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女王国の城 みんなのレビュー
- 有栖川 有栖 (著)
- 税込価格:2,420円(22pt)
- 出版社:東京創元社
- 発行年月:2007.9
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紙の本
ありのままでいられない人、寂しさを抱えた人に贈りたい
2008/05/14 11:40
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けい - この投稿者のレビュー一覧を見る
謎とはなんだろう。ミステリが大好きな私は折に触れ、そんなことを考えます。謎とは過剰や欠落ではないか。本書を読んでそう思うようになりました。この答えが正しいならば、謎を解くという探偵の行為は過剰を剥ぎ取り、欠落を埋めるということでもあるでしょう。
ミステリ史に輝く傑作『双頭の悪魔』から実に15年。ファン待望の江神シリーズ最新長編である本書は読み応え充実。このたび、めでたく第8回本格ミステリ大賞に輝いたのも納得です。
先輩でありこのシリーズの探偵役をつとめる江神さんを追って、有栖川有栖(著者と同じ名前)らファンにはおなじみの英都大学推理小説研究会の面々がやってきたのは、数々のUFO目撃譚のある不思議の町、神倉。町の中心には新興宗教「人類協会」の本部、通称「城」が。
「城」にいる江神さんに会いにいったメンバーらは殺人事件に遭遇。自力で事件を解決するという教団により「城」から出られなくなり、さらに新しい謎が……。犯行現場に残された謎のメッセージ、11年前に起きた謎の密室殺人に失踪、なにかを隠しているらしい教団。さまざまな謎が提示され、雰囲気はたっぷり。もちろん、「読者への挑戦」もついていて「日本のクイーン」と呼ばれる著者らしいエレガントで論理的な謎解きが楽しめます。
ミステリの部分だけでなく、UFOや陰謀史観、SFやカフカなど古今東西の名作。さまざまな話題でも盛り上げます。多くの素材を用いて描かれるのは人間の「寂しさ」。江神さんに会いたい、という物語の始まりから「寂しさ」の匂いがします。遠くてもどこかに自分と同じような気持ち(寂しさも含む)を持つ何者かが存在してくれたら、と想ってしまう私は、宇宙からやってきた「ぺリパリ」という存在の再来を待ちわびる教団を笑えません。江神さんの推理によって明るみに出される真相も寂しさが漂います。作中で登場人物たちが交わす「寂しさ」をめぐるやりとりの場面も忘れがたいです。このシリーズの面白さである、お笑いと関西弁を駆使した軽妙さ、青春の物語と「寂しさ」がうまく響いています。「城」からの脱出をはかる推理研の面々の活劇にもしびれました。こんなにドキドキするのは自分にはこんな冒険はできない、という寂しさもあるからかもしれません。
欠落、そしてそれをごまかそうとする目くらましや虚勢の鎧といった過剰が謎を生みます。人間とは誰もがありのままではいることのできない不完全な存在。だから、人の世に謎は絶えないのでしょう。ゆえに私たちは謎の物語、謎が解かれる物語、謎を解こうとする想いの存在する物語であるミステリにひかれるのかもしれません。
欠落を埋めるためになにかを信じ、あるいは信じようとし、ときには信じたふりをし、信じるものを嗤ってもみせる。そんな人々に「これだけは間違いない」と示す探偵。名探偵とはそこに欠落があることを見抜き、それを埋めてあげられる存在。
いろいろ書いてしまいましたが、充実の本格ミステリ、お勧めです。
紙の本
15年ぶりの江神さんを待っていた!
2007/12/28 14:48
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ばー - この投稿者のレビュー一覧を見る
江神さんが帰ってきた!
『月光ゲーム』、『孤島パズル』、『双頭の悪魔』に続く、「学生アリス」シリーズ待望の第4弾である。おなじみの面々がやっと顔を合わせてくれました。
著者は有栖川有栖。ミステリ界のベテラン(大御所と言っていいのかもしれない)の一人。メフィスト賞で新しい推理作家が濫立する以前の人です。エラリー・クイーンの作風に大きな影響を受けている人で、「本の中に書いてあることだけで推理する」を忠実に行っている人。特にこの「学生アリス」シリーズ(これとは別に「作家アリス」シリーズがあり、主人公の名前はどちらも「アリス」。微妙に両者のシリーズがリンクしあってます)の中には「読者への挑戦状」が挟み込まれており、エラリー・クイーンに大きな敬意を払っているのが分かります。非常に本格派、そしてフェアな作風の人です。
と言っても、私が推理して犯人をあてたことは未だに無い。もともとのミステリが「フーダ・ニット(犯人探し)」であるのに、それが出来ないようなミステリが増えてきている中で、この人のミステリへの姿勢は、非常に好感を持てます。
前置きが長くなってしまった。
江上部長がいなくなった。英都大学推理小説研究会の面々は、残された手がかりをもとに、江神が今話題の宗教団体・人類協会総本部に向かった事が分かった。江神は何故そこに向かったのか?訝しむアリス達は、困難辛苦の末、やっと江神との再会を果たすが、<城>内で殺人事件が発生。アリス達はまたもや殺人事件に巻き込まれ、軟禁されることになる。自由を求めるために推理を繰り広げる面々。怪しげな協会の内情、連続殺人、UFO。<女王国の城>からは出られない?
というわけで、今回のテーマは「宗教」。「いやー、めんどくさいのをテーマに選んだなあ…」と当初は心配していたのですが、そこは有栖川有栖!ちゃーんときれいにまとめました。真相を見る限り、やっぱり宗教に対するアプローチってのはそこに落ち着くわけね。うんうん。
宗教がテーマなので、推理を行う上で様々な障害が立ちふさがります。マリアが、「土台の無い上に家を建てるようなもの」と述懐しますが、まさしくこの言葉がこの作品をよく表現しています。
トリック自体はいつも通り、江神達が推理していく過程で徐々に解き明かされます。謎明かしで明かされる一番の大きなトリックは、「あー、そこに関連するのか」という感じ。確かに書かれてはいるけど、これは視点を変えなきゃ解けないね。
あと、15年ぶりということで、当時(バブルに翳りが出始めた頃)はリアルタイムであった懐かしい出来事に「意図的に」多くを割いています。
ただ、当時の出来事を私は知らない(未体験)ので、多くを割いているトピックが、推理に関係しているのかどうかがちょっとあやふやだった。知ってる人にはノスタルジーなのかもしれないが。
皆が浮かれていたバブル。カルト宗教も当時流行(?)していたのでしょう。そういう意味でも、この『女王国の城』自体が、過ぎ去った「良き時代」への、有栖川からの長いノスタルジーになっています。明かされる真犯人の屈折ぶりも、なんだか翳り行く時代(今へとつながる下降の兆し)の象徴のように感じた。
それはそうと、アリスとマリアの恋愛は一体どうなるんだ!全5作品らしく、残された一作で急展開を見せる!?気になるから早く続きを…。また15年待たされたらどうしよう…。