紙の本
一世一代の名作についての「一世一代の名作」
2007/05/25 19:45
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
この小説の面白さは、「1度『FUTON』を読んだ読者は、サンドイッチチェーンのSUBWAYをもはやこれまでのように眺めることはできず、現代文学の僥倖を思い返しては、思わず笑みをもらさずにはいられない」というような喩えでいいあらわすことができるかもしれない。それくらい、中島京子の『FUTON』は面白く、刺激的で、わたしたちの日常生活(とそのまなざし)を根底的にゆさぶるほどの筆力で迫ってくる。とはいえ、ストーリーは、永遠の定番ともいうべき、通俗この上ない男女の三角関係を柱としている。しかも、若い男女と、中年男性。もちろんこれは、日本近代文学史上、一世一代の名作の1つともいえる田山花袋『蒲団』のモチーフでもあるのだが、中島京子はそれを核に、いささか複雑なバリエーションで、この三角関係を多様に同時展開させながら、そのことによって現代文学の新境地を開拓していく。そこには、老人介護問題が、あるいは甦る玉の井が、さらには書き直される『蒲団』=『蒲団の打ち直し』が飛び交い、そのカラフルでしかし批評的に巧まれもした小説は、読者を幸福な文学の記憶/未来で包み込むと同時に、それ自体つまりは中島京子『FUTON』もまた、「一世一代の名作」と化していくのだ。(とはいえ、中島京子は一発屋ではなく、その後も素晴らしい作品を書いています)
紙の本
打ち直された蒲団にくるまれてしまおう
2011/06/20 11:36
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:辰巳屋カルダモン - この投稿者のレビュー一覧を見る
田山花袋の明治の『蒲団』と中島京子の平成の『FUTON』を揃えた。
まず『蒲団』を読了し、たくさんの「?」を抱えながら『FUTON』に掛かる。
実は中島京子作品は初めてだ。ヒヤヒヤしながら読み始める。
1ページ目半ばで、早くもアタマの中にOKサインが出た。読み進むほどに安心感が増す。
メインストーリーは『蒲団』を連想させる内容だ。そこに「蒲団の打ち直し」なる小説内小説が織り込まれる。
主人公は日本文学専門のアメリカ人教授という変わり種。授業や講演会という形で自然に『蒲団』の解説が入るのは嬉しい。
著者のものがたりは巧みだ。何でもない日常が著者の手にかかると、とびきりの非日常に化ける。
95歳の老人ウメキチは繰り返し同じ夢を見る。毎度同じセリフで、あいまいに途切れる。途中、うっかり退屈しかけた。だが「果てしない繰り返し」「あいまいさ」こそが95歳の脳内そのものだ、と思い当り背筋がひんやりした。
「蒲団の打ち直し」部分はさらに見事である。読むごとにパズルのピースが「くっ」とはめ込まれる爽快感がたまらない。
「そう、そう思った!」「あ、それは気がつかなかった!」「そこまで想像の羽を広げるの?」などと一人ごちながら、実に楽しく読んだ。
最終盤で主人公は、友人になぜ花袋の『蒲団』が好きなのか?と問われる。
その答えは……ああ、このセリフを日本男子が発するわけにはいくまいよ、主人公は中年アメリカ人男性しかなりえないのだ!と一気に腑に落ちた。
読後感がまた素晴らしい。それは充分に干した蒲団にくるまれたような安堵感だ。
人がみな愛おしく思え、明日が少し待ち遠しくなる。
『蒲団』と『FUTON』を同時に読める、21世紀に生きる幸せを心からかみしめる。
ぜひ、2冊セット販売して欲しい!付録は、ミニチュア蒲団、またはリボンで!(注;付録は選べません)
電子書籍
最高のアレンジ
2017/05/06 21:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
電子書籍、巻末特典本家花袋の『蒲団』付。なんとお得な。とりあえず中島さんの方から読む。ウメキチはじめ個性的な男性盛りだくさん。どれも妻の他に恋心を抱く女性を持つ。ウメキチの場合は遥か昔の記憶のため、それが現なのか夢なのか誰も判断ができないのが一興。デイヴ教授の蒲団アレンジ、妻視点からの夫の酔狂。子を三人もなしている故、どっしりしていて極めて正論で清々しい。中年夫がプラトニックラブで終った女弟子の蒲団で見悶えた後に妻がとった行動。これぞ本妻というものか。天晴。男は新しい玩具を求めるばかりで。しょーもな。笑
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何気なくタイトルに惹かれて手にした本だったのだけれど、予想以上に深く面白い小説だった。
中島京子という人も初めて知ったのだけれど他にも幾つか書いているようなので是非読んでみたい。
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面白かったです。
自分の中で、こういう小説をどう分類すればいいのかはわかりませんが。分類する必要もないけどね。
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日本現代史でタイトルとか名前は誰でも聞いたことあり、と思われる田山花袋の『蒲団』を研究するアメリカ人文学者デイブ・マッコーリー(息子ありのバツいちのアメリカ人)、デイブの教え子で愛人の日系アメリカ人エミ・クラカワ、エミの母親の親族で東京鶉町で戦後から蕎麦屋をやっていた明治生まれの老人ウメキチ、ウメキチの息子で蕎麦屋を外資系サンドイッチチェーン店に商売換えした二代目タツゾウ、画家を目指しつつ絵では喰えないので介護ヘルパーとしてウメキチのところに通ってくるイズミ、イズミが一緒に暮らしているケンちゃんことハナエ、などなどの人物が、アメリカと日本、花袋やウメキチの時代と現代を行きつ戻りつしながら、とても簡単には説明できないのですが、なんとなく遠巻きに絡まりあってつながって円を描いているような、そんな独特なお話でした。
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田山花袋『蒲団』の打ち直し作品。物語と、デイブマッコリーによる『蒲団』の打ち直しが綺麗にリンクしていて面白い。一気に読める。誰の声も聞こうとしなかった竹中時雄とは違い、様々な人物の声に耳を傾ける(傾けられる様になった)デイブ。登場人物の名がカタカナな事や、人物設定に込められた謎も気になる。
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田山花袋の「蒲団」を、現代版にした話。
デイブがキュートな女性たちに翻弄されますw
女性に苛まれる男性って、可愛いですね♪
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なんとも近代的な名前をつけてもらったものだ。
美穂。
美しい、実り。
原作では名前さえ与えられなかった女性が本作では主人公の座を射止め、物語を語りはじめた。
田山花袋の『蒲団』を題材にとって瑞々しい女たちの姿が動き始める。
自分の夫が奔放な女弟子に翻弄される姿を悔しい思いで見つめつつ
生活が荒れないようにあたりに目を配る主婦の目。
華やかな女弟子の姿に母としての日常に追われ「女」を捨てている、と目が覚める瞬間。
その気づきが豊かな実りをもたらすのだろう。
「女」なだけでは身につけられない母の豊かさ。
永遠の男の子である夫の目には気づかれないかもしれないが、女は何食わぬ顔でと変化を遂げるのだ。
女弟子には到達できない豊かさであるかもしれない。
ふてぶてしさと豊穣。
明治の女の強さと平成の女の肝の太さ。
男は幻惑させられる。
なぜなら彼は女の一面しか見ないから。
一面にしか執着できないから。
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家族のペースメーカー埋め込み手術の日に、病院の売店で見つけた。どこかで作者名と書評を読んだ気がしたのだが、何をどう書いてあったかさっぱり覚えていなかった。ただ、田山花袋の「布団」といえば、日本文学を専攻した人間には常識。一応、元の小説も図書館で読んだこともあった。本当のことを言うと、高1のときの国語の先生の「出て行った女の弟子の布団の残り香を嗅ぐ」という、先生自身も「え?」と思った話が印象に残っていたのだけど・・。
で、最終的に、手術の待ち時間に読む気になったのは、冒頭に出てくる蕎麦屋のじいさんが「ペースメーカーで思いがけず長生きをした」とかいう部分を読んだから・・。親戚に蕎麦屋がいることも縁を感じた。
ただ、慣れるまではちょっと読みづらかった。映画のプロローグのように・・。それが、終盤は走るようにして読み終えた。あまりにいろいろなものがはめ込まれていたもので、何度か前のページをめくって確認したほどだ。
この作家の作品、我が家にもう一冊ある。読むのが楽しみだ。
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タイトルからもおわかりのように、田山花袋の〝蒲団〟を本歌取りした長編小説です。
感想を簡潔に述べるとすれば〝おもしろかったぁぁぁ〟のひと言に尽きます。
主人公はアメリカの大学で教鞭をふるう日本文学研究者。女性を巡る彼の私生活と、彼が〝蒲団の打ち直し〟と題して、女性視点で焼き直して書き上げた小説。そして、東京の下町に暮す百歳になろうとする老人とその周辺の人々・・・これら3つの物語が交錯しながら、ストーリーは展開していきます。
ただ面白いというのではなく、人が生きていく上で背負わなければならない重荷、その過程で深く刻み込まれる心の傷痕などもしっかり描かれていて、断片的に語られる老人の過去などは、胸に突き刺さるものがありますよ。
日本文学史に残る花袋の〝蒲団〟ですが、そのタイトルだけ知っていて読んだことないという人でも、中島京子さんの〝FUTON〟には、すんなり入り込めると思います。また、花袋の〝蒲団〟を理解する上でも、〝蒲団の打ち直し〟は、良いサブテキストになるのではないでしょうか?
デビュー作とは思えぬほどの面白さでしたぁ。
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田山花袋の『蒲団』を下敷きにした小説。元の話が情けない男の話だっただけに、女性が咀嚼してくれると面白いだろうなと思って読んで、やっぱり面白かった。
ただ、デイブはあんまり情けなくないし、女性の成長とかにもスポットが当たってるから味付けはかなり違う。露悪的な要素はあまりないし。
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”中年の小説家が女弟子の蒲団に顔をうずめて泣く”田山花袋の
「蒲団」を奥さん目線で打ち直しつつ、現代版の「FUTON」を描いたところが、ナイスアイディア。
全く、男ってのは若い女のカラダに弱い。
特に中年男が若い女に翻弄されてオロオロするのは、
全時代、全世界共通らしい。
若い女はソコに付けこみ、世渡りしていく。
結局、人生は”若気の至り”の延長線にあり、
大人や他人がどうこう言うだけ、ヤボなんだな。
登場人物の中では画家志望のイズミが好き。
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日系の女学生エミに翻弄される中年のアメリカ人教授デイブの葛藤を軸に、挿入される作中作『蒲団の打ち直し』、そこにエミの曾祖父ウメキチの回想も入り、どのひとつをとってもひとつの小説でいけそうな物語。
『蒲団の打ち直し』は田山花袋の『蒲団』のremixで、細君の視点から描かれている。デイブとエミの話はデイブ側からの視点なので、この異なった視点の当て方が物語に深みを与えている。
すごい面白い。
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打ち直しの部分はおもしろいけど、現代の部分が私には刺さりませんでした。特に登場人物の多くその人たちの言動に無駄が多い気分。