紙の本
責任をとれ!
2012/01/19 04:24
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いったいあのイラクでの不毛な戦争にアメリカはいくらつぎ込んだのか。
イラク政策の真の戦費とそれがアメリカ経済、世界経済に及ぼす影響を分析を行ったレポートを書籍化したものが本書である。
『慎重に、粘り強く算定されたその額が、三兆ドル。ただし、これはあくまで、計算可能な具体的コストの控えめな見積もりに過ぎない。イラク政策がもたらした原油高、財政逼迫、アメリカ経済の低迷、そこから派生したサブプライム問題など、波及的かつ長期的な“見込損失”は計上されていないのだ。』
三兆ドルという数字だけでも、気の遠くなるようなものであるが、これには上記の様々な派生的費用は含まれていない。また、本書を読めば、この数字でさえ、かなり“控えめな”算定であることがはっきりする。
誰が、何の権利を持って、これだけの“壮大なるムダ”を実行に移すことができるというのか。
そして、現在のイラクの姿を見たとき、この出費がほとんど意味の無いもの、むしろ世界に害をもたらすものであったことが明確に立証される。
あの時、開戦を主張したアメリカに対し、国連をはじめフランス、ドイツなどきっぱりと反対した勢力も確かにあった。これだけの反対があれば、アメリカ単独の意志では決して開戦を決断できなかったはずだ。
しかし、同時に、即様、アメリカに賛同し、アメリカの開戦を後押しした勢力もあった。それは、特にイギリスと日本である。
ちなみに本書の試算によると、この戦争での日本のコスト負担は3070億ドルらしい。これは軽く30兆円を越える。
全く“ムダな”“バカげた”“自分勝手な”戦争に荷担した人々は、誰一人として当たり前のように責任をとっていない。
その代わりのように死んでいったのが、多くの末端の兵士と、イラクの一般の人々である。
また多くの人たちが、この戦争によって、肉体的・精神的ダメージを受けている。本書では、退役軍人にかかる医療や障害補償、社会保障といった費用の算出にもつとめているが、これもまた膨大な数字になる。そしてイラクの街には、この数字にカウントされないまま、いまだに苦しみ続けている人々が多くいる。
この責任を誰がとるというのか。
本書での試算に当たって、筆者は言う。
『多岐にわたる支出の、輪郭が曖昧、内訳が曖昧、出所が曖昧なうえに、過小な計上、項目のすり替えや除去、現金主義会計による将来的コストの隠蔽など、出費を小さく見せる操作の網が、何重にも張り巡らされている』
責任の所在どころか、責任の大きさそのものさえ曖昧にしようとする権力の横暴が許されてはならない。
さらには、もう一度、あたまに帰って考え直す必要がある。戦争のもたらす害悪は、本当は、お金の問題では無いこと。
戦争によって粉々に壊されてしまうのは、人々の命と尊厳と希望なのだということ。
紙の本
イラク戦争のコスト分析と、同じ過ちを繰り返さないための提案
2009/01/10 15:26
7人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MtVictory - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノーベル経済学賞受賞(2001年)のスティグリッツ教授とビルムズ女史によるイラク戦争のコスト分析。2003年にアメリカが始め、未だ収拾がつかないイラク戦争。その戦争にかかったコストを3兆ドルと見積もったのがサブタイトルにもなっている。その額も控えめな見積もりと著者は書いている。開戦当時はそんなにコストがかからないとブッシュ政権は世論を誘導した。しかしそれは今では暴走、失策と批判されている。現実には大義であったイラクの民主化どころか、治安の改善も果たされていない、という。
本書では戦争には兵器や兵士の給与など直接的でハード面のコストだけではなく、様々なコストが隠されていることが分かる。そのコストをこと細かく分析している。負傷兵の治療費、退役軍人への補償金・恩給・障害手当、復興費用、兵士採用コストなどなど切りがないほど。それを忍耐強く分析して算出したのが本書である。過去・現在だけでなく将来の引き揚げコストもある。
死傷することで兵士が本来稼げたであろう収入や、収入が減ることによる生活水準の低下(国の補償では不十分)、精神的負担。また負傷した帰還兵を母国で看病する家族や地域が支払うコストも忘れてはならない。兵士には過大なストレスがかかり精神的な障害を負う者も多いという。最も思いコストを背負わされているのは兵士たちで、それは金額では表せない。価値のある、有意義な戦争があるかどうか分からないが、イラク戦争に限って言えば、まさに壮大なる空費であり、人命・人権の軽視だろう。
それらのコストはアメリカ国民だけでなく、世界各国にも背負わされている。3兆ドルというのはアメリカに課せられる分だけのコストなのだ。しかも将来に渡って付けを支払わされる。例えばイラクの近隣諸国などは大量の難民を受け入れ負担を強いられている。イスラム圏ではアメリカを世界平和に対する脅威と感じ、不快感を高めている。
イラク戦争は単にイラクを破壊し、イラク人や兵士に死傷者を出しただけでなく、アメリカ経済・世界経済にも大きな影響を与えた。中東情勢が不安定化し原油が高騰したこともその一つ。
著者はイラク戦争に投じられた資金を別の事業に回せていたら得られたはずの利益についても考えている。3兆ドルあれば深刻な危機にあるアメリカの社会保障制度の改善や住宅、教育、代替エネルギー技術の開発への投資、途上国への援助が出来ただろうという。「たられば」になるが経済成長率も押し上げられたはずで、もっと有意義な使い方があり、そっちにこそ必要とされていたのだ。
サブプライム問題でアメリカが深刻な経済危機に見舞われたため、アメリカの有権者の多くはイラク問題を最重要課題と見なさなくなっている。次の大統領にとってはいつ、どうやって米軍を撤退させるかが課題となる。難しい判断を迫られる。
第8章ではイラク戦争と同じ過ちを繰り返さないための18の改革案を提起している。大統領の権力濫用を防ぎ、のちのち高くつく判断ミスを未然に防ぐのが目的だ。
最後に書かれている「戦争を気軽に始めてはならない。最大の冷静さ、最大の厳粛さ、最大の注意深さ、最大の慎み深さ・・これらをもって臨むべき行為が戦争」という言葉は国のリーダーは勿論、国民もしっかり認識しておく必要があるだろう。
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アメリカのこと勉強しようとおもって購入したが、この戦争にはいくらかかかった・・・とかの列挙ばかりであまり身になる話はなかった。売却済み。
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イラク戦争にかかった費用は3兆ドル。この膨大な経費は、アメリカ経済、そして世界経済にいかなる衝撃を与えているのか?ブッシュ政権によるコスト隠蔽操作を暴き、戦争という巨大ビジネスが引き起こす負の連鎖を看破する。(TRC MARCより)
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既読。
ようやく読み終わった…。
前から「戦争は儲かる」という概念がなぜかわたしの頭の中にあり、「どうして戦争は儲からないのか?」を知りたかったので。
かなり分かりやすくそのあたりを解説してくれているのと、明確に「イラク戦争は国際法違反の侵略行為」と言ってしまっているのが新鮮だった。
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イラク戦争におけるアメリカの出費は、12年にわたったベトナム戦争をすでに上回り、負傷兵の治療費や退役軍人の手当てなどを考慮すると、少なくとも3兆ドルにのぼる。
しかし、戦況は混沌としたままで、復興の道は見えない―。この実りなき戦争に費やされた膨大な経費は、アメリカ経済、そして世界経済にいかなる衝撃をあたえてるのか…
ブッシュ政権によるコスト隠蔽操作をあばき、戦争という巨大ビジネスが引き起こす負の連鎖を看破する。ノーベル賞経済学者スティグリッツの衝撃作と言われている。
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『序-アメリカ経済を弱体化させた戦争という巨大ビジネス』
・アメリカのイラク侵攻.4000人近くのアメリカ兵が死亡,5万8000人以上が重軽傷や病を負った.
・イラク戦争は,数々の間違った前提にもとづいていた.サダム・フセインが9.11にかかわっていたという主張や,IAEAによる査察は無視され,大量破壊兵器を所持していたという主張.多くの人は戦争がすぐに終わり戦費はかからず,イラクには民主主義が花開くと考えていた.
・ところが実際には戦争は生命と財産の両面で,驚くほど高くつくことになった.アメリカに課されるコストの総額は3兆ドルになる.今後どうやって支払っていくのか?
『第1章 ブッシュ派三兆ドルをどぶに捨てた』
・政府が戦争を始める前にした発言.国際開発庁長官「イラクの再建にあたって国民が負担する税金は,17億ドルです」.経済顧問「戦争が首尾よく遂行されれば,経済が好転するだろう」
・戦費を押し上げる主な要因.民間の請負兵の人件費の上昇.ブッシュ政権は,迅速におこなう必要があると主張して,独占入札を使って業者を選定した.民間軍事業者は,二大政党への献金という形で政府に報いた.
・政府は,五年間ずっと,承認された予算以外に「緊急予備」資金を使っている.政府にとっての利点は,戦争のコストをあいまいにすることが可能になった,議会の詮索を受けずにすむなど.
『第2章 二つのシナリオで予測するアメリカの暗い未来-国家予算にかかる戦争のコスト』
・戦争の財政的コストは,四つのカテゴリーに分けることができる.
①イラクとアフガニスタンで戦争を遂行するために使ったコスト.
②将来のコスト(戦争のコストと補償のコスト).
③戦争に関連する隠されたコスト.
④借り入れた全資金の利息.
『第3章 兵士たちの犠牲と医療にかかる真のコスト』
・精神的,身体的外傷を負った兵士たちがようやく故郷に帰り,早期に治療を受けて障害手当をもらおうとすると,数々の難題が待ち受けている.帰還兵は,帰還兵について責任を負う国防総省と,除隊となった兵営の治療と傷害補償を管理する退役軍人省(VA)のあいだに,置き去りにされてしまう.VAの処理手続きには時間がかかり,軍人は,手当給付の遅延に悩まされている.
・退役軍人集団は,死亡給付金やPTSDの傷害補償を求めるために,退役軍人省に対する集団訴訟をおこなっている.原告は,金銭を求めるというよりは,VAに数々の政策の失敗を認識してほしいと考えている.
『第4章 社会にのしかかる戦争のコスト』
・戦争の「社会的」コスト.
・若いアメリカ人の生産力の喪失,障害を負った者を介護するために職を辞めなければならない家族の損失,また,感情的な負担という評価が不可能なコスト.
・長期間配置された兵士や,あるいは繰り返し配置された兵士は,精神衛生上の問題を抱えるリスクが大きくなる.ひとつには,長く軍務につくほど,戦友の死や負傷に向き合う頻度が大きくなるからだ.「身体障害は全般的な精神障害につながらない.しかし,精神障害は全般的な身体の健康悪化につながっている.」
『第5章 原油高によって痛めつけられるアメリカ-イラク戦争のマクロ経済的影響』
・イラク戦争の開戦以来,石油の値段は上昇の一途をたどっており,1バレル当たり約25ドルだった原油価格は90ドルを超えた.アメリカ合衆国のような石油輸入国では,原油価格が高騰すると,貿易赤字の拡大とインフレ圧力の増大につながる.各国の中央銀行はしばしば,インフレ圧力を金利の引き上げで抑え込もうとするが,そうすると石油代金の支払いと未償還債務の利払いが膨らむため,政府は財政収支の均衡をとることが困難となる.また,金利が上昇し続ければ,国内の消費と投資が冷え込み,株式市場が低迷し,経済全体が減速する.
・戦争が経済を上向かせるという神話は間違いだ.
『第6章 グローバル経済への衝撃』
『第7章 泥沼からの脱出戦略』
『第8章 アメリカの過ちから学ぶ-未来のための十八の改革案』
・イラク戦争から得るべき教訓の一つは,合衆国議会や国連などの機関が,チェック・アンド・バランスの機能を果たせていなかった点だ.大統領の所属政党が過半数を握っている議会は,ブッシュによる情報操作を真に受け,開戦承認を議決した.
・国連憲章によれば,国家による武力行使が許されるのは,自衛をおこなう場合と,安全保障理事会が容認した場合のみだが,イラク戦争はそうではない.要するに,この戦争は国際法違反の侵略戦争なのだ.
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この本の焦点は「イラク戦争によって、アメリカがどれほどの経済的損失をこうむったか」。コスト・ベネフィット分析という視点で考えると、この本の内容はわかりやすい。
コストは予想以上に高い水準だった。財政会計制度や割引現在価値、退役軍人の障害保障、経済へのインパクトなどを勘案すると、イラク戦費は3兆ドルもかかってしまった。
それに対してベネフィットはほとんどない。イラク戦争によって、インフラは寸断され、イラクの治安は悪化し、イラク国民の生活は苦しくなった。そんなことなら、アメリカ政府はもっと違う分野へお金を使うべきだった。
このように趣旨としては単純明快だ。しかしこれらはあくまで結果論。戦争を繰り返さないためには、なぜ開戦することになったのかを精査する必要がある。
開戦に至るまでの、経済的利害の衝突や、政治的意思決定プロセスが明らかにならないと、過ちはまた起こる。このような視点で書かれていることを期待していただけに、星は三つ。
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アメリカはイラク戦争をするための国家的課題がある。アメリカの成長を支えられそうもない崩壊寸前のインフラ、人口の相当な割合が享受できないでいる医療制度、欠陥だらけの教育制度。
この世の中には、無料のランチもないように、無料の戦争もない。
アメリカが存在しないイラクの大量破壊兵器に注目している間に、来たよう線はその兵器を入手した。
安全性の低下は経済に悪影響を与え、リスクの存在は投資と成長を阻害する。ビジネスはリスクを嫌う。リスク管理には大変な労力が必要になるから。
グローバル化は世界に大きな実利を与えてきた。
イラク戦争ほど効果的にアメリカの力を低下させた実例は他に思いつかない。
世界におけるアメリカの評価は史上最低レベルまで落ち込んだ。
世界はアメリカのことを、どこよりも悪の枢軸で危険な国家だと認識している。
アメリカの過ちは、冷戦時代の軍事戦略である抑止がイラクにも通用すると思い込んでいたところ。冷戦下の強気アメリカはソ連による武力行使を抑止した。これと同じ理論が当てはまるなら、イラクにおける積極果敢な行動は反政府勢力の抵抗を抑え込めるはずだが、現実はそうならなかった。
イラク戦争から得るべき教訓の1つはアメリカ議会や国連などの機関が、抑止と均衡(チェック&バランス)の機能を果たせなかった点。
アメリカにとって戦争はお手軽なものになってしまっている。
アメリカが世界唯一の超大国の地位につき、経済力以上に軍事力の突出(世界の軍事費総額の47%がアメリカ)が健在化した結果、アメリカの軍事力濫用を抑止できるのはアメリカ国民による積極的な意思表示だけになってしまった。
戦争を気軽に始めてはならない。最大の冷静、厳粛、慎重をもって臨むべき行為が戦争。
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イラク戦争、アメリカは、なんとおろかな戦争をしたことか!と本書を読んで痛感した。本書では「ブッシュは3兆ドルをどぶに捨てた」と主張している。3兆ドルは、日本円で約240兆円。日本の国家予算をおよそ90兆円とすると、3年分近い巨額の数値だ。
本書では、戦争の回転資金や駐留コストだけではなく、退役軍人の医療費や障害補償金等々を精緻に考察している。アメリカは、これだけの費用と4000人以上のアメリカ兵の死者と5万人以上の戦傷者をだして、何を得たのだろうか。残ったのは中東の混乱だけではなかったのかと本書を読んで思った。
本書の内容が論理的で精密であるほど、イラク戦争という不毛な選択をしたアメリカの指導者のおろかさをあらためて感じた。
今どきイラク戦争が「正義の戦争であった」と主張するものは、ほとんどいないとは思うが、かつてブッシュの決断をもろ手を挙げて賛成したのは、日本においては小泉純一郎首相ひとりだけではないだろう。そのような当時イラク戦争に賛成したもの達にこそ本書を読んでもらいたいと感じた。
本書は歴史における判断の誤りを論証する良書であると思う。ただ、本書はイラク戦争の経済面を取り上げてはいるが、政治的な側面にはふれていない。その点はやや物足りなく感じた。
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戦争によってかかるコストがどれだけ大きいのか?そしてなぜ戦争は起こされるのか?
非常に非合理的なことでありながら、起こされる意味そのものを理解できると、ある意味唸らされる部分も大きい学びの多い1冊でした。
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一方で、戦争は最大の公共投資だ、という声も聞かれるのだが。
イスラム国への空爆でも、アメリカのロッキードとか戦争の特需で株価が最高になってるし。