紙の本
堂々たる西洋歴史小説
2008/08/07 01:25
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
皆川博子さんについても西洋史っぽいものをたくさん書かれていると
耳にはしていたのですが、これほどとは、、、。
読む前は、お城を舞台にした、ゴシック・ミステリかなぁ?なんて思っていましたが、
全然違いました。
旧教、新教に分かれ、又、外国からの干渉軍まで引き入れて
凄惨な戦いが30年も続きその後の、ドイツの発展を遅らせた原因にまでなったといわれる
ドイツ30年戦争。
馬の腹から生まれたといわれる孤児アディ、ユダヤの金貸しの一家コーヘン家、
傭兵隊長ながら、一国の領主まで昇りつめた、ワレンシュタイン、
傭兵にありながら、清く生きる、フロリアン兄弟などを、巧みに配置し
この30年戦争をリーダビリティが少しも落ちることなく、最後まで描ききっています。
当時の傭兵が主体となった、凄惨な戦争の様子もさることながら
又、敵味方が入り乱れ権力の奪い合いの歴史絵巻として、
又登場人物たちの生き様も含めて、群像劇としても圧倒されました。
傭兵隊長ピエールでも描かれていましたが、当時の軍隊というか、傭兵は、
戦争が乾期になるとそのまま無法者の野盗集団に変わります。
又、その傭兵集団にぞろぞろとついて回る輜重部隊とは、名ばかりの
娼婦と軍隊の御用足し商人の群れ、
登場人物の一人アディは、この輜重部隊で育ちました。
この辺の様子も、大変リアルに描かれています。
正に、30年戦争を庶民それも、もっとも最前線の傭兵の視点からも
描いているわけです。
又。当時、コーヘン一家、非差別民族だったユダヤ人一家の金貸しについても
そうでして、既得権益、実労の職業にはつけず、
生きるためには、金貸ししか商売がなく、
その分、教育と金融、情報には投資し被差別民族として表には、立てないが、
歴史を裏側から支配しようとする様が、大変リアルに描かれています。
彼らに言わせると、戦争は、大変儲かる。又自分たちを擁護してくれる権力者に投資するだけでなく、
金融と情報の力を屈指してそのような、権力者を育てていくのだと。
恐ろしいまでの、生き様です。
巻末の参考文献も気になったのですが、
そこに、「ドイツ傭兵(ランツクネヒト)の文化史」(読めていません)が、でーんとありました。
これは以前、この本の訳者、菊池良生さんが、この本を底本にして書いた、
新書「傭兵の二千年史」(読みました)でも、紹介されていて、
ずーっと読みたいなと思っていた本です。
載っていて嬉しいやら、ちょっと悔しいやらでした。
リアルなところ、歴史書としてのポイントなんかばかり
書きましたが、メインではありませんが、暗号、謎、ミステリとして面もありまして、当然、小説としてのリーダビリティも相当です。
ちょっととっつきにくいかもしれませんが、
圧倒されること間違いなしです。
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投稿者:lucky077 - この投稿者のレビュー一覧を見る
出だしから筆力の凄さを感じ、そのため場面の映像が浮かびあがって気分が悪くなりました。寂寥感を感じさせる作品で、途中で読むのを止めてしまいました。
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「馬の胎から産まれた少年」アディと、宮廷ユダヤ人の息子イシュア。
ふたりの運命が、果てなき戦乱の中で変転していく。終わりの見えない
宗教戦争に出口はあるのか。ドイツ三十年戦争を傭兵とユダヤ人の目線
から描ききる。
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●タイトルと冒頭からして皆川博子おとくいの幻想歴史ミステリかと思いきや、わりとまっとうな歴史小説。少年の成長物語の一面もあり。扱っているのは世界史でおなじみドイツ30年戦争ですが、授業内容をまるっとスッキリ忘れていたので、最後までわくわくと頁を繰れましたよ、と。
●見所は、“馬の胎から生まれた”少年アディとユダヤの富豪コーヘン家の末息子イシュアとの友情、絶えざる戦いの中でユダヤ人の力を伸ばすべく奔走するコーヘン家の長兄シムション、アディが魅了され仕える事になるローゼンミュラー兄弟の戦いっぷり等々。血湧き肉踊る戦闘場面も悪くはないですが、キャラクターの内面描写への目配りの仕方が女流的と言うか皆川先生らしい、のかな?
●しかしこれを御歳75才頃に書かれたのですねえ・・・瑞々しいなあ・・・(´Д`)
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時代や場所設定こそ各書異なれど、ページを開けばそこは紛れもなく皆川ワールド。
クールな筆致で連綿と綴られる壮大なクロニクル。
決して美化された表現ばかりではなく、むしろ生身の人間につきものの恥部や汚部を粛々と連ねているにもかかわらず、物語全編を通じて壮麗とも表現できうる品格に満ちているのはまさに著者の為せる業の真骨頂だろう。
これは、読む者に“生活する実社会の謝絶”を求める小説である、少なくとも活字に向かっている間は。
我々が肉体で知覚している五感を遮断しなければ、味わい尽くすことはできない。
そうして登場人物同様、到底個人の力では抗しきれない大いなるうねりの中に読者も呑み込まれてゆく。
まさに栄枯盛衰、確実に荒廃と破滅に向かって徐々に歩んでゆく物語の中で、主人公の純愛感情が重要な一本の柱として、存在感を主張している。
また、あまりに詳細で具体的な戦闘描写に心底舌を巻いた。
一体どれほどの考証を行っているのだろうか!
まさに皆川博子こそ、不死身の怪老女ではないのか!
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シムションが哀れで、たまらなく好きです。
この本のおかげで、ゲマトリア、ノタリコンやテムラー、錬金術などに熱中し、
単位を落とした思い出深い本です。
暗号というものに惹かれ、『秘文字』という素敵な本とも出会えました。
物語で楽しませてくれるだけでなく、
知識欲を掻き立ててくれる素晴らしい本だと思います。
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09/02/27読了。
ユダヤ人と傭兵の視点から書いたドイツ三十年戦争。
知識が無いのもあって神聖ローマ帝国の領邦が把握できない自分が残念。
でもわかりやすさはすごい。
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傭兵と宮廷ユダヤ人の視点から描いたドイツ30年戦争。
17世紀の神聖ローマ、傭兵に略奪される村の凄惨な情景に、一瞬にして入り込まされる圧倒的な筆力。ひとつひとつの言葉が深く美しいのです。
今回の主人公もそうですが、この数年の作品は自らの足で立って生きていくたくましい人間が多い気がします。無力で翻弄されるばかりの弱者ではなく。
いつからか「少女」を主人公には書かれなくなってしまったのが残念なんですけど、でもこのお話はすごく好き。今回図書館で借りて読んだんですけど、ぜひとも手元に欲しいです。
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実に重厚な一冊でした。歴史的背景はある程度把握してないとつらいかもしれません(この辺世界史で習った記憶がかすかに残っていたけれど、それでもなかなか理解するのは時間がかかりました)。でも半分過ぎたらそのあとは読まされました! ただ、登場人物全部把握できるようになったのがそのあたりだったんですけどね私は(苦笑)。
大雑把に言うと傭兵の物語です。傭兵、って言葉は知ってるけどどういうものだか分からなかったので、勉強になったなあ。軍略部分は読んでいてわくわくしますね。ローゼンミュラー兄弟はカッコいいよなあ。軍のポリシーが素晴らしいです。
タイトルである「聖餐城」と「青銅の首」に関する部分は、ミステリといえなくもないですね。あっと驚きの真相!というわけではなかったけれど。この真相は感慨深かったです。じんわりと残るものがありました。
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正直,皆川氏なので期待して読み始めたけれど,途中までは少々つらかった。ただし,あるところから物語は急に疾走していく。ぐいぐいと読む者を引き寄せ,かなりの厚みのある作品ながら,一気に読ませた。歴史的な視点がなかったらちょっと難しいかもしれないが,あまり気にならない。映画としても見たい作品w
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1600年代のドイツ30年戦争で帝国分裂を舞台とした大河小説。ケプラーやクロムウェル、神聖ローマ帝国皇帝のルドルフ二世まで出てくる。絵画的にはルドルフ二世といえば有名な、あの植物で作った肖像画の人で、政治そっちのけで文化財や骨董品収集に錬金術で人体錬成までからんだ実に興味深い人物です。
錬金術士とかホムンクルスとか、鋼の錬金術士で仕入れた知識が序盤からバンバン出てくるので、ついついハガレンが脳内変換されました。
時代的にオランダ絵画黄金期にかかるあたり、レンブラントが有名になりフェルメールが出る時代で物語が終わる。この戦争の裏でオランダが力を付けたのかな、なんて思いつつ読むと楽しい。
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勉強している人の本は面白い。
歴史的な背景だったり、その社会での仕組みや文化。解らないことを想像や好き勝手に作り出した設定を使うのよりもずっと。時間と手間をかけた分だけ醸成された深い作品に仕上がる。
本書「聖餐城」はまさにその土台がある。
あらすじ:
17世紀の神聖ローマ帝国時代のドイツは新教旧教間の争いが発端となり、長い戦争に突入していた。「馬の胎から産まれた」アディは掠奪にあった家で同年代の少年、イシュアに出会う。背骨が盛り上がった異形だが、整った顔の「ホムンクルス」イシュアの要望でプラハへ。やられる側よりやる側へ。アディは掠奪を許さない厳格な規則と訓練による私兵ともいえる傭兵を要するフロリアン・ローゼンミュラー隊の兵卒となり出世していく。
イシュアの兄、裕福なユダヤ人シムションは皇帝の宰相・ヴァレンシュタインに出資し、彼をのし上がらせることで権力への階段を上っていた。差別されるユダヤ人の地位はもろい。世界の経済を手中におさめ、ユダヤ人がいなくては世界が動かないようにしよう、と。その犠牲となり地下牢に閉じ込められたイシュアは白髪の老人のような風貌へ。同時にさまざまな知識を吸収していく。イシュアの存在はそうしてシムション、ヴァレンシュタイン、皇帝にとってなくてはならないものになっていった。
スウェーデンが乗り込んできて以来、フランスなども戦いに加わり、泥沼化する戦争。補給や鬱憤のたまった自他国交わる傭兵に荒らされる村々。権力を求めるヴァレンシュタインと執着を見せるヴァレンシュタイン。ヴァレンシュタインを陰で操るシムションは戦争で儲け、権力を手中に入れるが、被差別民のユダヤ人故にすさまじい信念を抱く。存在感を増してくるイシュア。戦場で活躍するフロリアンとアディ。王や貴族が油滴る肉をほおばっている間、兵士たちは傷付き遅れる補給に餓え、掠奪を行う。
さまざまな思惑が絡み合うドイツ三十年戦争に巻き込まれた人々の運命とその終結までが描かれる。
圧巻のヴォリュームの本作は、登場人物が多い。ドイツを中心に、ヨーロッパが舞台とあって、名前を覚えるのに非常に戸惑った。ここが海外もののネックなんだよな。もしかしたら挫折するかもという予感を抱えながらの読書だったのは、最初の300ページくらいまで。
海外が舞台の歴史小説――しかも神聖ローマ帝国なんてたいそうな名前は知っていても実態は殆ど解らない高校日本史選択者(=わたし)にはこのころのドイツの政治制度や社会・文化が解らないからまあ難しい。でもしっかり調べてあってうわべだけの知識に留まらないことを登場人物たちの動きが証明してくれる。そうやって編まれていく話は興味深く面白い。
そして色んなテーマがみえてくる。
傭兵が一般的で、勝てばそのまま負ければ勝利した軍へ鞍替えするものがほとんどで、僅かに発生する賃金ではなく掠奪によって生計を立てているようなものだ。その描写がすさまじい。日本的に例えれば戦国時代、勝者側の足軽が負けた国を蹂躙するって感じか? まあ領国に入れてしまうから、日本ではこんなひどくはないし、身分が流動的な戦国時代にそんなことしたらそれこそ狙われるのか?
初めは育ちを示すような乱暴な口調だったあのアディが立派になっていくのが心地いい。ちゃんとした口調でフロリアンと語るシーンに感動した。
しかしこのローゼンミュラー隊を養っているシムションといわばシムションのボスであるヴァレンシュタイン、ヴァレンシュタインと他貴族・皇帝、ドイツと他国の中で繰り広げられる、兵士の側から見たら直接的なかかわりがない政治ゲームが彼らの運命を翻弄する。
このころの貴族以外の人って一体なんなんだろうか。そんな思いに苛まれる。民が苦しみ兵が疲弊しているのに、自分たちは常に豪華で堅牢な城で贅沢三昧。見栄を張ることが大事で、まさに鶴の一言で首が飛ぶ。アディたちが感じる憤りがそのまま伝わってきた。
中でもすごかったのはアディの夢。やられる側よりやる側に、という理由で傭兵になったアディがフロリアンへの忠誠とは相反する恋心のために思い悩む。イシュアがポロリとこぼしてしまった一言を胸に抱き、必要とされる人間になっていく。絶対無理だろうことなのに、追いつめられることでチャンスをつかむ。皮肉でもあるが大いなる一歩で、そしてそんな簡単なことがまかり通らないからこそ苦しむ人々がいるんだ。
もう一つが世界経済を手中にするユダヤ人の一人シムション。ユダヤ人の差別の歴史があるからこそ、彼は私的な欲望とユダヤ人社会のための野望を抱くようになる。ユダヤ人だからという理由で財産が没収されるなんてことは何とも不合理だ。しかし20世紀になるまでは少なくともこの系譜は続いている。21世紀でもエルサレムなんかではまだあるのだろうね。
ユダヤ人――。日本に住んでいればこの言葉の重みは解らない。けれどこうして本を読むことによって、彼らがつながらざるを得なかったこと、そして少しでも立場をよくするために勤労に励んだことが薄らと見えてくる。
そんな何層仕立てのパイみたいにいくつもの物語が欲望によって複雑に絡まっている。そしてそれを大いなる感動――苦さがこもった感動を抱き、読み切ってしまう。外国の歴史小説にもかかわらず、だ。
そこにはるのは深い理解。参考文献の量にも表れているが、作者はきちっと勉強している。本を作り出すものの責任を果たしている。そこに皆川さんのあの独特の幻想的で色気がある描写が加わるんだ。
面白くないはずがない。
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相変わらずの凄い引力でグイグイ引っ張られる。タイトルが軸になる話かと思いきやそうではなく、ある濁流の中の木片達の流れ方を描いたものかと。そして最近のお約束として、奥付と略歴を思わず確認、のち仰け反り&平伏。七十代後半でコレってッ!!ンもう素晴らしい気概と気迫。取扱う題材もさる事ながら、文の勢いがまったく衰えないのが凄い!格好良い!惚れる!
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三十年戦争の話。世界史の知識がないとちょっとつまらないかも。
傭兵たちの暮らしや働きが詳しく描いてある。
ユダヤ人が戦争を利用して各地で経済力をつけ地位を築いていく様子がおもしろかった。
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三十年戦争を舞台装置に繰り広げられる狂乱と残酷の歴史小説。
イシュア、アディに尽くしすぎじゃない??新手のツンデレすぎない???とか思ってしまいましたが・・・。
忠義と愛欲と小さな恋のメロディとが綯い交ぜの濁った空気を吸い込んだアディを思うと・・・凄まじい。