紙の本
お話のタイトルは五つ★、中身は★一つマイナス。なんていうか時間の飛び方が速すぎて、話が追いついていない気がするんです、はい
2008/10/15 22:46
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
話は明治13年、明治元年生まれの主人公・葛城冬馬が松山から上京したときから始まります。祖父が松山藩侯より禄を受けたことを恩に感じる頑固者だったせいか、絶対に髷を落すことを許さず、この頃では極めて珍しい存在。ところが、その髷姿の少年を求める人間が東京にいたのです。
といってもお稚児さんにしようというけしからん了見ではありません。ま、髷を舐めたりと若干変態的な愛着を示しますが、それ以外は極めて真っ当。そんな少年を求めていたのが新政府に招聘され、東京医学校(現在の東大)で教鞭をとるようになって4年というエルウィン・フォン・ベルツです。
ドイツ生れのベルツは書生を求めていました。それを商売の関係で知った冬馬のおじ、横浜で呉服商を営む貞一です。ベルツに気に入られた冬馬は、ベルツのもとで働くうちに、様々な外人教師と知り合い、言葉を覚えドイツ語だけではなく英語、フランス語を自在に操り、予備門に通うようになり、ついには医学部に通うようになってしまいます。
そしてその過程で不思議な事件に出会い、新聞記者・市川歌之丞(後に名前と職業を様々と変えます)、ベルツ先生と共にそれらを解決していきます。北森には考古学や骨董の世界を扱った重厚なミステリと食事などを扱った軽妙なもの、その中間の作品がありますが、今回はユーモアミステリと言っていいでしょう。
時代の雰囲気はそれなりに出ていますが、明治特有の陰鬱さが感じられないのが、今までの明治物と異なります。実際にかの時代がどのようなものであったかは想像するしかありませんが、私にとっての明治は薩長土肥の田舎者が大手を振って街中を闊歩する下品で鬱陶しいような時代です。
しかも頂点には転がり込んできた権力の座についたばかりで国民のことなど考えたこともない天皇と、身内だけで私腹を肥やそうとする特に薩長の人間が踏ん反りかえっているわけですから、明るいわけがありません。それが、そのまま戦争が終わり、昭和天皇が死ぬまで、いや官僚の考え方などは今も続くのですからニッポンは凄いわけです。
そういう明治の嫌らしさがあまり伝わってこない。勿論、この国を何とかしようなんていう気概も登場人物の誰からも現れてきません。主人公である冬馬にもそれは言えますが、歌乃丞ともなればヘラヘラしながら、ともかくラクして遊びながら生きていこう、それだけなわけです。当然、人情といったウェットなものは薬にしたくてもありません。
無論、それがこの小説に対する北森の狙いであるわけで、各篇のタイトルを見ただけでも、ユーモアミステリ以上のものを彼が書こうとしていないことはよくわかります。ただし、軽さがそれだけで読者にとっての快になるかといえば、どうでしょうか。正直、笑えないユーモア小説くらい面白くないものはありません。早速、各話に目を通してみましょう。
◆なぜ絵版師に頼まなかったのか(「ジャーロ」2006年春号):明治13年、横浜で米国水夫が決闘で亡くなった。残した言葉は「何故エバンスに頼まざりしか」。ベルツと友人のナウマンに頼まれた冬馬は事件の様子を探りに横浜に行き、そこで歌之丞に出会い・・・
◆九枚目は多すぎる(「ジャーロ」2006年夏号):明治16年、冬馬は大学の予備門に入学。一方、歌乃丞は名前を扇翁と改め、骨董屋の主人に。そんな時、おなじ古物商の相良鉄斎が死体となって発見され、疑いは扇翁に。連続する毒殺事件、謎の新聞広告。フェノロサ、モースも登場し・・・
◆人形はなぜ生かされる(「ジャーロ」2006年秋号~2007年冬号):同じ明治16年、冬馬は医学部の書生としてベルツの京都出張に同行する。京都で別行動をしたベルツの沈黙、帝都を徘徊する謎の人形師・れおな多弁児が作る活き人形、小山田奇妙斎と名前を変え、小説家となった扇翁に、医学部教授スクリバも絡み・・・
◆紅葉夢(「ジャーロ」2007年春号~夏号):明治20年、ベルツが盛んに出入りする紅葉館では、そこから名前をとったという尾崎紅葉と芸妓の須磨の諍いが。アライ・ハナに熱をあげるベルツ、彼に脚気の治療を頼む法学部教授ボアソナード。そして紅葉館では17歳の芸妓が殺された。今度は臨済宗下谷報徳寺の住職・鵬凛となった奇妙斎に天才戯画家ビゴーも姿を見せ・・・
◆執事たちの沈黙(「ジャーロ」2007年秋号~2008年冬号):明治22年、大学の寄宿舎で起きた火災と現場で発見された身元不明の遺体。その解剖にスクリバの指名で冬馬は立ち会う。その遺体は、完璧な洋装になぜか足の指に鼻緒の痕が。仮名垣露文の弟子となり魯人と名乗りはじめた鵬凛は・・・
話が明治13年、16年、20年、22年と飛ぶので、読んでいて首を傾げたくなることがあります。それを除けば、読みやすい。ただし、泉沢光雄の装丁、狭間隆治の装画・本文イラスト同様、中味も平均的なものとだけ言っておきます。特にカバーに案内文はありません。一応、出版社のHPから宣伝文句をコピペすれば以下のようです。
なぜ絵版師に頼まなかったのか
明治異国助人(おたすけガイジン)奔る!
北森鴻/著
学究にこの身を捧げたるからには、目の前の謎を放置しておくわけには参らぬ。
変革の嵐が吹き荒れる、明治年間の帝都。帝国大学には多くの雇われ外国人が教師・研究者として働いていた。エルウィン・フォン・ベルツ先生もその一人。並外れた日本びいきで知られるベルツ先生とその弟子・葛城冬馬が次々に出来する新時代の事件に挑む!
もしかして各話のタイトルが一番面白い?
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なんだこの表紙!?と思ったら北森さんだった。(笑)
明治維新直後の日本を舞台に、書生の主人公とその愉快な仲間達がカツヤクします。連作になっていて、どれも見事なのですが、謎解きが早すぎてついていけません(笑)
やっぱり表題作がすきかな。
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ベルツ先生や市川などキャラクターは良かった(笑)事件は(--;)なんか話を大きくするよりも小さい事件の方が良かったんじゃないかなか。北森鴻の本って結末が少し寂しいと言うか微妙な感じが多いな(--;)続編でるなら読むけどね(笑)
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すっかり冬馬くんが小さいままかと思ったら、すぐに大きくなってしまった。
脇役がいい味出しているなと思う。
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表題作「なぜ絵版師に頼まなかったのか」を含む短編集。
まず表紙にびっくりしました(笑)
物語としては、明治維新直後の帝都を舞台にしたミステリ。ですが、ミステリの要素は薄味な感じがしました。
市川歌之丞さんのキャラがツボでした。改名しすぎー!!
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変革の嵐が吹き荒れる、明治年間の帝都。帝國大学には多くの雇われ外国人が教師・研究者として赴任していた。エルウィン・フォン・ベルツ先生もその一人。並はずれた日本びいきで知られるベルツ先生とその弟子・葛城冬馬が、次々に出来する新時代の事件に挑む。
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明治初期。
東京大学医学部の外国人教師ベルツの給仕として松山から冬馬がくる。
その冬馬を手足にして、不思議な出来事を解決していく。
当時こんなことがおこったんじゃないかなと思わせられる。
短編集なので、冬馬が成長していく過程も面白い。
でもちょっと、あっさりと謎解きをするところが物足りないかな。
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タイトルがパロディなのでユーモアミステリかと思ったが、軽いタッチのミステリだった。
読後感もよし。
明治の初め、孤児な冬馬少年がベルツ先生の下で書生として働き、さまざまなことを学んでゆく…といった発端。ベルツ氏(ベルツ水が有名)の他にナウマン(ナウマン象)やらフェロノサやらやたら有名な外国人が登場し、事件に絡んでゆくのは面白い。
キャラも設定も細かいところまで面白い(花瓶がツボ←意味不明だな)
ちょっと不満なのは時間経過が早い。冬馬もあっという間に大きくなってしまうし。
サクサク時代が進むのじゃなくもっと書いて欲しいな。シリーズ化希望
ちなみに章題
・なぜ絵版師に頼まなかったのか
→なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか (アガサ・クリスティ)
・九枚目は多すぎる
→九マイルは遠すぎる(ハリィ・ケメルマン)
・人形はなぜ生かされる
→人形はなぜ殺される(高木彬光)
・紅葉夢
→紅楼夢 (曹雪芹)
・執事たちの沈黙
→羊たちの沈黙 (トマス・ハリス)
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明治初期を舞台とした、ややユーモア要素もあるミステリ連作。時代背景や、その時代特有の風刺も効いています。それぞれ有名なミステリタイトルのもじりですね。ああでも「紅葉夢」の元ネタだけが分からない~。
お気に入りは表題作「なぜ絵版師に頼まなかったのか」。事件の真相もさながら、動機が何とも言えませんね。恐ろしいながらも悲しい企み。時代背景をもっとも色濃く表している作品じゃないかと思いました。
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維新後の「大改革」期の日本を、外から来た
異国人の見た様子がリアリティがあってよかった。
もちろんミステリーとしても。
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★あらすじ★文明開化から十数年の明治が舞台の連作小説。大の日本びいきであるベルツ氏の住み込み給仕となった少年・冬馬は、横浜港で「なぜ絵版師に頼まなかったのか」という言葉を残して仲間を銃殺後に自殺した外人の謎を知人の市川歌之丞らとともに探っていく。表題作含め移り変わる時代の中で起こった事件をめぐる5篇を収録。
★感想★明治版の日常ミステリでもあり、冬馬が13歳の少年から帝国大学の医大生になる成長物語でもあります。冬馬とベルツ氏の友人で登場するたびに名前と職業が変わる市川歌之丞氏の飄々としたキャラがいい。帝国主義に突入する直前の気配と文明開化の混合する中、モース、ナウマンなど実在する雇われ外人たちも登場し、時代設定にリアリティと味を出しています。作風は京都裏ミステリーシリーズの明治版といった感じで、ミステリ性よりも世界を楽しむ作品だと割り切った方がいいかも。
冬馬は移り行く時代の中でどう成長していくのか、市川氏やベルツ氏はじめ雇われ外人達はどう生きていったのか続きが知りたかった。改めて作者の急逝が残念です。
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明治政府に雇われた東大医学部ベルツ教授のもとで給仕をはじめる少年が教授と一緒に東京と横浜の怪事件を次々解決する話。短編連作なのですが表題作の「なぜ~」が一番面白いうえ小説一本書けるほどの内容なので短編なのがおしかった。主人公が英語とフランス語とドイツ語を1年ちょいでマスターしちゃうのもあれだけど面白かったし明るい話なので堂々とおすすめします。
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明治政府に東京大學医学部主任として招聘されたドイツ人、エルウィン・フォン・ベルツのもとで給仕として勤めることになった葛城冬馬。
彼ら2人が元新聞記者の市川歌之丞らとともに、周囲で起きた事件の謎を解いていく短編集。
サブタイトルに「明治異国助人(おたすけガイジン)奔る!」とあるように、同時期に来日されていたお雇い外国人たちも登場します。
「なぜ絵版師に頼まなかったのか」
明治13年の設定ですが、これもある意味攘夷行動になるのかなぁ。
「九枚目は多すぎる」
明治15年。冬馬は東京大學予備門生。市川歌之丞は骨董商・市川扇翁に。
これまた明治の闇の部分ですね。
「人形はなぜ生かされる」
明治16年。市川歌之丞こと市川扇翁は小説家・小山田奇妙斎に。
出てきましたね、岩倉、伊藤、井上。
でもやっぱり伊藤と井上は仲がよかったと思うのですけど。
「紅葉夢」
明治20年。市川歌之丞こと市川扇翁こと小山田奇妙斎は住職・鵬凛に。
脚気って、そうとうに恐ろしい病気だったのですね。
「執事たちの沈黙」
明治22年。市川歌之丞こと市川扇翁こと小山田奇妙斎こと鵬凛は文人・仮名垣魯人、又は冬馬の一番弟子・葛城頓馬に。
森有礼暗殺に帝国憲法発布。その裏側ですけど、スッキリしません。
これまた軽いタッチですね。
先日読んだ「裏京都」も光文社だったのですけど、光文社の仕事はこういう路線ばっかし?
同じ光文社、ユーモア系ということで東川篤哉さんを思い出しますけど。
舞台が明治で、政府から雇われている外国人が出てきますから、明治政府の裏の事情なども絡めてあるのですけど、短編だからかどれもあっさりとした印象でした。
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なんか軽すぎて薄っぺらな印象。
明治十三年から明治二十二年にかけての帝都・東京。東京大學医学部主任のベルツ先生に就いて勉学に勤しみ、給仕として働くことになった若者、葛城冬馬(かつらぎ とうま)。彼が、友人の市川歌之丞(うたのじょう)こと市川扇翁(せんおう)こと小山田奇妙斎こと鵬凛(ほうりん)こと仮名垣魯人(かながき ろじん。という具合に、話が変わるごとに名前が変わってゆくのです)とともに、身近に起きた事件の謎を調べ、解き明かしていく連作短編集。
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著者が得意とする、ウィットに富んだユーモア・ミステリ。歴史的考証も緻密で、そうした視点で読んでも面白い。