紙の本
SF色の濃いホラー
2008/04/20 15:44
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紫月 - この投稿者のレビュー一覧を見る
古今東西、吸血鬼を扱う書物は数多く存在する。また書物だけでなく研究す人々も多く存在している。これほど人々を魅了する怪物は他に類をみないのではないだろうか。
小説でいえばブラム ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」、スティーブン・キングの「呪われた町」、日本では小野無不由美「屍鬼」が有名どころだが、そんな中で、エリ・エリ」で小松左京賞を受賞した平谷美樹が描く本書のヴァンパイアはホラーよりもSF的な色が濃い。じわじわと迫りくる恐怖ではなく、刹那の動きと恐ろしさが感じられる小説だ。
ページ数・内容ともに壮大な物語は二十世紀のロンドンから始まり、日本の小島を経て現在のヨーロッパへと駆け巡る。とても長い物語だが構成が巧みな上に展開がスピーディなので、案外と読みやすい。
「生は灰より出て、灰に還る。汝の魂に呪いあれ・・・」の呪文ともに始まる吸血鬼の復活、そして弱点、特性、錬金術師との関連まで含めて吸血鬼の要素すべてを網羅し、読者を楽しませてくれる。吸血鬼に関する数々の蘊蓄は、愛好者をも存分に満足させてくれるだろう。
本書に登場するエロスとヴァイオレンスに満ちた吸血鬼たちは得体のしれない怪異ではなく、モンスターとして描かれている。不気味さよりも吸血鬼の性質や個々の吸血鬼たちの思考が、正体の分からないものに対する恐れよりも異質なものへの興味を誘う。
終盤、妹に固執する吸血鬼・シャングラールと、家族と友人を失った隆信の戦いの場面は映画を見るように映像的だった。この場面に限らず全編を通してのスピーディな展開に、驚くほどの長編を苦もなく読み終えることができる。
生きていく上での多くのしがらみから解放された究極の吸血鬼たちに魅せられた雑誌記者・高森に、自身の思いを重ねる読者は多いだろう。
投稿元:
レビューを見る
題名だけに惹かれて、この本を手にしたとき、まずほんの太さにびっくりしました。546P!その上二段に印刷されています!軽く読める本と勝手に、ホント勝手に想像していたからです。表紙は湖に映るヨーロッパの邸の美しい絵です。
それから、作者。平谷美樹さんは初めて読む作家です。「ひらたにみき」そう思い込んでいました。本当は「ひらたによしき」と読むそうです。
そこで納得!だって、エロイ!めちゃくちゃエロイんです(^^;)
物語は吸血鬼特集を組もうとライターの高森が吸血鬼好きのオーナーのいるBar Vanourへ通います。そこで、阿久津という老人からヴァンパイアの話を聞きます。
始まりは、ロンドン。13歳の沙川隆宣少年の一家の悲劇から始まります。
さらに、6年後の日本で更なる悲劇が。
そして、現在。ライターの高森が阿久津から聞いた話を確かめに動き始めます。
過去、現在、と話は交差し、どんどん深みにはまっていきます。こんなに太い本があっという間に読みつくされていきます。
最後は行き着くとこまでいっちゃった感はありますが、まあ仕方ないかな。ありのまま受け止めて読みました。
投稿元:
レビューを見る
エログロは好きだから良いけど、ヴァンパイアの新解釈は最後の部分で微妙だなぁ。面白かったのに、伏線が回収されない部分が多すぎる気もします。
投稿元:
レビューを見る
うーん・・。
ホラーというよりエログロ。同じ様な表現が続いて辟易しました。
いいたい事はわかるけど長すぎて疲れた。青年マンガ向き。
投稿元:
レビューを見る
銀座の裏通りにあるバー〈Vampir〉
フリーライターの高森は、そこで不思議な老人・阿久津に出会う。
彼が語るのは、謎の古城に住む兄弟の物語。
その城には、本物の吸血鬼が住むという。
その名はキャメロン・ド・シャングラール。
そして彼の妹、オルゴールに魂を封じ込められた、天使のごとく美しいアンリエット。
神に背を向け、魔に身を明け渡すまでの数奇な彼らの運命。
そしてそれに巻き込まれた不運な日本人家族・・・。
彼の話に惹かれるものを感じ、高森は助手とオカルトマニアの男と共に、その呪われし古城へと向かう。
そこで高森が見ることとなる、シャングラールとアンリエットの、そして彼らと関わり、すべてを失った隆宣との最終決戦。
最後に残るのは、シャングラールか、隆宣か?
すべてのヴァムピールを超越した隆宣の、行きつく先とは??
長大な、ゴシックロマン伝奇SFです。
吸血鬼と呼ばれるものたちは、曖昧に流れる未来を「決定する」という力を持つ、新人類候補である、という位置づけは面白いですね。
誰よりも先だってそのような存在になった隆宣は、この世のどこにでも存在し、称えられて十字を切られる唯一の存在〈神〉に匹敵するものになったんでしょうかね?
なかなか皮肉に富んだ、洒落たラストになっていて、そこも大満足です。
ただ、いつもの平谷作品に比べて、エログロ率が高かったですね~。
吸血鬼というものが持つイメージからすると仕方のない事なのかもしれませんが、ちょっと生々しかったかな~。
でも上下段550ページを一気に読ませる、魅力的な本ではありましたよ。
未だに平谷さんの作品では、『エリ・エリ』が一番だと思ってるんですけどね、ははは。
投稿元:
レビューを見る
日本製最新鋭テクノロジーマシン、か。
分厚い。
吸血鬼の古今東西の伝説を集め、煮詰め、シニカルな否定を加え、蒸留。
そして日本風なエッセンスをこれでもか、と振り掛ける。
数々の吸血鬼ものを読んで来たが、今現時点での集大成ではないか、と思える。
伝説。その解釈。時折混じる批判。
そして進むごとに追加される展開。ギミック?トランスフォーム?
どこまで行くのか。そんな描写必要があるのか。
あれこれの思いが、引き寄せられたり、離れたりを繰り返す。
が、間違いない。
ヴァンパイアジャンル好きは手に取るべき。
若い頃読んだ平井和正の「幻魔大戦」も今思い出すと、エロティックな描写が、本当に必要だったのか疑問がよぎってしまう。
娯楽性として、排除一辺倒の考えは持っていないし、適度な刺激は楽しみの一つであるのだが、テーマそのもののまわりにあまりのグロテクスさで存在するとちょっと考え込んでしまう。
必要なのだろうか。
吸血鬼物と言えば、避けては通れない道で、そういう意味では当然なのだろうが、「これは傑作だ」と強く言えない後ろめたさがあるのは正直なところ。
それでも最後には手放すのが惜しくなる魅力がある。