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ブータンを知るための入門書として最適です。ブータンの社会、文化、歴史、経済、風習、国民性などが広く書かれているので、この本を読むだけでブータンを少し語れるようになります。
1.この本をひと言でまとめると
ブータンの暮らしと魅力をありのままに描いた本
2.お気に入りコンテンツとその理由を3から5個程度
・仕事は人生の半分(p89)
→一度そのような低ストレスな生活をしてみたい。
・ブータンの女性たち(p99)
→女性のほうが立場が上な国もあるのかと驚き。
・水力発電による収入は国家歳入の四割を占めている・・・しかも現在全発電量のうち国内で消費されるのは15%に過ぎず、のこりの85%はインドに輸出されている・・・環境保護と経済発展が補完関係にある(p134)
→水力発電が主要産業とは知らず以外だった。国内消費量が少ないのもブータンらしいと感じた。環境保護と経済発展が補完関係にあるというのは理想的。環境保護は何かしらの経済的利益につながらないとなかなか進まないと思っている。
・国会側の発議で、国王不信任案条項が廃止され(p138)
→国民側が非民主化を望むのが驚き。よほど国王を信頼していたのか。
・1998年の政治改革(p139)
→国王の立派さ、先見の明、人格者の様子がよくわかる。
・国王が国民義勇隊の一人として加わった王子一人を伴って陣頭指揮にでかけた(p149)
→かっこいい。まさにリーダーシップ。このあたりが国民に慕われる所以かと思った。
3.突っ込みどころ
・著者は元々それほどブータンに思い入れはなかったと書いていたが、本当?かなり「ブータン愛」が感じられます。
・GNHについて、「生き方の構え」と言っている以上、哲学的なものになるのではないか?
4.自分語り
・一番気になっていた「国民総幸福」GNHは、ヒント的なことがかかれていた。
抽象的な哲学理念、経済概念ではなく、日常生活に即した実際的なあり方である(p163)
経済発展および近代化は人々の生活の質および伝統価値を犠牲にするものであってはならない(p164)
「経済発展は、人間が幸福であることとなんの関係があるのか」(p169)
でもやはりピンとこない。この問いかけに対してこたえるのは今の日本人にはできるのだろうか。
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GNH=国民総幸福
この概念で世界から注目されるブータン。
この概念は早くも1976年には謳われたらしい。
本書の6割くらいは、著者がブータンでの10年の生活で感じた
ブータンの人々の気質、生活の雰囲気についての記述。
興味深かったGNHについては最後の方に出てくる。
読む前の期待感では、
ブータンはGNHについて、どんな知恵を使って国の制度に
落とし込んでいるのだろう、というものがあった。
本文の記述によると、そういう制度的なものではなく、
ブータン国王もこう述べているらしい。
「『幸福感』とは非常に主観的なもので、個人差があるため、
国の方針とはなりえない。
正確に言うなら、国民一人ひとりの『充足』である。
充足感を持てることが人間にとって最も大切である」
つまり、具体的な手法で国全体の進捗を評価するGDP
のような明確な体系はもたない。
本書ではより推し進めて、その方針とは
以下のような問いを発し続けることだ、と述べている。
(あらゆる行為、活動に際して)
「それがあなたが人間的であることに対して
どういう関係があるか?(寄与するか?)」
感想として、
GNHという制度があることへの期待感が
いい形で裏切られたことが、興味深かった。
科学技術や経済原理は、
いうなれば誰しもに通じる共通言語だ、
と思っていてそれは正しいと今でも思うが、
唯一のものではないということに気付かされた。
他に面白いのは、
ブータン通産省の会議において、国外への
輸出品目を検討した際、
ある官僚から
「ブータンが誇る”良質の時間”はどうか」
という提案があったということ。
言葉尻だけからの厳密性は保留しておいて、
こういう発想が出てくることは非常に面白い。
また、水源涵養林としての森林の意義を
「電力施設としての森林」と早期に捉え、
国の7割が失われる前にその価値を明確化したところは、
先走って失敗した先進国に学んだ賢い例である。
また、
近年近代化が進みつつあるブータンの、
途中をすっ飛ばして一気に携帯電話普及、とか、
衛星電話普及、とかいう潔さには、
賢明さを感じます。
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日本人としても女性としても初の世界銀行副総裁に就任した西水美恵子氏は、著書「国をつくるという仕事」で、担当した南アジア地区のリーダーたちを論評しています。そのなかで、理想的人物として描かれているのが、ブータン国・雷龍王四世(当時)。
国民と同じ質素な生活をし、GNPではなくGNHを考案。権力を放棄して王政から民主制へ移行。国境紛争で戦闘となる際には兵士を率いてやむなく応戦するも、「相手にもこちらと同様に愛しい人がいる」と殺生を慎ませ、不幸にして亡くなった兵士の家には王自ら弔問。
昭和天皇の大喪の礼で来日した際、経済大国だった日本に援助を求めて居残る国が多いなか、雷龍王は一切の「葬儀外交」を行わず、大喪の礼のみを行って帰国。記者がその理由を尋ねると、「日本国天皇への弔意を示しに来たのであって、日本に金の無心に来たのではありません」と答え、颯爽と機上の人となったのは有名な話です。
本書はブータンの生活風景と雷龍王四世の退任時について書かれています。小国のため軍事支援をインドに頼らざるを得ず、不平等な条約や慣行が古くからあったなか、「対等」なパートナーに引き上げることを在位中の目標とし、時間をかけて少しずつ実行。これが実ったことから「役目は終わった」と退任を決意されたとあります(王位継承した雷龍王五世は新婚旅行で来日)。米国依存の某国にあって、ブータンの清々しい生き様は参考になるのではと思えた一冊です。