紙の本
そして人は大人になる
2009/02/21 23:32
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ひとり日和』で、ゆったりとした、「自己」の再確認/再スタートを描いて芥川賞を射止めた青山七恵さんは、そのデビュー作にもまたすぐれたひとりの女性の姿を描いていた。何気なく手に取った文庫本で、ずいぶんと『ひとり日和』のことや作家・青山七恵さんのことがわかったような気がして、お得な感じなのである。しかもそこに描かれたのもまた、一見平凡な「若い女性」の、「自己」の再確認/再スタートであった。ゆったり感や作品としての完成度でいえば『ひとり日和』に軍配は上がるかも知れないけれど、テーマにあったみずみずしさという意味では、この「窓の灯」もまったくひけをとらない佳作なのであった。
登場人物は、ごくごく限られており、設定も複雑というのではない。それでも、ひとたび行き場がなくなった主人公が、淡々とした日々の内にも地獄を抱え、自/他ともに(これもまた)淡々と傷つけながら再生(?)を遂げていくには、十分な道具立てである。もちろん、これだけの道具で、こんな豊かな小説ができるというのは、青山七恵さんの才筆によるものなのだろう。いずれにせよ、「見ること」を表だった主題として掲げた女性主人公の「清張」は、みごとな日常の綾によって鮮やかに描かれていく。そして、抽象的な要約を施すならば、この小説は、女性主人公が自分のことを「見られるようになる」までの物語である。、「自己」の再確認/再スタートたるゆえんである。ただし、それは凡百の「自分探し」物語とは、なにかが違う。ずいぶん、違う。何が、違うのだろう?
そこに、「窓の灯」の魅力が凝縮されている。おそらく、それは自己顕示や自己肯定の欲望が、作家にも作品(女性主人公)にもない(少ない)ことと関わると思われる。そうではなく、「見ること」を気にしながら、淡々と生きていえるかのような日常を、女性主人公は必死で生き延びているのだ、たぶん。そこに、自己の欲望を育むような余裕はない。余裕はないけれど、作品の印象はいかにもゆったり、のんびりしている。そこがまた本作の妙であり魅力でもあろう。そうした地点で描かれる、「自己」の再確認/再スタートには/だからこそ、そこには力もありリアリティも宿るのだろう。
紙の本
芥川賞作家の青山七恵氏の少し変わった作品です!ぜひ、読んでみてください。
2020/07/02 10:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『ひとり日和』で芥川賞を受賞され、それ以降も、『やさしいため息』、『かけら』、『魔法使いクラブ』などの話題作を次々に発表されている青山七恵氏の文藝賞受賞作です。同書は、窓の灯を見つめるという少し目新しい状況を背景に進む物語です。現実的な場所からは隔離されたような、どこか異空間の喫茶店で働く主人公のミカド姉さんは、美しいけれど、どこか腹の内がわかりにくい人物です。わざと物語の核となる部分を多く語ってはいないような雰囲気があります。なかなか味わい深い作品です。
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ミカド姉さんの営む喫茶店で働く『まりも』ある日隣に越してきた若い男の窓を偶然に覗いたことをきっかけに覗き見が楽しみになっている。憧れの姉さんとその男達の中で、それとは一線を画した男性の出現をきっかけに微妙に変化する姉さんとの関係に戸惑い動揺する感情。他人の窓から覗き見たそれぞれの人生のかけら達がしんみりとそして爽やかに吹き抜ける風のように伝わる。第42回文藝賞受賞作。
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切ないような、もどかしいような。
少しの希望が見えつつも、むなしさも残る。
でもどこか爽やか。
ものすごい悩みに悩んだ後で「なーんだ、みんな一緒じゃん!」と気づいたときのような読後感。
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2010/10/13
夏の蒸し暑さと、窓の白々とした光。
小説の中の熱気がとてもリアルだった。
でもストーリーはちょっとわかりにくい。
ミカド姉さんの魅力が伝わってこなかった。
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どこにも居場所がない、気がする辛さ。
漂うように生きる姉さんの不思議さ。だからこその魅力。
人を傷つけるような言葉をぶつけたのに、傷ついてるのは自分で。
だけど、窓の外から見たら、「なーんだ」って小さく笑える。
人はまた笑えるようになるんだなぁ。
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日経新聞夕刊のエッセイが好きで、ぜひ小説も読んでみたいと
思って手にとったのですが・・・途中で読むのをやめてしまいました。
そんなことは久しぶりです。
表題作はなんとか読み終えましたが、書き下ろしの方は最後まで
読めませんでした。芥川賞や文藝賞という言葉にも期待を持って
しまったせいかもしれません。
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癖のない文体、でも描写とかは上手だと思う。だけどまぁそれだけといえばそれだけの小説…。いや、お上品なのかも。個人的にはもうちょっとアグレッシヴなもののほうが好きだなぁ。
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周りの人との適切な距離の取り方について考えさせられた。
あえて近づかない、深入りしない関係を基準に
それをスマートとする感覚と、もっと近づきたい、
相手を知りたいと思う本能的な感覚。
このバランスをうまく取るのは難しい。
深夜の街を歩き回り、姉に対して押さえていた気持ちを
駄々っ子のように突然爆発させる主人公に不思議と嫌悪感は
感じなかった。
実際に暗い部屋から覗かれ観察されていたら不快そのものだけど。
癖のない透明感のある文章をいいなと思った。
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青山七恵さんのデビュー作。読むのは3冊目。
「窓の灯」と「ムラサキさんのパリ」の2編。「窓の灯」は『ひとり日和』や『やさしいため息』などにも見られたような、人と関わる中で起こる違和感を静かに抱える女性の一人称で語られる。
3冊読んできて今回思ったことは、青山さんの小説はとても静かであるということ。感覚的にだが、がちゃがちゃしたところがない。青山さんの小説は読む時にとても加速がかかってしまうのだが、あまり要らないことが書いてないからではないかなと思った。五感を通して入ってくるもので、選りすぐりのものだけが残されている。そんな印象だ。
まりもがミカド姉さんに対して大きく感情が振れるところは、説明がないようで実はふだんのまりもの視線の描写とか、そういうところに現われているのかもしれない。どういう風に感情が振れるかなんて、本当は上手く説明できないんではないのだろうかと、これを読んで思う。まりもにとってあの窓はなんなのか、と読んだ後もふらふらと考えてしまう。
「ムラサキさんのパリ」はムラサキさんがダッシュで出ていくところが何か好きだ。
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淡々と主人公を中心とした生活のタイムラインの中に人間模様が綴られている。淡白そーだけど嫌いじゃないなこの作風。
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短編二編で合計150頁、凄い手軽に読める文庫。
そんな非日常な話ではないから自分の近くで起きているとも感じられるし、主人公の世界の見方を参考に自分も少し周りの見方を変えてみようかなって思わせてくれる物語。
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自分と現実世界との隔たりは、自分次第でどうにでも違って見えるんだなーと。
実際の距離は変わらないのに、近づいたと思って一喜。変化してないと気づいて一憂。
変わらないことを自分が勝手に歪めながら、生きているのか、私たち。
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特にこれといったことが起こるわけでもなく
淡々と語られていく感じ。
タイトルと話がいまいちつながらなかった。。
筑波大卒らしいですね。
↑私の中では未だに図情大だけれども。。
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青山七恵が読みたくなって図書館で借りてきた。
初青山七恵だったけど、初めてと思えないくらいすんなり馴染んで読めた。