紙の本
周回遅れの永山則夫
2007/12/13 16:46
26人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
まあ、ひどい本である。ひどい本だが、なぜかサヨクマスコミやそのシンパはこれを大きく取り上げた。なぜか。それは本書の著者である「自称」弱者の赤木が、あろうことか自分達サヨクを攻撃対象に選んだからである。
赤木の主張の概要は「周回遅れの永山則夫」だ。自分のことは全部棚に上げて、自分の不幸は全部社会のせいにする。まあ、こんなもんだ。曰く、自分は32歳になるがいまだ正業に就いたことが無くずっと今日までフリーター生活を送ることを余儀なくされるという屈辱を強いられているが、これは勝手にバブルを生成し勝手にバブルを崩壊させ、その責任をとらずにツケだけを団塊ジュニアたる自分「達」に回した「日本社会」に原因がある。世に言う左翼は弱者の味方を気取るが、左翼が味方する労働者は、赤木から見れば遙かに恵まれた境遇の強者である。腹が立つのは左翼によって保護された労働者たちは、赤木と特に能力も変わらなければ家柄も血筋も変わらないただの凡人集団に過ぎない。違うのは生まれたタイミング、ただそれだけだ。だから余計に腹が立つ。超名門のエリート一族や大金持ちはどっちみち自分とは別世界の住民だから腹も立たんが、ろくに能力も無いくせに赤木より10年生まれたのが早いばかりに彼らは正業を持ち、家も自家用車も家族も持って「幸せに」に暮らし「平和」を満喫している。彼らは平和を愛するが、彼らの愛する平和の継続は赤木にとっては現在の屈辱の永続を意味する。それならいっそのこと日本社会全体を戦争に巻き込んでぐちゃぐちゃにしたい。戦争になれば死ねば英霊として顕彰されるし、内務班では赤木より遙かに身分が上の連中とも「平等」になれるし場合によっては殴りつけることも可能だ(実際、陸軍の内務班で東大の丸山真男は殴られっぱなしだった)。座してこのまま屈辱の中で死ぬよりは、戦争を欲する。。。
赤木の主張は、予想通り左翼陣営の猛反発を食らう。反発の様子は本書に詳しい(よせば良いのに赤木はそのひとつひとつにかなり辛らつな反論を寄せている)。この構図は扶桑社の「新しい歴史教科書をつくる会」を巡る小林よしのりと保守論壇の内紛の構図とかなり似ている。違いは小林は自前の発信能力を持つ「売れっ子」漫画家である一方、赤木は小中高とプーさんを続けてきた、これといってとりえの無い、かわいげの無いネクラな男という違いか。全共闘世代は赤木の奇襲攻撃に目を白黒させ、自分達が見落としていた「弱者の視点」を売り出したいようだが、これだけ豊かで平和な日本社会で、「日本が悪い。社会が悪い。お前ら全員憎たらしい。戦争でも起こしてやる」と連呼するプーさん赤木の主張に耳を貸す暇人などほとんどいないことを知るべきだ。赤木は一連の論文を朝日新聞社「論座」に連載したあと、「この論文を読んで感激した年長者から就職の世話や融資の申し出がもしかしたらあるかもしれない」と期待したという。バカは死ななきゃ直らないというが、本当に、あまりにも自己中心的な発想につける薬はないものかと読後しばらくあっけにとられた。
赤木は就職できないなら有能な女性と結婚して「専業主夫」になってもいいと妄想する。ところが彼を娶ろうという才媛など一人もいない。当たり前だ。男女は需要と供給の法則で成り立っている。ろくに仕事もないくせに文句だけ一人前のフリーターと結婚する有為の女性などいるわけがないのだが、赤木はそうは思わない。赤木に女性が声をかけないのは女性の心に潜む差別意識が問題なのだというのだ(笑。
赤木に決定的にかけているのは、主張が全て「自分から見た目線」でのみ行われていることだろう。言いっ放しの放言でよいならそれもありかもしれない。しかし、少しでも他者を自分の方に向かせたいと思うなら、他人の共感を勝ち得ねばならない。その為には、「自分はこう思う」だけではダメで、「相手はどう思うだろうか」という視点も自身の中に育てねばならない。将棋で言う「先読み」だ。100手先まで読めとはいわない。せめて3手くらい先まで読んだ上で主張を繰り出さないと、ただ物笑いの種にされて消費されて終わりだ。
赤木君は小さいときから社会に疑問ばかり持って反抗を重ねてきたようだ。大多数は従順に社会の流れに従っていたとき、おそらく赤木君は彼らをバカにしていたんではないか。社会とは一種の保険機構でもある。社会のルールに従い、社会に逆らわないでいれば、それなりのコースに乗れて保護されるが、これに反発すれば、社会からドロップし、誰も保護してくれなくなる無間地獄に落ちる。赤木君の不幸は、実は赤木君みたいな悲惨な人は社会にはそんなにいないということだ。だから幾ら赤木君が叫んでも共感してくれる人はおそらくほとんどいないだろう。「ホームレス中学生」じゃないが、「こんなひでえヤツがいるんだ。下には下がいるもんだなあ」と大方の人を安心させる為に読まれていたりして。
なお、私は赤木君のことを弱者とは思っていない。これだけ虚勢をはるエネルギーが残っているんだから、そのエネルギーを善用すれば済むだけの話だと思うからだ。幸せとはメーテルリンクの「青い鳥」の話を引くまでも無く、実は赤木君の心の中にある。平たく言えば幸せの基準を大幅に引き下げ、手の届くところにゴールを設定しさえすれば人間は幸せになれるし、これをしない限り、幾ら巨万の富を得ても、心は空しいだけなのである。
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2010年6月に読了。
2007年の本で、リーマンショック以前の本であるが、現状変わらず今なお通じる(通じてしまう)本だ。
自分と10歳以上違っていて、自分はこれからこの波に飲まれていく世代だ。
著者が直接問題提起してるのは、団塊ジュニア世代・就職氷河期の時代に新卒を終えてしまった人達ではあるが、今自分が直面する問題としての「就活」、この辺の議論との親和性もあるだろう。
本文でも述べていたが副題の「私を戦争に向かわせるものは何か」や「論座」掲載論文の「希望は、戦争」という、「戦争」というワードが一人歩きし、その辺りの偏見をもってしまうと読み違えてしまう。軍国主義者だったり戦争を積極的にしたがってる「人命を軽んじる若者」というカテゴライズは不適当だ。
様々な社会問題は山積しているが、大風呂敷の中で語られることのない救うべき存在を認知するための本としては素晴らしい。
このように、それぞれのリアルな立場から社会を論じる人間が増えていっていいはずだ思う。専門学校卒、一応物書きの勉強もしていたがここに書かれていることを、高等学校卒業後の勉強で得たのかと思うと、頭が下がる。
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ずいぶん前にも一度読んだ本を二度読み。
「希望は戦争」。でも、ほんとうは僕らを戦争に向かわせないでほしい。
フリーターが書いた論文として、当時、衝撃を受けた。
戦争になれば、平等になれる。東大卒の思想家をひっぱたくことだってできる。
強烈なルサンチマンの炸裂。
でも、真実。
おれ、だからコネで就職したやつ嫌いなんだよなぁ。
あはは。
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「戦争を望む」って暴論は左翼への強烈な挑戦状。経済成長が生み出した「平和」な社会をそのまま維持するために、若者が生贄とされている。弱者として想定すらしてもらえず、見捨てられる立場からの必死の訴えは身につまされるところもある。
ただ、永遠の経済成長なんてありえない現実では、高いレベルの満足を得られる生活が出来る人間ってのは一部に限られるのは仕方がないことなんじゃないかとも思う。今でも、低学歴のブルーカラーで収入もいいとはいえない人たちが普通に家庭を作れて幸せそうにやってたりする。総中流でみんな幸せにって幻想に縛られているから、現状に満足できなかったり、目の前の幸せを幸せと思えないんじゃないか。幻想を捨てて、個々人の身の丈にあった幸せを自然に選べる社会にこそ、なるべきなんじゃないだろうかと思う。
結局、自分も物理的に充足しているから筆者の考えを理解できてないってことなのかな。
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後世の人は、20世紀末から21世紀初頭の日本人を「大人が責任を放棄した時代」と評するだろうなあ~と思っていたけど、それどころの話しじゃあなさそうだ。層の固定化をよしとする幼稚な社会が、世界と伍して生き抜けるほど甘くない・・・というか、自滅の道へ進んでいると考えるのだが。さてどうしたものか・・・。
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フリーターがこれまで自分の問題を自ら語るということで言えば最も話題になったものだろう。自分としては『生きさせろ』の著者と「派遣村」の村長しか知らないけどこの人たちは当事者じゃない。
当事者として声を上げた(所謂知識人に頼った形でなく)という意味で記憶されるんじゃないかと思う。
「これまで自分は左派だろうと思ってきたがそれで実生活が良くなっただろうか」
「自分に必要なことはそんな事ではなく自分が苦しんでることに対して良くしていこうとする事こそが思想だろう」との気づきから自らの主張をしていく。それはスゴク当たり前だけれども。
実際自分が苦しんでいる事を苦しんでいない人に伝えるのはすごく難しい
男性が女性の権利に鈍感だったように。
しかし苦しんでいるのならその当事者がやっぱり主張しなきゃいけない。
とても面倒なことだ。自ら望んでいない境遇に陥りそれは自分のせいではないくせにわざわざ頭使っていつ通るか分からない主張をしなきゃいけない。
それおかしいでしょ?
問題が認識されればこれで十分なのに。
ということはワーキングプアは問題視されていないという事じゃないかな。
本になるくらいは問題視されているけど国をあげて問題にすることではないという意味で。もちろん国って誰?って事になるけど。
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フリーター自身が発した叫び。主張は「希望は戦争」と極論だが、そこから現実の問題を理解し、本気で考えて欲しいと訴えている。
読んでいくと結局は周囲に責任転嫁し、仕事をくれくれと言っているように聞こえるが、若手が将来に希望を持てず、そう主張させる現状があるんだと思う。
本の中に出てくる彼に対して反論している人々は若手の現状や心理を理解していないなと感じる。これでは解決に繋がらないだろうな。
でも親世代の時代の幸せのカタチ、生活レベルを自分たちが追いかけるのはもう違う。個々の価値観で求めるレベルを決めていかなければならないのではないか。一億総中流の時代はもう来ない。
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この本を始めて読んだのは2009年だと思いますが、それ以来定期的に読みたくなる僕のバイブルです。
30歳を過ぎたフリーターである赤木智弘氏により執筆されたこの本の論旨をまとめると、30歳を過ぎて尚、フリーターという立ち位置に甘んじるしかない私〈著者〉=ロストジェネレーション世代にとって、今の世の中は全く平和ではなく、このまま惨めな死を待つか、思い切って自殺するかの二択でしかない。
したがって、何も持たない私〈著者〉は失うものは何もないので、既得権益をもつ者も持たざる者も等しく扱われる戦争を望み、持たざる者からの一発逆転に賭ける他ないのではないかとの考えが頭をかすめるほど、切羽詰まり緊迫した状況に陥っている。ということです。
著者の赤木氏の良いところは自らの言論を『半ば主張、半ば煽動』と割り切っている点です。赤木氏はこの本の執筆動機として「高尚な理想があるわけではありません。社会の多くの人を救いたいと考えたわけでもありません。それ以外のモノをなにも持たない私には、それを金に替えていくしかないのです」と述べています。つまり、「金が欲しい!」、仕事が欲しい!」と訴えているのです。
論壇は本来、学者による客観的な不偏不党に基づく主張が展開されるのが常なのでしょうが、本書はあくまでも〈社会的弱者〉といえる著者の主観で展開されます。それが面白いです。
自分の世代で言うなれば、「神は神の子のみを愛す」とか「俺はウジ虫」と歌ったレディオヘッドや、「橋の下でいくらシャブを打っても足りなかった」と歌ったレッチリや、「ハロー、ハロー、どんくらい酷い?」と歌ったニルヴァーナくらい打ちのめされているんだけど社会へのカウンターパンチを狙っていて…。つまりはロックなんだと思います。
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2007年刊。著者の言うワーキングプア等の実情解説は何らおかしくないし、鋭敏な目と明快な表現力を持っていると思う。が、その対応策や求める社会像となると、ベクトルの向きが妙と感じる。この点、仮にその提言が、まともな仕事を寄越せ、ブラック企業は叩き潰せ、非正規と正規を同一処遇にせよ、セーフティーネットを充実・拡張、生活保護を受け取りやすくせよ、なら共感できるが、既得権者の保護を外せというなら、既得権者に抵抗されて敵にするのでは…。本書は、このままでは悪しき「引き下げデモクラシー論」の典型である。残念な一書。
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話題となった31歳、フリーター、希望は戦争の著者がその論考に対する反応にさらに応答する書。解決策は個人的には、ベーシックインカムかと思っているが、著者は、実現に疑問を持っているだけで、反対でないのがわかったことはある意味収穫だった。
論考自体は、反応を紹介してくれているので、人の立ち位置によって、様々な見方があるのだなという確認が取れ、参考になる。堀江氏の「金で買えないものはない」発言に続く言葉「金で買えないものは差別につながる」旨があったことを知ることができたことも良かった。