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毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者 みんなのレビュー
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紙の本
ハーバーの墓は、彼の終焉の地、スイスのバーゼルにあるという。彼の遺体は遺言により火葬とされ、その遺骨は自殺した最初の妻クララの霊と共に眠っているという。バーゼルは決して大きな街では無い。今度バーゼルに行く機会があったら、この「不遇にして不幸な天才科学者の墓」を一度訪れてみようと強く思った次第である。
2011/07/04 15:05
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルに「毒ガス開発の父」とあるが、本書の内容は毒ガスとはあまり関係があない。あくまで本書は大気からアンモニアを合成する方法を考え出し、その功績によりノーベル賞を授与された偉大な化学者フリッツ・ハーバーの伝記である。
『大気を変える錬金術』の主人公、フリッツ・ハーバーの伝記である。『大気を変える錬金術』が19世紀に勃興したドイツ化学工業の産業史的な本だとすれば、本書はフリッツ・ハーバーに絞った伝記である。ノーベル賞を受賞し、人類の未来を文字通り変えてしまった偉大な発明をしたにもかかわらず、フリッツ・ハーバーの人生は薄幸の色彩が強い。最愛の妻は自殺し、後妻とは離婚。最初の妻との間に出来た長男をハーバーは溺愛するが、その父の溺愛がかえって長男の自立を妨げ、やがてハーバーが死んだあと、長男も自殺の道を選ぶ。ライバルであるネルンストを退け、ドイツ化学会の頂点に君臨し、カイザー・ウイルヘルム研究所の所長として地位も名誉も手に入れながら、それが故に、人類の歴史に、ある意味で永遠に汚名を残すことにもなる。彼はユダヤ人だが、それが故にドイツ人よりもドイツ人らしく振る舞おうとし、第一次大戦にドイツの勝利を信じて、彼の全知全霊を傾け、大気からアンモニアを合成することで飢餓からドイツを救っただけでなく、このアンモニアを利用して大量の爆薬を製造。更には「戦争を早く終わらせる」ために毒ガスを製造し、それを英仏軍に大量散布することを実行する。毒ガスは現在は大量破壊兵器として指定されているが、その生みの親ハーバーは最後まで毒ガスを「戦争を早期に終結させる人道的兵器である」と言い張って聞かなかった(どこかで似たような話を我々は聞かされている)という。
本書での発見は星製薬の生みの親である星一がハーバーとの間で築いた友情関係だ。製薬会社を興して大成功した星は、戦争に敗れハイパーインフレーションでのたうちまわるドイツに莫大な義捐金を給付し、ドイツの化学学会を支援する。この支援に対する返礼の意味もかねてハーバーは長期にわたり日本を訪問し、各地に滞在している。滞在先は北は北海道から南は京都まで広く全国に及んでいる。その時にハーバーが行った講演がなかなか聴かせる。「日本の製品が粗悪であるとよくいわれるが、かつてはメード・イン・ジャーマニーも粗悪品といわれたのだ。(ドイツの)今日の発展はわれわれが必死に努力したからだ」。そしてハーバーは日本美術の美しさ・繊細さに感銘を受け、「日本の繊細な美はイタリアにも劣らないほどで世界有数であろう、もっと(世界各国に)公開すべきである。この繊細さこそが日本独自の独創的な文化であろう」とこれ以上ない賛辞を贈っている。著者はハーバーのこの賛辞を、のちに日本が自動車、エレクトロニクスなどの製造産業で、微細な技術をすり合わせることによって活路を見いだしていくこと」を暗に予言しているようだと評している。星一の生涯は息子の星新一が書いた『人民は弱し官吏は強し』に詳しいが、加藤高明と後藤新平の政治的個人的対立に星が巻き込まれ、その犠牲になったとは知らなかった。加藤高明は、政治家として全く碌な事をしていないように思える。
「ドイツ憎し」で凝り固まったイギリス、フランスの間隙を縫うようにアメリカ資本が第一次大戦後のドイツに進出し、文字通りドイツを支えた。だから1929年10月にニューヨークで株価の大暴落が始まりアメリカ経済がマヒすると、そのダメージを最も深刻に受けたのも、またドイツだった。それまでのドイツは束の間の繁栄と自由を謳歌し、ベルリンは「現代のバビロン」と揶揄されるほど風紀が紊乱し、街中に売春婦があふれた退廃した都市だったという。この中からユダヤ人排斥を唱えるナチスドイツが台頭してくる。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、ドイツ工業は文字通り全盛時代を迎え、アメリカを押しのけて文字通り世界をリードしていたが、そのドイツ工業の発展を陰で支えたのが、ドイツの化学・物理学会に集った大量のユダヤ人だった。当時のドイツは差別がひどかったロシア、フランス、英国に比べ、ユダヤ人だろうと何だろうと才能あるものを登用すると言うメリトクラシーの気風が社会に溢れ、このドイツに希望を見いだしたユダヤ人がドイツでの学問的成功を通じて二級市民から一級市民への昇格を夢見、ドイツの大学に殺到する。これがドイツの学問であり産業の黄金時代を現出する原動力になるのだが、ユダヤ人憎しの怨念に凝り固まったヒトラー以下のナチスは、大規模なユダヤ人排斥を実行に移す。危機感を覚えた当時世界最大の化学会社IGファルベンの社長ボッシュがヒトラーに面会し「ユダヤ系の科学者を追放することは、ドイツから物理や化学を追放することになる」と警告するが、これに対しヒトラーは「それならこれから百年、ドイツは物理も化学もなしにやっていこうではないか」とうそぶいたという。こうして大量のユダヤ人がドイツを離れ、その多くは「希望と栄光の地」アメリカ合衆国に向かう。その数はドイツの全科学者の四人に一人、物理学者では三人に一人にのぼったという。こうした巨大なエクソダス(ユダヤ人科学者のドイツ脱出)は、ドイツ科学を不毛状態に陥れることになったという。
紙の本
戦慄
2007/11/15 06:23
10人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:TKTKTTK - この投稿者のレビュー一覧を見る
厚みと重みのある内容。
信じることと裏切られることの表裏いったいの関係を
強く意識してしまう。
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