますが、こう、わくわくしない。しかも、著作のタイトルが平凡。『饗宴』『はじまりの島』『トーキョー・プリズン』ね。
『饗宴 ソクラテス最後の事件』も印象がよくなかった。期待しすぎたこちらの問題でもあるんですが、これが哲学ミステリ?って思いがしたし。でも、損しているのは装丁もある気がするんですね。要するに、古い。本を見た印象がパッとしなくて、タイトルがフツーで著者名が当たり前。驚きがない。
でも、今回は得しました、柳さん。なぜって、理論社のミステリーYA!は、シリーズを通じてのブックデザインが抜群なわけです。佃二葉の装画も、谷山彩子のマークイラストレーションも、丸尾靖子のブックデザインも文句なしなわけです。しかもタイトルがね、日本人が無条件で反応する「漱石」「猫」でしょ。今までの三つの平凡のうち、二つがレベルアップしたわけです。
おまけに、読むとこれがなかなか面白い。雰囲気がよく出ているんです。ま、柳でなければ書けないか、っていうところまで踏込むと、にわかに疑問符だらけになってしまうんですが、悪くない。野球が出てくるところなどは、横田順爾あたりが書いても不思議ではありませんけど・・・
カバー折り返しの紹介文は
「ひょんなことから、英語の先生の家で
書生として暮らすことになった
探偵小説好きの青年。
癇癪もちで、世間知らず。
その上、はた迷惑な癖をたくさんもつ先生の
〈変人〉っぷりには辟易するが、
居候生活は刺激でいっぱいだ。
なんせ、先生のまわりには、
先生以上の〈超変人〉と、
奇妙奇天烈な事件があふれているのだから・・・・・・。
夏目漱石の『吾輩は猫である』の物語世界がよみがえる、
抱腹絶倒の連作ミステリー短篇集。」
各編について、すこし細かく触れましょう
・吾輩は猫でない? :自分の家の猫が、ぬすっとう呼ばわりされた。で、先生は猫の名前を聞かれて「名前は、まだない」。あとを任された書生の僕は・・・
・猫は踊る :明治38年の元日の昼、猫が踊りを踊り始めた。二弦琴の師匠のところの三毛の死と、先生の家の猫とのあいだに何かあるのか、僕はよく知っていた三毛のために・・・
・泥棒と鼻恋 :先生の家に泥棒が入った。時間は不明、盗られたものもあやうく不明扱いに。先生夫妻の頓珍漢な返答にあきれ返った警察官は僕をじっと見て・・・
・矯風演芸会 :理学者の水島寒月のところに舞い込んだのは、町では先生以外は誰もが知っている富豪の金田の娘と縁談。ただし先生と迷亭氏、そして金田家の奥さんとの間には・・・
・落雲館大戦争 :先生と、その家に隣接する落運館中学の生徒の間に戦争が始まった。相手は国際条約で禁止されているというダムダム弾を使って攻撃をかけてくる・・・
・春風影裏に猫が家出する:先生の家の猫が消えた。先生は暢気に構えているけれど、僕と迷亭、寒月の三人は必死で家を探す・・・
・あとがき
となっています。好きな作品ではありますけれど、ここまで書けるなら、漱石におんぶしなくてもいいんじゃないか、って思います。売れる戦略をとったこと自体は評価しますが、単純に時代ユーモアミステリとしても十分通じるわけで、そろそろこの名作を利用するパターンから抜けないと、壁にぶつかるぞ、って思います。ちなみに、今回は合格点。