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本書は2007年の通常国会にて構造改革特区法の改正法案が上程され、制度の見直しについて議論されることになったことに対して、東京市政調査会が様々な調査研究から提言を行った際の研究結果をまとめたものである。
構造改革特区に関しては先行研究も複数存在するが、制度やデータ・アンケートの分析、事例研究など総合的な視点を持っており書籍として出版されているものとしては一番内容の濃いものだと思う。
構造改革特区の最終的な目的は「経済活性化」である。それを達成するために、特区という地域での社会実験を通じた「規制改革の全国波及」と、地域の特性を顕在化させることや政策立案能力を向上させることによる「地域経済の活性化」という二つの目標が掲げられている。
本研究では、これらの目標に加えて特区制度が中央政府からの権限委譲という観点から分権的性質を持つものとして捉え、この分権的性格がどのような実態を持ち、地方分権にとっていかなる意味を持ったのかという点を大きなリサーチクエスチョンとしている。
この点に対する答えを端的に示すと、少なくない自治体が特区制度の分権的性格を利用した提案を行ったのに対して、中央の所管省庁側は特区制度をあくまで規制改革の手段としてしか捉えていないために、分権的提案の実現率は非常に低いということである。
特区制度が回を追うごとに提案数や実現数が減少していった最大の原因はこのギャップにある。改善の方法として「地方分権」を特区制度の目的として掲げることが提言されていたが、2007年の改正では実現されなかった。
制度は2011年まで延長されているが総選挙に合わせて「道州制」の議論が活発になる中、過去の制度になりつつある。
個人的には「道州制」という枠組みが全てを解決するとはとても思えないので、個々の自治体における特区制度やその他の取り組みの方からもう少し考えてみたいと感じる。