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紙の本
うなぎはえらい。うなぎを追う人もえらい。
2007/07/09 13:29
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つきこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
うなぎ。これ以上はないほど身近にして神秘に満ちた魚。
どのくらい神秘かというと、ちょこっとその生態が明らかになっただけで、ネイチャー誌に論文が載る事3度。えっうなぎで?驚きです。
本書はネイチャーハットトリックを成し遂げた東大海洋研究所塚本教授のもと、ニホンウナギの産卵場特定という使命を帯び、荒海へと漕ぎ出した調査船白鳳丸に密着した海洋冒険ドキュメント。胸が躍ります。ナビゲーターは無頼の作家。ただ船に乗りたかったという理由で調査船に乗り込んだ、ウナギにはずぶの素人で呑んべ。べらんめぇ調で知られざるウナギ生態研究の最前線を語り尽くす。真摯に時にはワイルドに、世紀の大発見に挑む研究者の姿に、無頼の作家は惚れ、読者もほだされる。作家は門前の研究者となり、嬉々としてウナギ研究にのめり込む。未知なる物は常に楽しい。その姿に世界で自分が最初に知る、そんな楽しさを思う。
けれど、それがどうした。
多くは語られないけれど、日々彼らが科学とは何か自問自答する姿が見てとれる。彼らは学術的に素晴らしい成果・業績を挙げている。だが産業界の後ろ盾乏しき学問に、文科省を始めとする世間の目は厳しい。
けれど、それこそそれがどうしただ。
立派だけどつまらない事もする、すごい事をやっているけれど報われない事もある。それでも諦めずにウナギを追う姿には”世界で自分が最初に知る真実”を追求する者の真の偉大さが垣間見えて頭が下がる。今やお金さえ出せば宇宙旅行だって手に入る。けれど知力体力そして時の運。三拍子揃ってようやく目にする人類で一番乗りという体験は、金銭には交換不可能な、彼らだけが知る世界だろう。一番乗りなんか意味無いし、と運動会ではビリッケツ体験しかない勉強秀才がうそぶいたとしても、それはやっぱり負け惜しみだろう。
かつて無心にバッタを追った少年は長じて生物学者となり、一年の半分以上を船で過ごす。ロマンだ。けれどDNA大流行、鯖に鮪を生ませようとする試みが進む今、彼らの研究スタイルを泥臭いと思う向きもあるだろう。嬉しい楽しいだけで終わらないうなぎ丸の冒険譚は、現実に根差しつつ夢を追う事の難しさを織り込んでいて貴重だ。でもやっぱり夢を追う事は楽しい。けれど僕は私は夢を追って旅に出る、そんな若者が続いてくれればいいなと、夢を見る頃を過ぎた人は思うのです。彼らの姿に惚れ込んだ、無頼の作家が注ぐ憧憬の眼差しが切なくも心地いい。
白いご飯の上でホカホカと香気を放つ蒲焼の一切れ。その来し方行く末に畏敬の念が沸き起こる事必至。うなぎ丸に幸いあれ。何といっても鰻は天然ものに限るのだから。
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