紙の本
傑作です。
2007/08/14 12:30
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず白を基調にして印象的な赤をあしらった装丁があっさりして不穏な雰囲気を醸し出しており峯田和伸と浦沢直樹による惹句を白抜きで引いた帯も生きていて素晴らしい。一枚めくって東京タワー、さらに目次、そして第一話の冒頭から1969年の東大闘争や安保紛争がイメージで語られ、物語の舞台である瀬戸内安芸の浜市にカメラが移動し、スーパーカブで市バスを追い抜いていく「天才」のヘルメットを被った学生服の男が描かれる。この追い越しの場面でのコマ割りがかっこいい。横に並ぶコマでバスの運転手と天才ドライバーをアップにし、一コマの中に横に並ぶバスとバイクの引きの絵(これがまるで映画みたいで迫力満点)、アップになって「ビュン」という擬音とともにバイクがバスを追い越し、ここでページをめくると遠景の奥にバスがあり、煙のような埃のような記号が画面中央より少し上に浮き海岸沿いの道路が描かれている中にバイクの姿はなく、次のコマでおそらくはバスからの視点で透視図法的に描かれた中心にすでに遠くまで走り去っているバイクの姿が小さく見える。この呼吸はちょっと最近の漫画にはないかっこよさだと思った。もちろん『デメキング』は1991年に集英社のビジネスジャンプに連載された作品であって、1991年が「最近」になるかどうかは微妙なところだが、しかしまあこの時代にあってもこういう余裕のあるかっこいいコマ割りはあまり見られないものだったという記憶が私にはあるので、この漫画に賭けた著者や編集者の意気込みを感じさせられるシーンだった。その後も全編に渡って丁寧で、かつ唖然とさせられるような描写、展開、台詞が続くこの作品の内容について触れると、どうしたってネタばらしになる他はなく、そしてネタをばらしてしまうとこれからこの作品を読む人の大きな楽しみを奪うことになってしまう種類の作品でもあるので、物語には触れないことにするが、実際、この不条理さとリアルさが高度な緊張と緩和の上で交錯する感触は、ちょっと他の作品では得られないものである。これこそ傑作の名に相応しい。
もっとも、巻末の著者インタビューによると彼自身はこの作品を「失敗作」に位置づけているらしい。まあ、正直いって作者の立場からは確かに「失敗」であるかもしれないとは思うものの(そしてもし「成功」していたとしたらそれはもう途方もない作品になっていただろうとも思うのだが)、しかし「失敗」さえも含めてやはりこれは傑作なのだと読者としては強弁したい。ほとんど強引に「終わらせる」ために選ばれたような書き下ろしの3ページにしたところで、この「オチ」じたいが、また一筋縄ではいかない不思議に屈託した読後感を与えるものなので、こういう屈託は得ようとして得られるようなものではなく、まさしく「才能」と呼ぶより他にしかたがないものであるように思う。
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いましろたかし伝説の怪作「デメキング」がとうとう復刻!!
前の版も持っているけど、たった2ページの加筆とインタビューが読みたくて1200円(+税)出した。
ラストの力技。
これだけ強引な締めくくりでありながら、読者を脱力させ置いてけぼりにしまうところが「いましろ節」全開、と言いたいところだが、この辺は議論が分かれそうだ。
しかしこれを理解できない人は作中の台詞を借りれば「凡人」である。
あまりにもその思考回路が突飛すぎて未だに時代がついてこれない、来世紀向けの漫画。
自称天才は今すぐ本屋に向かえ。
そして新宿駅小田急前で己の思想・信条を演説せよ。
路上であいだみつをの真似事をやっていい気になっている自称芸術家には飯を奢ってもらえ!!
2009年になだぎ武主演で映画化もされた。
いましろ氏自身も脚本に携わっている模様。
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なにかあるなにかある..って読んで、ウワーなにもなかった!!
ってなった瞬間、なぜか気持ちいい。不思議。
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全体の印象としては、ずっと何かが起こりそうで結局起こらないという感じを描きたかったのかなと思ったけど、別にそうではないみたい。
この本の中で後書きが一番興味深い。
世間の求めるものと自分のやりたい事の折り合い、作品性と生活の板ばさみ・・・。
ラストは蛇足以外のなにものでもないけど、後書きを読むとこの作品に対する現在の作者のテンションが伝わってきて・・・なんか納得した。
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大怪獣デメキングに東京は蹂躙され
自分の教え子たちも皆殺しにされてしまう
そんな未来を知ってしまった主人公
デメキングの襲来を止めるために立ち上がるのだが…
なにをすればいいのかわからないまま
だらだらした時間がすぎていく
そんな漫画だ
巻末のインタビューを読むと
結果的にマリンパークの社長がこの物語の
テーマを担ってしまっていることに気付かされる
トホホである
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尻切れだけど、途中までの雰囲気は最高。それだけで買う価値あり。
付け足されたラストは、自分には蛇足。絵の感じも昔とは違いすぎて違和感がありすぎ。
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いやー、・・・いやー・・・すごいよ。うん。佐藤友哉「クリスマス・テロル」のような、奇書でした。感慨深い。20世紀少年にも似てる。たぶん、いましろ氏しか書けない漫画(いい意味でも、悪い意味でも)。主人公のクールさは尋常ではない。トラジコメディ。
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田舎でくすぶる冴えない男が、東京が近い未来に大怪獣に襲われるビジョンを幻視して、一人黙々と迫り来る大怪獣との対決に向けて何かできることはないかと模索するという話。
男がたらたら過ごしたり、怪獣のことを考えたり、たらたら過ごしたり、怪獣のことを考えたり……という様が淡々と描かれていく。不思議な漫画。
巻末で作者も語っているように色々と不完全で不細工。いたるところに綻びが見えるのだが、それでも突き放しきれない魅力があって、特に何が起きるというわけでもない話なのだが強く同情・共感させられてしまう。
どうしようもないボンクラがどうかして人生がひっくり返るような一発逆転のカードを手にすることで、ぱっとしない人生になんとか光明を見いだそうとするという構図が『太陽を盗んだ男』的で良かった。
ただやはり未完であることが残念。
最終的にどこにもたどり着けないまま唐突に話が終わってしまっていて、これはちょっと酷すぎる。
今回の「完結版」では最後に2ページ分加筆されてるのだが取って付けた感があって、こんなオチなら尻切れで終わっていた方がいいとすら思った。
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書き下ろしが無くともつまらないのでは。著者が見据えていた以上のことを深読みするのは好まない。著者が何も考えていないと言っているのだから、それまでの作品なのでは。
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1960年代~70年代の少年たちの世界に、怪獣デメキングの足跡が!しかも「平成」と書いてある。
解説もしている浦沢直樹の20世紀少年をほうふつとさせる物語だが、このデメキングはSFというか文学的な結末が用意されている。
都会を踏み潰す幻想の怪獣の正体は、なんと詩人だったのである。
映画のほうを先に見ていたが、印象が全然違った。