紙の本
美術論の部分は可もなく不可もなし。無論、美術について詳しくない人には十二分なもの。でもユーモアは空回り。ミステリと美術の部分は分離独立派のように溶け込まず・・・
2008/06/23 19:48
5人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
出版社から出版案内をかねたメルマガが定期的にきますが、そこに深水が
そこでこの小説では、成功しているかはさておき、本格ミステリをみなさん
に愉しんでもらいながら、同時にエコール・ド・パリとその周辺の美術につ
いて通暁していただくことを理想としてみました。本格ミステリも美術書
(画集)も、それぞれ単独でも需要があるわけですから、一冊でその両方を
愉しめる本が作れたら良いな、というのが出発点でした。
と書いているのを読んで、この本を読みたくなりました。
カバー後の案内は
モディリアーニやスーチンら、悲劇的な生涯を送った
エコール・ド・パリの画家たちに魅了された、有名画廊の
社長が密室で殺されるが、貴重な絵画は手つかずのまま
残されていた。生真面目な海埜刑事と自由気ままな甥の
瞬一郎が、被害者の書いた美術書をもとに真相を追う。
芸術論と本格推理をクロスオーバーさせた渾身の一作!
です。ちなみにカバーは平均的なもの。名画をもってきちゃうと平凡になる?そんなことはないんじゃないでしょうか。辰巳四郎さんだったら、全く違う意匠を用意していたでしょう。そんなカバーデザインは、片岡忠彦、ブックデザインは熊谷博人・釜津典之です。では、作品の出来はどうでしょう、1+1が2で終ったのか、ビジネス界でいわれるシナジー効果はあったのでしょうか。
結論を言います。シナジー効果までは行かなかった。芸術論がミステリと融合したというよりは、分離・独立したままです。メタ化して境界線が曖昧になり、真偽のほどが不明になるのが理想だったと思いますが、美術論がまっとう過ぎました。とはいえ、足を引っ張り合っているわけではありませんから、マイナスにはなっていません。ただ、思ったほど効果的ではなかったということです。
ミステリ部分、これも平均的。海埜刑事がしっかりしているせいでしょう、甥の瞬一郎があまり捜査の現場に立ち入らないことには好感を抱きますが、一歩間違えば夢水清四郎になりそうな気配があります。それと海埜刑事の上司、課長の無責任な発言や行動がすこしも面白くありません。ある意味、夢水清四郎が瞬一郎と課長に分かれただけみたいな感があります。
そして動機。実は、この手の話って美術界にはよくある話なんです。ま、そこらの事情は、美術初心者には面白いでしょうし、事実ですから文句はありませんが、驚きはありません。犯人像もです。そういう意味では、高橋克彦の美術ミステリーの完成度っていうのは凄いと思います。身銭を払って美術品を買ったことのある人と、外にいる人の違いかもしれません。
最後に目次です。
プロローグ
第一章 発端
第二章 エコールド・パリの画家たち
第三章 モディリアーニ『ジャンヌ・エビュテルヌの肖像』
第四章 ハイム・スーチン『カーニュ風景』
第五章 ジュール・パスキン『花束を持つ少女』
第六章 佐伯祐三『顔のない自画像(立てる自画像)』
読者への挑戦状
第七章 急転回
第八章 事実上の真犯人
第九章 呪われた芸術家たち
あとがき
投稿元:
レビューを見る
神泉寺瞬一郎シリーズ
密室で殺害された画商・暁宏之。被害者の血が塗りつけられた閂の謎。殺された番犬のドーベルマン。被害者の人間関係の捜査。隊長の不良を訴えていた宏之。彼がコレクションしていたエコール・ド・パリの画家たちの絵画に隠された秘密。使用されたカドミウム入りの絵具。暁宏之の夫人でありかつての天才少女画家・小笠原龍子。庭師であり知能の障害のある勘平の自殺。捜査主人の海埜刑事の甥・神泉寺瞬一郎の推理。
船橋図書館
投稿元:
レビューを見る
「ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!」と同じ作者とは思えない完成度であると感じた。
道具立ては実にオーソドックスで、画商の豪勢な邸宅で起こる密室殺人に加え、現場には血文字や足あと、執事や使用人を始めとする怪しげな関係者たちが配される。さらに、各所で披露される美術に関する薀蓄が華を沿えた上で、クライマックスには読者への挑戦状が差し挟まれるなどなど、正に王道!といった印象。
それを寸断するように挟まれる「エコール・ド・パリ」に関する美術論も、かなり興味深く読める……のだが、驚きはここから始まる。
この動機、殺害方法、心理の動きは、驚くべきものなのだけど、最初は気付きにくい。しかし、結論を読んでからは全編を通して丁寧に伏線が張られているのに気付く。
解決の場面は、読んでいる最中感心し通しだった。
投稿元:
レビューを見る
メフィスト賞作家深水黎一郎の第2作目。
メインの殺人事件の章間にエコール・ド・パリに関する解説書が挿入されているという作りになっている。
その解説書だけを読んでも、興味深い。
ミステリ部分に関しては不満がない訳ではないが、切ない終わり方も謎解きも良かった。
投稿元:
レビューを見る
へええ、「エコール・ド・パリ」って言葉は聞くけれど、どういったものなのかまるで知りませんでした。聞いたことのない画家の名前もいっぱい。作中に挿入されている「呪われた芸術家たち」部分を読んで、少し学んだ気分になりました。警部の突っ込みのおかげで、案外と覚えられたかもしれません(笑)。
そして事件の方も。さまざまな部分で驚愕です。真相もさながら、まさかあれが人を殺す道具として使えるだなんてなあ。さらに、犯人がその後とった行動、あの人がとった行動、事件の真相、どれをとっても悲しいものでした……。
投稿元:
レビューを見る
おもしろかった!美術書の部分の方が印象に残る。密室トリックには燃えない体質だから「読者への挑戦状」は気にせず考えずためらわず頁を捲った。結末は納得できた。作男は可哀相に思えた。
投稿元:
レビューを見る
こういう完全なるミステリーを久しぶりに読みました。
まさに「殺人事件」、しかも「密室殺人事件」ですよ~~。
そして、この作品の特徴は絵画の画商が殺され、絵画がらみの謎がたくさん盛り込んであることです。
ダヴィンチ・コードを読んでいるときのような、芸術的な想像をたくさんしました。
残念なことに、私はこの話に出てくる絵画(多分、超有名なものも多い)をよく知らないのでパッとイメージできなかったのですが…。
少なくともオネの睡蓮とか、ゴッホの絵画の感じなどは知っているのでイメージできました。
スーチンという画家の絵が実際に見てみたいなと非常に思いました。
密室や殺人のカラクリがミステリー素人の私には最後まで想像がつきませんでした。
ミステリーとしても非常に楽しめました。
しかし、芸術が盛んだった頃のフランスに「エコール・ド・パリ」という芸術家たちの集団がいて(しかし、それぞれ描く絵は全く違う、個性的なものだったそうです)、一つ屋根の下で暮らしていたというではありませんか。
先日読んだ「スロウハイツの神様」を少し思い出しました。
へぇ~~、歴史的に海外でもそういうことがあったのですね。
クリエイターたちは孤独な仕事ですから、そうやって一つ屋根の下で暮らすことで、孤独感から開放されたり、いい刺激を受けたりしたのでしょうね。
投稿元:
レビューを見る
モディリアーニやスーチンら、悲劇的な生涯を送ったエコール・ド・パリの画家たちに魅了された、有名画廊の社長が密室で殺されるが、貴重な絵画は手つかずのまま残されていた。
生真面目な海埜啓二と自由気ままな甥の瞬一郎が、被害者の書いた美術書をもとに真相を追う。
芸術論と本格推理をクロスオーバーさせた渾身の一作!
こちらもはじめての作家さん。他の作品を読んでいないので、たまにでてくる過去の話はわかりませんでしたが、気にせず読めました。
被害者の暁宏之が著した美術書が作中作として登場し、間に挟んで展開されるのでこれまた少々気が散ってしまいましたが、その美術論が面白かったです。
扱われている絵画の写真があればもっとわかりやすかったのになぁ。
そしてそのこだわりのエコール・ド・パリをうまいこと真相に絡めていました。
大体こういうのは作者がこだわっている美術論なりを展開したいだけで、ミステリとはうまいこと融合させられずにがっかりになることが多いのですが。
どちらの事件も納得いたしました。
が、どちらの真相も非常にやるせないです。
ラストシーンでほっこりさせてくれるのが救いかな。
謎解き前には読者への挑戦状もあり、やや冗長ぎみに感じることもありましたが「正統派」という感じで楽しめました。
投稿元:
レビューを見る
エコール・ド・パリに関する作中作が面白かった。
ミステリ部分は動機はわかるものの、創作者がそういった行為が出来るかどうかはちょっと疑問。面白かったけれど。
投稿元:
レビューを見る
20110605
芸術ミステリ一作目。
エコール・ド・パリ、好きなので気になって。
作中人物の美術書が面白かったー
そこから絡めて密室殺人につなげていて、よくできてると思いました。
種明かしなど、そんなに好きな結末じゃなかったんですが。
読んだことある結末だし。
そしてゾッとずるなぁ。怖いなー
でも収拾はついていたので満足です。
フランス窓、何度も出てきたけど、説明も出てきたけど、特に関係なかったな。あるといえばあるけれども。
美術界の売れる絵、売れない絵、画商の才覚や売り方でもあるよね。芸術は世論で評価がうろうろするもの。
それがまたひとつのテーマとなっていました。
あ、物語中、密室殺人の定義や読者への挑戦状があって、
本格ミステリらしさにあふれてました。
文庫本とは少しだけ違うみたいですね。
文庫本も読んでみたいなー。
登場人物まとめ
暁宏之 一流画廊、暁画廊の現オーナー
暁貴之 その弟。個人画廊、オーロールのオーナー。宏之とは疎遠。
暁龍子 その妻。旧姓小笠原。かつて天才と称された画家であったが手の怪我で筆を折る。
暁彩菜 その娘。六歳。
暁太一 画廊の先代。故人
柴山医師 暁家の近所の若い医師
執事 暁家に先代から勤めている執事
川中裕介 川中画廊の社長。暁画廊のライバル
杉林治雄 暁画廊の社員。宏之の秘書
桃山小百合 お手伝い
小田勘平 作男
ダイアナ 暁家のドーベルマン
小平三郎 窃盗のプロ
広域ウ34号 連続猟奇殺人事件の犯人
海埜 捜査一課強行犯捜査第十係の警部補、主任
日野 同じく鑑識課長
大癋見 同じく警部
近藤 同じく監察医
館林 同じく若手刑事
橘 同じく警部補、主任
江草 同じく刑事
神泉寺瞬一郎 海埜の甥。亡き妹未知子の息子
神泉寺瞬介 瞬一郎の父親。洋画家、日本画の大家、堂瞬の息子
投稿元:
レビューを見る
以前読んだ同氏の同シリーズの作品「花窗玻璃」に比べるとかなりふつうのミステリという感じです。凝っているのは花窗玻璃のほう。 美術論とミステリが両立してはいるのですが、結局被害者の暁氏はどんな人だったのか、なんとなく最後、きれいにまとめようとしている感じが気になります。
投稿元:
レビューを見る
2012/10/10
深水作品たぶん2作目。
1作目に読んだのがよくわからなかったので、2作目を読む積極的な意識はなかったんだけど、ツイッターで好感を持ってしまったので手を伸ばしました。
1作目よりはわかりやすいお話で安心。
エコール・ド・パリの蘊蓄も楽しく読んだ。
あれホントだよね?
この人持ってる知識を語るの好きだなーとにやけました。いい意味で。
投稿元:
レビューを見る
暁画廊の社長、暁宏之が邸宅の自室で死体として発見される。貴重な絵画は手つかずで、閂のかかった窓には意味ありげに血が何層もに重ね塗りされていた。いわゆる「密室」状態である。
『エコール・ド・パリ殺人事件』の副題は、レザルティスト・モウディ(呪われた芸術家たち)。被害者が著した同名の美術書の一説が、各章の始めに挿入されるのだが、それが抜群に面白い。これは作中の暁宏之の著作という体だが、まぎれもなく作者深水黎一郎氏が書いたものだ。僕はそこまで美術に詳しい訳ではないが、「エコール・ド・パリの画家たち」の解釈として非常に興味深く読み応えのあるものだった。
事件の方は、警視庁捜査一課強行犯係第十課を中心に語られるのだが、途中個性的な探偵役が登場する。物語はこの探偵役を中心に進むのかと思いきや、意外にも地道な地取り捜査や会議など、警察小説のような過程で面白い。
事件の表面的な真相には特に驚きはなかったが、トリックや動機などには、「呪われた画家たち」のエピソードがフィードバックされていて感心した。
探偵役の「世界を股にかけるフリーター」神泉寺瞬一郎のキャラの今後の成長に期待。パリで創作したオリジナル拉麺の話が面白かった。
投稿元:
レビューを見る
ミステリーと美術が結び付いてて面白かった!…けど、被害者の最後の心情はちょっと信じづらい…犯人が犯行に及んだ経緯を知るに。
投稿元:
レビューを見る
気分は★2.5。
まったくもって、美術関係とミステリーが上手く融合する小説というものは難しい。
結局、知識の羅列。事件の全貌に関わっているとはいえ、並べているだけ、という印象。
真相を知っても「はあそうですか」でおしまい。
人間ドラマに魅力がないと、どれだけ調べ上げたことを並べられても面白いと感じられない。
そういった意味では、「楽園のカンヴァス」は本当に上手い小説だったのだなあと思う。
こういう「本格ミステリーのために作られた人物」にグダグダ言うのは野暮だと分かってはおりますが。
被害者の最後の行動は賞賛されるとかww
それを知った犯人が後悔したとかww
なんつう浅い人間描写。