紙の本
恋に一生をかけた男と、恋する男を一生愛した女と
2008/11/17 09:08
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ
では他者にその存在さえ知られない恋は 完全恋愛と呼ばれるべきか?
冒頭に掲げられたこの問いかけに貴方ならどう答えるだろうか。
本書は戦中戦後さらには現代へ、時代も国も人も心も目まぐるしい変化した時代の流れにあって、生涯かけて恋し続けたいとおしい程愚かな人間たちの物語である。
ひたすら恋い慕い続け、時には犯罪すら隠蔽し、彼女が嫁ぎ死して後もその娘すら愛し続ける・・・
大筋としては単純な筋書きのミステリーなのだ。 一人の男の少年時代から始まり、彼の恋と彼女の犯した罪があり、一夜の思い出を心の糧に、少年はただ一途に愛し続ける。大画伯へと成長して愛を隠したまま「何も知らずに」死んでいく。ただそれだけの物語・・・のはずだ。
しかし私は思う。これはあくまでミステリーであり、完全犯罪かつ完全恋愛の物語なのだと。そしてその完全恋愛と呼ばれる恋はけして主人公・究の恋心だけを指すのではない。
彼女を愛した者がいたのと同じように彼女が愛した者も彼を愛した者も存在し、それを知る者も知らない者も存在しながら、誰一人としてその恋を語りだそうとはしないのだ。
事実はある。犯罪も死も憎しみも、子供という形すらとって愛の事実が現実に広がっていてそれらは皆に共有されている。しかしそれでも彼らはそれらの事実を己の中に深く沈め、各々の舞台で「真実」として消化していくだけだ。
事実は一つ、真実は人の数だけ、いや、恋の数だけ存在する。ミステリーの常套句である。
みな、悲しいほどに事実をどこかで承知している。己の恋が彼にとって、彼女にとって事実であったのか真実であったのか、知るところであったのか否か・・・つまりは己の恋が完全恋愛であったのか否か。
その答えはこの物語に出会った、そして恋愛をしていく私たちが各々出していくべきなのだろう。
ただ一つ、ここにあるこの物語は一人の男が貫いた「愛」の物語ではない。
一人の男が生涯かけて貫いた「恋」の物語であり、彼のその恋をひたすら愛し続けた女の物語である。
紙の本
完全なる小説が読者を陶酔させる
2008/12/20 23:49
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミステリ小説と自伝的物語をあわせたような本である。したがって、読み終えたとき、2冊分の読書の楽しみを味わった気分になる。これは、実によくできた本であり、お得感が抜群である。
いや、そんな損得勘定を超えた高みに本書はあり、改めて日本の作家の技量の高さに恐れ入ってしまった。限りなく頂点を極めた作品である。今年の「このミステリーがすごい」の第3位にランクインしているのも、もっともだ。
主人公の少年時代に始まり、人生の終末に至るまでの長い長い遍歴が語られる。少年時代は東京大空襲の話から始まり、終盤は80年代末のバブルとその崩壊にまでおよぶ。この長大な物語を、読者にひとときも飽きさせることなく、読ませてしまう。
しかも、長い物語の各所に謎が仕掛けてあり、これを解いていくというミステリの醍醐味もある。その謎解きがまた半端でなく、よく練られたものになっている。
本書は400ページを超える大作であるが、初日は数十ページで我慢したものの、翌日はページを繰る手が止まらず、一気に最後まで読み終えてしまった。そのくらい密度が濃く、読者をグイグイ引っ張る力がある。
正直なところ、書名が『完全恋愛』とあるので、最初は手を伸ばすのをためらってしまった。なんだか恋愛指南本のように見られかねないからだ。しかし、本書は、もちろん恋愛ハウツーものとは全く関係がない。
それどころか、やや古風な印象の文体で、濃密な世界を描き出している。400ページを超える大作でありながら、余分な修飾的語句がなく、あくまで精緻なストーリー展開で読ませてしまう。
私は単なる読者にすぎないのに、この完成度の高い作品をものにした作家に嫉妬を覚えてしまった。真似しようとしても、とうてい不可能であると思われたからである。
何ヶ月もかけて準備をし、数々の謎を仕掛けながら執筆して、主人公やそれを取り巻く人々の数奇な運命をひとつの物語として仕立て上げた苦労が伝わってくる。
ただ、著者は執筆を終えた段階では、爽快感でいっぱいになったことだろう。おしまいの方には、著者による遊びの要素さえ入っているのだから。
それにしても著者は安易には謎を解いていかない。最後まで残る謎を、作家と読者が一体となり、時間をかけて解明していく。読み終えたときには、しばし我を忘れたほどである。
読者は、ひとりの主人公の生涯を共に生き、そしてミステリー小説の楽しみも味わい尽くすことができる。これは、万人にお勧めの傑作と言っていいだろう。
これを読まずして2008年を終えるのは大きな損失である。あまり5つ星を献上しない私であるが、これを該当作として推奨することにまったく躊躇しない。
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んー。
結果が読めてしまったミステリ。
一応その中にも 上り下り はあるんだけど、あまり興味が持てなかったのは事実。
『完全殺人の恋愛版』とあったけど…コレはただの『勘違いな人々』じゃないのか?
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Aだと思わせておいて実はBだったという、実にありがちで、わりと早い段階で予測のつくオチではあるんですが、物語としてはまぁまぁ面白いかなと。ただ、本編でも述べてられているように、地の文で嘘をつかなければいいと言うものでもないでしょう。あれほどまでに大きな秘密を最後の最後まで明かさないというのは、ある意味アンフェアと言えまいか?
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この作品で語られることが「完全恋愛」なのだとしたら、私はアホらしい。作者の恣意的な思惑に引き回され、その挙句、まったく説得力のないどんでん返し。一応社会的な事件をちりばめてある種のリアリティを持たせようとしているけれど陳腐でしかない。
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恋愛小説をベースとした主人公の一代記として描かれているが、着地点はまさしくミステリ。その潔さが爽快である。戦後から始まり、高度成長期を経て平成へとつながっていく流れに沿って、ボリューム満点のストーリーが展開されるので、読了後はページ数以上の余韻に浸ってしまった。つくづくお得な一冊だと思う。「凶器」「密室」「アリバイ」という本格を形成する三大ファクターも、確かな吸引力で惹きつけられるため、読み応えは抜群。拡げた風呂敷の規模を作者がきっちりと把握しているので、ラストへの流れは至極自然で無理がない。大技・小技を効かせた伏線の収拾にも納得し、どこか余裕すら感じる作者のテクニックに感心しきり。『完全恋愛』と名付けたテーマに対して、読者がどのようなスタンスで挑むかがポイントだろう。ちなみに、本作品の作者はさる大御所である。
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他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ。では、他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?
*
推理作家協会賞受賞の「トリックの名手」T・Mがあえて別名義で書き下した
究極の恋愛小説+本格ミステリ1000枚。
舞台は第二次大戦の末期、昭和20年。福島の温泉地で幕が開く。主人公は東京から疎開してきた中学二年の少年・本庄究(のちに日本を代表する画家となる)。この村で第一の殺人が起こる(被害者は駐留軍のアメリカ兵)。凶器が消えるという不可能犯罪。
そして第二章は、昭和43年。福島の山村にあるはずのナイフが時空を超えて沖縄・西表島にいる女性の胸に突き刺さる、という大
《2009年1月20日 読了》
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「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ では 他者にその存在さえ知られない恋は 完全恋愛と呼ばれるべきか?」
本条究という男の一生を描いた恋愛物語であると同時に、優れた本格ミステリでもある。
第一部は、不思議な事件の真相が結構あっさり明かされるので拍子抜けするが、あとから見るとすでにここから伏線が張られている。
第二部は、何百キロも離れた場所で起こる事件で、真相は確かにそれしかない。
第三部は、多少アンフェアさを感じるが、なんとなく納得させられてしまう。
さらに、何より恋愛小説としての出来が素晴らしいと感じた。
しかし、最後の最後で明かされる真実は、一瞬ぽかんとしてしまう。
そうか……こういうことだったのか……。
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表紙に一目惚れし購入。
面白かったけれど、ミステリー初心者の私には理解出来ない所がいくつかありました。
主役の画家さんが好きです。
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舞台は第二次大戦の末期、昭和20年。福島の温泉地で幕が開く。主人公は東京から疎開してきた中学二年の少年・本庄究(のちに日本を代表する画家となる)。この村で第一の殺人が起こる(被害者は駐留軍のアメリカ兵)。凶器が消えるという不可能犯罪。
そして第二章は、昭和43年。福島の山村にあるはずのナイフが時空を超えて沖縄・西表島にいる女性の胸に突き刺さる、という大トリックが現実となる。
そして第三章。ここでは東京にいるはずの犯人が同時に福島にも出現する、という究極のアリバイ工作。
平成19年、最後に名探偵が登場する。
全ての謎を結ぶのは究が生涯愛し続けた「小仏朋音」という女性だった
最初の時代設定が昭和初期だったのでちょっと構えて読み始めたのですが、読んでいくと、すぐに気にならなくなりました。「犯人はお前だ〜!!」的なのはありませんでしたが、登場人物の心情がよく書かれていてよかったと思います。面白かったですが、完全恋愛なのは主人公じゃないんですね・・・ちょっと究がかわいそうな気がしました・・・。
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このミスで上位ランクインしていたので読んでみた。
途中までかなりだれたが、最後のどんでん返しが面白かった。タイトルの意味がよくわかった。
トリックはやや難ある感じ。
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◎本格ミステリベスト10 2009 第3位。
◎このミステリーがすごい! 2009 第3位。
◎「週刊文春」ミステリーベスト10 2008年 第6位。
2009年4月14日(火)読了。
2009−42。
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ある程度の予測はつくけど、でもおもしろかったかな。完全恋愛のタイトルってこーいうことだったんだって思った。★3.5くらいかな。
2009.4.24
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「ありがとう。本当いうとクタクタなの。……あ、それからお嬢さんはよして。私、小仏朋音と申します。父がお世話になるばかりで申し訳ございません」
にわかに大人びた口をきいたかと思うと、すぐ砕けた調子にもどって、
「これからは親子ぐるみでご厄介になるけど……よろしくね」
そうか。この女の子が、坂上家とおなじ敷地に住むようになるんだ。それがわかると顔を合わせるのが照れくさくなり、背を向けて歩きだしながら挨拶を返した。
「よろしく」
ふたたび巻き起こった蛙たちのコーラスが、ふたりの影を包み込む。――のちの柳楽画伯こと本庄究と、彼の永遠の恋人小仏朋音の出会いは、こうして淡々と終始した。
(本文P22)
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最初の少年時代の話は今ひとつ話に乗れなくて、正直あまり好みではなかったのですが、後半からはそれなりに興味深く読めました。事件の謎については解決編まで判りませんでしたが、『完全恋愛』については少年時代の終わりであらましが見えました(笑) 酷いような羨ましいような切ないような……でも物語として、ラストは満足できる素敵な作品でした。