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太平洋戦争末期の帝国陸軍の主力戦闘機、四式戦闘機(キ84)「疾風」の概説書になります。あと読みは「はやて」じゃないよ「しっぷう」だよ。
著者の碇義朗氏は、元陸軍航空技術研究所所属のノンフィクション作家で、かつての帝国陸海軍の軍用機に関する本を多数執筆しています。
氏の本の特徴として、その機体の開発の経緯と戦史を軸に、その前史となる軍用機や時代背景にもそれなりの紙数を割いて触れられているという点が挙げられます。
そのため、本書でいえば「陸軍の戦闘機開発史」、あるいはさらに大きな「太平洋戦争史」という流れの中に、「疾風」という戦闘機がどのように位置づけられるかが掴みやすく、入門書としてお勧めできます。
ただし、裏を返せばそれなりに四式戦についての知識があり、もっとディープなことを知りたい!という方には微妙かもしれません。(以前、氏の零戦の本でそのパターンに遭遇しました。)
本書も「疾風」以前の陸軍の主力戦闘機である九七式戦から話が始まり、一式専「隼」、二式単戦「鍾馗」を経て「疾風」に繋がってゆきます。
「疾風」の一番の特徴ともいえる、搭載エンジンである二千馬力級の「ハ45」(海軍名「誉」)の開発経緯については1章分をまるまる使って詳しく述べられており、非常に参考になります。
しかしながら、発動機の内部構造の図が皆無で文章のみで説明されているため、イメージが掴みにくくやや難しいのが玉に瑕…。
相次ぐ故障や不具合を乗り越え、ついに四式戦闘機として正式採用されたあとは、「大東亜決戦機」の称号で大量生産され、フィリピン戦、沖縄戦など戦争末期を象徴する戦いに投入されてゆきます。特に沖縄戦では特攻機としても多数が使われました。
この後半部では戦史に加え、稼働率を維持するための整備の工夫等、運用面にも触れられています。
そうして戦場に「疾風」を巻き起こしたキ84ですが、敗戦とともにその翼を畳むこととなりました。
しかしその性能の優秀さは敵国であったアメリカも認め、「日本軍の最優秀戦闘機」との評価を与えています。