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冒頭の高慢な語り口に、鼻にかかったオックスブリッジ・アクセントが聞こえてくるようでわくわく。時は第二次大戦開戦前夜、ケンブリッジの架空のカレッジで起きた殺人事件。大学内の独特な風習や奇矯な学者たちの姿を交え、複数の探偵役が真相をめざす。
身の回りの題材で書いたのか大法螺をふいたのかどっちかなーと思ったら、作者は実際にケンブリッジで考古学を教えていた教授だそう。自分で読んだ推理小説の出来があまりに不満足だったので「誰だってあれよりマシな小説が書ける」と書いたのが本書らしい。
そのためか、たくさんの探偵役がそれぞれに持論を展開し、目撃者も容疑者も言うことが二転三転し、証拠は偶然見つかり、それ推理小説としてどうなの?というところもあるのだけど、現実には巷の推理小説のように、他人の言った言葉を一字一句再現できる証人なんてそうそういるわけがない。(とある日本の推理小説で「ビオラと鋲螺を聞き間違えた」なんてシーンが出てきた時は、謎解きのための事件のようで苦笑したものなー)
だからこれもまたあり。1945年に出版された作品だからなおさらあり。
ということで、時代の雰囲気(考古学者はフィールドワークでは必ずツイードを着るとか)や、門限に送れた学生が塀をよじ登ってくるのんびりとした話を楽しんで読了。