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ミルグラムの伝記。厚い本だが読みやすい。ミルグラムと言えば、被験者が命令されると残虐なまでの電気ショックを与えるという服従実験、世の中の人と人の間は6人程度でつながれているという6次の隔たりで有名であるが、やはり世の中へのインパクトという点では服従実験が大きい。この実験はアイヒマン実験とも呼ばれており、ミルグラムがユダヤ人であったことからホロコーストとのからみで語られることも多く、アイヒマンは命令に従ったただの事務屋にすぎなかったという意見も多いが、服従実験の結果を説明に使うことと弁明に使うことは違う、とミルグラム自身によってはっきりと線引きがされている。色々と細かなパラメータを変更した実験、考察も行っており・「止めよう」というサクラがいると服従率は劇的に低下する。ミルグラムによると「個人が権威に対抗しようと考えるのならば、最もよいのは、その集団のなかから自分のことを支持してくれる人を見つけるということである。お互い同士が手を取り合うことこそが、権威の行き過ぎに対して私たちが持ちうる最強の砦なのである」・実験の場所をエール大学から場末のビルにあるブリッジポート調査協会という場所に変えると服従率は60%から47.5%に低下した。が、これは有意な差ではなく、人を服従させるための制度は有名であったり目立つ必要があるわけではなく、その組織のカテゴリー(研究機関であるということ)が服従を引き出す・進化論的に考えると、敵がまわりにいるような環境では権威主義的な社会的集団の一員であることにメリットがあり、服従というのはそういう集団では欠くことができないものであり、進化のうちにこの傾向が残された。人は自律的に行動しているときは良心にしたがうが、「組織モード」に入ったときは内的なコントロールをグループのリーダーにゆだねてしまい、その人の両親は眠りにつく。ミルグラムはこれを「代理状態」とよんだ。・実際の電気ショックを助手にやらせる設定が最も服従率が高かった。つまり、官僚的な組織においてはマネージャーが有能であれば暴力的な行為にかかわる役割を鈍い人物に担当させることができる。ミルグラムはかなりユニークな発想をする人だったらしく、他にも社会心理学上の重要な研究を数多く発表している・放置手紙調査法たとえば、黒人の地位向上委員会あての手紙を放置しておき、それがポストに投函される率を中立的な宛先(医学研究所とか)と比較・計測することで地域住民の意見がある程度推測される。・地下鉄で、「席を譲ってください」いう頼みにどれぐらいの人が応じるか(これはやる方にかなりのストレスであったらしい)・テレビによる行動への影響を調べるため、ドラマの結末を4パターン(反社会的とか道徳的とか)作り、地域別に放送する。被験者を後日呼び出すと、そこには誰もおらず、数ドルが入った募金箱がある。行動はこっそり記録されているが、どうふるまうか。反社会的なバージョンを見た人がお金を盗むということは特になかった。結果に差が出なかったためあまり引用されていない実験■「誰かが俺にあんなことをさせようとすればそうできるんだ」ということがわかったからである。