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紙の本
「カラス天狗かと思った」
2008/03/27 01:05
7人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
と堀北真希氏演じる小谷信子=ノブタ(『野ブタ。をプロデュース シナリオブック』(日テレ・脚本:木皿泉氏、原作・白岩玄氏)に言わせた夏木マリ氏演じる、キャサリン教頭の初登場。ト書きでは以下のようになっている。
―天から声が降ってくる。
「その通りッ」
塀の上からカラス天狗の使うような団扇で扇ぎながら―
と、このあと、この第一回の名セリフ「(信子に)あんた。コイツ(桐谷修二)がまっとうな人間になるよう教育してやってよね」に続くのだが。
異様な装束(黒ずくめ)、奇声(音)、飛行(この直前、塀を飛び越えて、出勤している)、大団扇、高い鼻(少し強引だが)、そして超人性。ここでのキャサリン教頭は伝統的な日本の「天狗」像の必要要素をほぼ満たしている。そして木皿泉氏脚本のTVドラマ『セクシーボイスアンドロボ』の原作者、黒田硫黄先生の出世作は『大日本天狗党絵巻』(講談社)である。このマンガの裏表紙のコピーはこうだ。
「天狗!自由に飛行をなしあやかしの術もて人をさらい古来より畏怖と敬愛を享けた天狗!今彼らはどこにいるのか、どこから来てどこに行くのか?(後略)」
本書はまさにこのコピーに期せず(?)して呼応する好著である。
キャサリン教頭の上記特徴のうち、「天狗」が「天狗」であるために、どうしても欠かせない、天狗である出発点とは何だろうか?キャサリン=夏木マリ氏の鼻は高いが天狗ほどではない。黒ずくめで異様であるが、普通のスーツ。飛行と言っても塀を乗り越えたくらい。団扇は季節(本放送時は夏)柄かもしれない。超人性と言われても。残るのは。
彼女についての最初の描写「天から声(=音)が降ってくる」。古代中国に遡る、本書における「天狗」の本質の確認は見事にここで符合する。本来、「天狗」とは。
「中国の天狗は「テング」ではなく、「テンコウ」と読む。隕石は、空中での衝撃波や爆発、地上への落下などにより、大音響を発する。それを犬(狗)の「吠え声」にたとえているのである」(本書p.5、第一章「天狗は空から降ってくる」)
天狗とは。古代中国の人々が隕石=隕石のもたらす怪音を擬「妖」化して捉えたことから生まれたのである。鼻とか下駄とかはその後の話である。木皿泉氏。やはり凄い。
しかし、本書も、読みやすい文体で、丁寧な歴史・宗教・文化背景の深い探求を踏まえた、凄い一冊である。中国から飛鳥時代の日本に、当時の科学(儒教的世界観)用語として、輸入され、そして半世紀近く忘れられ。摂関政治、天台宗・真言宗・浄土宗を初めとする新仏教の興隆と抗争の中で、再びよみがえり、徐々に現在の「期待される天狗像」に近づいていく。その様を、仏教(密教)教義上における善悪の境界例的存在としての「天狗」という、門外漢には新鮮な知見を示しながら、図像資料を駆使して解き明かしていく。
しかし、図像に描かれる時、「天狗」は古来から「鳥」と切り放ちがたかった。キャサリン教頭も声からして鳥っぽい。『大日本天狗党絵詞』でも飛行=天狗の本質とされている節がある。
カラス天狗と言うけれど、実際はどんな鳥が想定されていたのか?
そもそもどうして半人半鳥=鳥人間なのか?
終章に向かって、仏教からインド神話、ギリシャ神話と、天狗をめぐる冒険が国境を越えつつも収斂していくスリリングな展開。さあ。
でも。もう。「真夜中様」の出る時間です。失礼します。
キャサリン「桐谷、恐れるな。それは紙キレだ」(前掲書『野ブタ・シナリオ』p.254より)
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