紙の本
高宗伝。
2010/11/17 23:35
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の表題は「高宗・閔妃」だが、実質的には朝鮮第26代国王にして大韓帝国初代皇帝の高宗の評伝だ。
明治時代の偉人達を書いた評伝を読むと日朝修好条規から韓国併合までの朝鮮が舞台として登場するが、この時代の朝鮮を舞台にした朝鮮人の主な登場人物は大院君や閔妃をはじめ、大臣達や儒者達もいるが、中でも中央に登場するのは高宗皇帝だ。閔妃暗殺事件のようなテーマを扱った本に比べて、手頃な高宗の評伝は他にないと思う。朴泳孝の義父でもある哲宗亡き後、朝鮮国王に推戴された高宗の生涯を通じて、この時代の朝鮮を上手に描かれている。
この本の範囲から越えるが、高宗亡き後、孫が政敵の一人でもあった朴泳孝の孫娘と縁を結ぶとは高宗も思い寄らなかったろう。
「李王宮秘史」や、この本から取材して描いたとおぼしき「秘苑の花」に登場する韓国併合後、高宗の元に輿入れされた王妃候補だった女性の事が、この本にも挿話として出て来るが、明成皇后閔氏の陰に(本人達の意志とは関係なく)隠れた女性の存在が気になる。
この本の著者は「近代韓国のナショナリズム」という第3共和国時代の朴正煕大統領と彼の政敵達を描いた好著があるので、このミネルヴァ日本評伝選で描かれる予定の朴正煕伝も早く読んでみたいものだ。
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個人的には今年最後に今年最高の一冊だった。意志薄弱とか奥さんの尻に敷かれたひ弱な王様とか韓国でも何かと評価の低い高宗の一生を中心に、実父で狸な大院君や、猛女と言っても差し支えないだろう閔妃についても深く掘り下げつつ、開国前夜から韓国併合までの複雑な時代を詳しく描いている。1冊でまとめたような通史だとたいていこの時期の出来事についての因果関係、人物の動機などがよく描かれていず、それぞれがどういう脈絡でつながっているのか往々にして唐突で戸惑うが、本書は上記3者+の置かれている状況、そこで彼らが何を最重要と考え、それを達成するために斯く斯く行動した結果しかじかのようなことになって、次にこう繋がるということが、あらいざらい事細かく積み重ねられつつ、歴史の大きな文脈を押さえているため納得しながら読める。高宗はやはり王様というより小市民の器で国を正しい方向に導いたと言えないが、最後のページになると、本人に余る場所に突然置かれてしまった人が何はともあれ終えた人生について神妙な気持ちに一瞬なる。また、そう単純な話ではないけれど、著者は現在についても念頭に入れながら書いていそうな部分もありそういうところも興味深かった。全ての人に超お薦め。
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朝鮮半島の近代史を見ることは、日本ではタブー視されているのでしょうか。例えば日露戦争史に比較して日清戦争史は余り語られないし、日露戦争史でも導火線となった朝鮮半島よりも、主戦場となった満州の方が主に語られます。本書は日本の植民地化に至る朝鮮半島近代史を、最後の皇帝高宗の視線から描いたもの。どちらに偏ることもなく、平明に語られていると思います。高宗はリーダーの器ではなかったが、中国に模倣した王政下では、制度上は独裁も可能な強い権力を持っていた。一方で何度も身命の危機に晒されたことで、その視線は国の発展よりも個人レベルの安全に落ちていったと感じる。恐らく儒教的な強い善意からスタートした政治家だけに、最後に自らの政治を振り返って、どう感じたのだろうか。
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[ 内容 ]
高宗(一八五二~一九一九)李氏朝鮮第二十六代国王、大韓帝国初代皇帝(在位一八六四~一九〇七)。
閔妃(びんひ/ミンビ、一八五一~一八九五)明成皇后。
清国との朝貢体制の下、限られた国際関係しか持てなかった韓国は、西欧列強や新興国日本に対していかに対処しようとしたか。
相次ぐクーデタ、大規模な内乱、日清・日露戦争、そして日韓併合。
歴史の流れに翻弄された国王夫妻の軌跡を描く。
[ 目次 ]
プロローグ 生家との訣別
第1章 生家と養家―朝鮮王族に生まれて
第2章 大院君執政期とその帰結―制度的裏づけなきリーダーシップ
第3章 高宗の親政、そして挫折―若き国王による失敗
第4章 壬午軍乱―養家と生家の激突
第5章 甲申政変と清国との葛藤―勢力均衡政策の開始
第6章 日清戦争への道―列強と臣下との対立
第7章 乙未事変―閔妃の死
第8章 露館播遷と大韓帝国―高宗の孤独な覇権
第9章 破局―日露戦争
第10章 韓国の保護国化と高宗の退位―然らば致し方なし
エピローグ 退位後の高宗
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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カメレオン的にその寄る所を変え、表情が見えづらい高宗の評伝。帝王学を学んだ訳でもなく、幼くして即位しても実父の権勢の下にあり、閣僚や周辺国に翻弄されながらも67歳迄その意を表し続けた。面従腹背、朝令暮改の心理も伺える。専制帝国としてのロシア、立憲君主国としての日本に対し、立ち向かうこともできない、動乱の時代の弱小国の中心で、1人の人間としての人生と、君主としてのその思いはどうだっただろうか。