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★2010年57冊目読了『旅立ち 遠い崖 アーネスト・サトウ日記抄1』萩原延壽著 評価B+
幕末から明治にかけて、日本に長期間にわたり通訳として滞在した英国人の日記をもとに、当時の日本を描き出した作品です。第1巻は、日記の筆者が、19才で日本に赴任して、いきなり生麦事件に遭遇し、それ以降の幕府と英国公使の交渉の裏舞台を当時の英国外交文書をもとに描き、生麦事件の当事者である薩摩藩を攻撃するために横浜港から英国艦隊が出撃するまでを描く。
生麦事件の後、このような舞台裏があったことは、勿論知らなかったし、そこに述べられている当時の弱体化した幕閣の苦衷、朝廷と幕府の葛藤など、初めて知る事実が多く語られていて、非常に興味深い物語のスタートです。
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極東の小さな島になぜ行くことを決心したのか、動機がいまいちよくわからない。でも、すごいと思う。当時の最先進国であるイギリス人が、すべてが未開といってもいい日本で、その国や人や文化を馬鹿にしたり蔑んだりすることなく、日本の生活に興味を持ち、その国に適応しようとする姿勢は半端なく感動的だ。心が柔軟なんだ。あまり宗教に囚われず自由な感性をもった人なのかと思う。
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イギリスの外交官、アーネスト・サトウの日本での滞在日記。「ゼロ年代の50冊」で選ばれていたもので興味をそそられる。
1巻は生麦事件から薩英戦争の前哨ぐらいまで。それにしてもサトウの言語吸収力に関する記述を読むたびに興奮する。言語運用能力の高い人の話を読むのってなぜか楽しい。
最近、歴史的な一つ一つの事象には、それなりに人と人の力関係が作用しているところがあって、ある一人のスーパーマンによって歴史が回されるわけではない、という感じの感覚を持っているのだが、これもそんな視点で一人一人の力関係を見ながら読んでいる。二ール、ウイリス、オールコックなど、それから日本の藩士たち。じっくり読んでいこう。
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第1巻は1862年イギリス公使館の通訳生として着任直後のアーネスト・サトウが遭遇する生麦事件をめぐる国際紛争処理を、英国史料をもとに英国の視点に立って検証する。1862年〜1863年という時代を考える時、英国外相ジョン・ラッセル卿と代理公使ジョン・ニール中佐の(やりとりに5ヶ月を要する)対日政策と、それに対するフランス・アメリカの思惑も興味深い。
ナポレオン3世政権下にあるフランスは、1861年から続くメキシコ出兵に、兵力も財力も集中させたい。メキシコからさっさと手を引き、日本で幕府への干渉を行う絶好の機会を得た英国の尻馬に、何とか調子よく乗りたいところであったろう。アメリカはそのフランスによる隣国メキシコへの干渉に睨みをきかせている。同時にアメリカ国内は南北戦争の只中にあり、欧州に対して自分たちへの不干渉をとりつけるためのモンロー主義(相互不干渉主義)を日本において自ら逸脱すれば、メキシコ駐留のフランス軍によって即座に自分の首を絞めることになりかねない。生麦事件を巡る幕府への干渉には、「まざりたいけれどまざれない」臍をかむ思いがあり、英仏とは異なる役回りを窺っている。この辺りの駆け引きが、フランス公使ド・ベルクールやアメリカ公使プリュインと、ニールとの間のやり取りによく現れているように思う。
但し、本書によれば、在日公使たちよりも本国外相らはずっと冷静に事態を判断しており、ともすると在日公使たちが本国の外交方針から逸脱しかねない状況にあった。顕著であったのは、最大の当事者である英国のニール代理公使である。また、英仏両国とも本国では日本国内の内戦に介入するつもりは全くなかった。現場の公使たちの中で本件をもっとも冷静に判断し得たのが、蚊帳の外に置かれたアメリカ公使であったことは言うまでもない。
一級の外交史料に基づく幕末史の再構築であるばかりではなく、本書の主人公である通訳生時代のアーネスト・サトウと公使館付補佐官兼医官のウィリアム・ウィリスの青春物語であることが本巻の最大の魅力であろう。過去の女性問題とその事後処理という現実問題を引きずりながら、故郷に思いのかなわぬ女性を残すウィリス。希代の秀才でありながら、英国国教会信徒の家系に生まれず、エリートの王道を歩むことがかなわないサトウ。二人の英国逃避行でもある日本着任の物語として読む第1巻は、若き外交官の野心溢れる冒険心と同時に、青春物語に特有の切なさや憂いにも満ちている。
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アーネスト・サトウ。幕末維新の日本語通訳としても活躍した英外交官。長らくサトウの名を佐藤と勘違いしていたが、Satowというアイルランド出身のイギリス人と知った時は驚いたものだ。そんなサトウの『一外交官の見た明治維新』は読みたいものだと思っていたが、それをも上回る日記抄があるという。それが本書『遠い崖 アーネスト・サトウ日記抄』である。全15巻の初巻はサトウ家の生い立ちを探る作者のロンドンでの調査紀行から始まるり、日本側や書簡の相手側など関連資料にまで言及するなど丁寧な展開。サトウの在日2年間の出来事、生麦事件、薩英戦争が語られる。
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英国の外交官アーネスト・サトウが1962年に横浜に着いた。サトウの日記を読み解く形で、著者の萩原氏が当時の日本の情勢が丹念に読み解いてゆく。開港直後の横浜に築かれつつあった外国人居留地の様子、横浜と江戸との距離感、日本と英国の書簡やりとりの距離感等がリアルで、読者は幕末の横浜や江戸にタイムスリップした感を覚える。特に生麦事件の発生に対する驚きと各国領事の対応の様子は生々しい。今後の展開は史実で概略を理解しているが、サトウの日記を通じてリアルな追体験ができるとの期待は膨らむ。これはまだ全14巻の壮大な物語の第1巻に過ぎない。