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シリーズ8巻に入り初の上下巻。シリーズはそこそこ続いているものの、会話劇と心理的かけひきの面白さが落ちてくるどころか、ますます冴えてきていると感じます。
このあたりまでくるとプロットの巧みさはもちろんのことですが、キャラクターそれぞれの性格と、小説の世界観が完全に噛み合っているからこそ、面白いのだと感じます。
今回はシリーズで初めて表紙にホロがいません。それもあってか、ある意味ではホロ以上に厄介な人物たちが、この巻では存在感を発揮します。
前巻で因縁ができたやり手の女性商人・エーブとの緊張感あふれる心理戦もさることながら、この巻ではロレンスが所属する商会すらも敵になるかもしれない、ということが示唆されます。ロレンスはエーブ、そして商会と板挟みになり、迂闊に行動できない状況に追い込まれていく。
ロレンスがそうした状況に至るまでに明白な恐喝や脅しがない点が、本当に良くできていると感じます。エーブと商会の関係性、それぞれの目的と立場。南北で対立する港町。そしてホロと同類かもしれない狼の骨を、権威づけに利用しようとする教会。
そうしたこんがらがりそうな設定を最大限に利用し、会話と駆け引きでこの上巻を引っ張っていく。そのストーリーテラーぶりは見事としか言いようがありません。
こう書くとホロの出番が少ないのかと思われるかもしれませんが、ホロはホロでちゃんと見せ場があります。ロレンスの指示に従い情報を集めに向かおうとするホロの素直じゃなさ、いや、逆に素直な言葉たるや……
ロレンスとホロのしち面倒くさく、実は甘々な会話と駆け引きは今回も非常にハイカロリーでした。そこにうぶな神官見習いの少年・コルが加わり、コルが二人の関係性を勝手にいろいろと想像して、気を回そうとするのもおかしくて面白かった。
上巻はまだまだ伏線を張っている段階だと感じます。エーブと商会の策略や思惑が入り乱れる中、ロレンスはどのような決断を下すか、楽しみです。