紙の本
イスラム金融はアメリカ型グローバル資本主義の対抗軸となれるか?
2008/11/09 12:28
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MtVictory - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近「イスラム金融」や産油国の「政府系ファンド」という言葉をよく聞くようになった。原油価格が高騰して中東の産油国が潤ってオイルマネーが世界に逆流していく。それらの多くがイスラム教国だが、マネーの力で存在感を強めている。
イスラム教では利子を伴う金融取引をしてはいけない、とコーランには書かれているそうだ。利子は不労所得であるため、よくないものとされ、イスラム教徒(ムスリム)の行動規範「シャーリア」(イスラム法)に規定されている。しかし、そのシャーリアも国際標準がなく、各イスラム教国によって解釈に差があるらしい。ではイスラム教国では金融ビジネスは成立しないかというとそうではない。共産国じゃないからビジネスはしっかりやっている。利益も上げている。お金が嫌いな人々というわけではない。
イスラム金融が急速に発展するようになったのはつい最近で、2000年代に入ってからのこと。それまで欧米の金融市場へ流れていた「オイルマネーがイスラム金融を振興する国々に向かうようになってきたのである」。原油産出国でないイスラム教国もイスラム金融を整備してインフラ整備などにオイルマネーを投資してもらうよう努力している。
イスラム金融での取引形態には大きく分けて次の4つがある。ムラーバハ、イジャーラ、ムダーラバ、ムシャーラカ。詳細は本を読んで欲しいが簡単に言えば、イスラム金融にも銀行は存在するが、金融機関というより小売・問屋のような役割で、利子の代わりにマージン(利益)を上乗せして販売し利益を上げている(これが7割)。またリースの仕組みを利用してリース料で利益を生み出したり、投資家から集めた金を事業に投資したり、投資家と事業を共同経営することで収益を分配する、という仕組みもある。
主なイスラム金融商品として以下の二つが紹介されている。
・スクーク:金融債権
・タカフル:保険
本書では著者の主宰するBRICs経済研究所が提唱した「MEDUSA」4ヶ国(M:マレーシア、E:エジプト、DU:ドバイ首長国、SA:サウジアラビア)をイスラム金融の有力グループとして第二章で取り上げている(なぜイスラムにギリシャ神話の怪物の名前なのかは知らない)。各国の取り組みや経済状況、将来展望などが解説されている。投資する側も投資されたい側も参考になるのではないか。第三章はMEDUSA以外の国々にも触れている。イスラム教国ではない英国や香港などもイスラム金融に注目していることが分かる。第四章はイスラム教国以外の有力新興国で活発化しているインフラ投資にイスラム金融が活用される可能性について迫っている。ブラジル、ロシア、ASEAN地域などイスラム金融とは関係なさそうな話もあって、紙面稼ぎにも受け取れた。
世界金融危機の影響で原油価格は急落し、原油輸出でボロ儲けし続けることは出来なくなった。中東地域でも経済が急成長し、インフラ整備などに向けて海外から投資マネーが流入してきたが、ここのところの世界経済の変調で雲行きが怪しくなってきたと聞く。世界が互いに強く結び付き依存していることを象徴している。
エピローグにはイスラム金融が「アメリカ型のグローバル資本主義の対抗軸」になると言っている。サブプライム問題によって「グローバル資本主義の限界やリスク」が浮き彫りになり、そのもとでは「マネーが現実の経済活動を離れて暴走してしまうおそれがある」ことが分かってきたからだ。マネーの暴走が「バブルの発生と崩壊」、「物価の高騰」など「現実の経済活動に悪影響を及ぼす凶器」になった。
しかし私にはグローバル資本主義が悪なのではなく、レバレッジを利かせて大儲けしよう、とかいった欲望をコントロールできない人々の問題だと思うのだが。イスラム教には厳しい戒律がある。確かに利子を取らないのは解釈の違いだけで、イスラム金融でも資本主義国と似た手法で何らかの収益を上げていることは本書で理解した。しかしムスリムの人たちにはイスラム教の法律による規制と、信仰に基づいた欲望の制御が機能しているように見え、今後の資本主義のあり方を見つめ直すための手本になるような気がした。欧米のキリスト教国にもまだ信仰はあるはずだと思うのだが、現在の状況を見るとタガが外れてしまったとしか思えない。
投稿元:
レビューを見る
イスラム金融の基本をおさえるだけなら第一章の「イスラム金融、これだけ知れば大丈夫」だけで
本当に大丈夫。第二・三章はBRICsほどには注目を浴びていないが今後成長しそうな国を網羅して
いるだけでイスラム金融とはほとんど関係ない。もっと薄くしてもいいんじゃない?
投稿元:
レビューを見る
利子の禁止という日本の金融業界の常識では通用しないような項目が存在するイスラム法(シャーリア)。
そんなイスラム教に則っているイスラム金融。
では「どうやってイスラム金融は成り立っているのか?」
この問いに答えられない人はぜひ本書を一読することをおすすめする。
イスラム金融の総資産は2015年には3兆2580億ドルに達すると著者は予測している。
これだけの規模を持つイスラム経済に注目せずにはいられない。
宗教と哲学も含めて中東自体に対する興味がますます強くなってきた。
もっともっとイスラム経済について学んでいきたい、そんなことを思わせてくれる本。
投稿元:
レビューを見る
レバレッジビジネスが崩れた今、
超注目のイスラム金融。
グラミン銀行ってすげー。
さて、僕たち金融機関はどこを向いて歩いていくべきか。
うちの会社は10年くらい前のことをやってる気がするのですが。
日本の今の問題はこれだ!こうしねぇとやべえぜ!
って誰も会社で言ってませんが大丈夫でしょうか。
一人くらいいねーの?
投稿元:
レビューを見る
データ重視なのがありがたい。
イスラム金融の基本から
2008年現在の近状まで。
幅広く説明している。
イスラム金融の雰囲気を味わうことが出来る。
面白い。
投稿元:
レビューを見る
全然知らなかった、イスラム金融について学ぶための良本。イスラム金融はシャーリアという教本により形作られている。まず、驚くべきはイスラム金融には利子が禁止されていること。まぁ、利子に代わりる仕組みはあるが、それもモノの価値とリンクしているため、金が金を生む利子との違いは興味深い。他にも、保険の禁止や、投機の禁止など、えっと驚くルールが満載。複雑で世界中への影響力をます、イスラム金融を学ぼう。
投稿元:
レビューを見る
シャリーアの考え方を含むイスラム金融システムについて若干の説明のあと、各イスラム国家またはイスラム系の人たちが多い国の紹介。総じて言えることは、イスラムは、三大宗教の一つでもあり、人口が今でも多い。が、教義で避妊を禁じているのでその意味でも今後の増加が見込める。金融を言うものをイスラムに取り込みやっと「お金」を使いはじめてきたので、イスラム金融に今後取り組むべきである。という本。
投稿元:
レビューを見る
[ 内容 ]
サブプライム・ショックでアメリカ型経済システムへの信頼が失墜するなか、「イスラム金融」の存在感が高まっている。
イスラム金融とはイスラム教の戒律シャリーアに従った金融の仕組み。
最大の特徴は「利子」がないことにある。
いまイスラム金融市場には中東の巨額なオイルマネーが流入、急拡大する市場に参入すべく、非イスラム教国も商品開発・インフラ整備に乗り出した。
イスラム金融は世界金融市場を制するのか?
日本は乗り遅れていないのか?
注目の金融システムのすべてが分かる。
[ 目次 ]
プロローグ 金融市場の新たな勢力
第1章 イスラム金融、これだけ知れば大丈夫
第2章 有力グループ、MEDUSAのパワー
第3章 目が離せない、あの国この国
第4章 インフラ投資にイスラムマネーを!
エピローグ 日本経済とイスラム金融
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
投稿元:
レビューを見る
もう書かれている内容は数年前の話になってるかな。TVに出たときの門倉さん面白くて、たまたまReaderStoreで100円だったから試しに読んでみた。イスラム法に合わせた金融の説明と、世界の国々のイスラム金融の状況について書いてあります。
投稿元:
レビューを見る
◆不労所得を許さぬ戒律から利子収入が禁じられ、故に金融が発展しなかったイスラム圏。しかし、それはもはや「今は昔」であり、イスラム金融は現代国際金融・国際経済の重要なプレイヤー。本書はその実を開陳していく◆
2008年刊。
著者はBRICs経済研究所代表。
戒律上、不労所得が許されず、それ故、利子収入が禁止されてきたイスラム圏。
しかし、現実との必要性と、与信の方法論の多様性の観点から、現実にはイスラム圏でも金融は存在する。そして、それはオイルマネーの拡大に伴い、世界経済における重要性を否が応にも増す結果となっている。
本書は、そのイスラム金融の概要を提示した後、それを利用する各国の21世紀の経済、その発展模様を素描する。
ここで印象的なのは、何よりイスラム金融の規模である。
05年段階で、オランダの経済規模を超える8000余億ドル。成長率は年10~15%であり、10年には1兆6000億ドルと見込まれ、07年の世界中のヘッジファンドの預かり資産総額に匹敵するとのこと。現在から見ても、その予想は概ね妥当しているようであり、その規模の巨大さは、世界経済の撹乱要因であり、基底要因であることを明示していよう。
また、同時多発テロの発生のため、イスラム金融の従来の流入先であったアメリカが、その資産凍結を実施する危険があり、これを回避するため、潤沢なオイルマネーがイスラム金融を必要としている。このあたりも、アメリカ経済の重要な構成要素の動きとして眼を離せないだろう。健在の経済システムの肝が、石油ドル兌換体制であれば尚更だ。
そして、イスラム金融の利用と、原油価格高騰に伴うイスラム圏各国の旺盛なインフラ(電力・交通・各種産業)需要。そして、これに投資する資金需要の高さ。これを支えるイスラム金融という構図も、中東ナショナリズム・イスラム紐帯という観点から見逃せない。
投稿元:
レビューを見る
イスラム金融といっても、グラミン銀行位で、一般の金融と大した違いはないと思っていたが、大違いだった。利子を取らないイスラム金融が商売として成り立つ4つの仕組みが分かりやすく解説されている。また、ドバイを始めとするUAEの状況も、中々得られえない情報で面白かった。
投稿元:
レビューを見る
イスラム金融に対して各国がどういったアプローチをしているかが分かる。同時にオイルマネーの大きさを感じるし、宗教がビジネスに占める割合がこんなにも大きいんだと思う。イスラム金融だとバブルが起こりにくいという話はなるほどと思った。
投稿元:
レビューを見る
イスラム金融入門
著:門倉 貴史
幻冬舎新書
イスラムに金利がないとは聞いていたが、イスラム金融という体系があるのは本書で知りました。
イスラム金融というのは、シャリーアというイスラム法の規則に従った金融取引のことである
ヒヤルという方法がある。ヒヤルとは実質的には利子を伴う金融取引を、物の取引に見せかける行為である
ヒヤルの1つに、モハトラ契約というのがある。商品を掛けで高く売って、それを安い価格でただちに買い戻す行為を指す
イスラム教の教義に反することがないように、利子のつかない当座預金にお金を預けたり、普通預金で預金する場合であっても、元本についてる金利の部分を寄付に回していたりした
IRTI,IFSBというイスラム金融の専門機関の推定によると、イスラム金融の総資産額は、2005年時点で、8050億ドルに上がる
2001年9月11日の同時多発テロの影響で、米国の金融機関などに預けられていた膨大なムスリムの金融資産がいつ凍結されるかもわからないという状況になり、ムスリムが自分たちの金融資産を先進国の市場から引き上げるという動きがでるようになった。
そして、引き上げられたお金、イスラム金融のほうへと向かったのである
イスラム金融とは、一言でいえば、利子の取引がない金融である
イスラム金融は、イスラム教徒以外の人が利用することもできる
コーラン(声を出して読むべきもの)と、ハーディス(伝承)の教えに基づいて作られた法律が、シャリーア、と呼ばれるイスラム法である
イスラム金融は、このシャリーアの中にある、ムアラートで、定められた金融活動の規範に適合した金融取引のことである
シャリーアには、すべての国やムスリムに通用するようないわゆる、グローバルスタンダード(国際標準)は存在しない
イスラム金融は、4種
①ムラーバハ 銀行がお客様の代わりに商品を購入して、その商品に一定ノマージンをのせてお客様に販売する仕組みである
②イジャーラ 賃貸借契約の意、リース形態
③ムダーラバ 銀行が投資家からお金を預かって、そのお金を事業に投資する ベンチャーキャピタルに近い 銀行は経営には口を出さない
④ムシャーラガ 銀行と投資家が手を結んで、事業の共同経営を行う 銀行は経営に口を出してくる
イスラム金融債 スクーク イジャーラやムシャーラカをベースにつくられた金融商品
イスラムの金融保険 タカフル
①ファミリー・タカフル 生命保険
②ジェネラル・タカフル 損害保険
イスラム金融を専門とする、イスラム専門銀行と、一般金融を兼務するイスラミック・ウィンドウがある
ハラワ 非公式の国際送金システム、手軽、手数料が安い ⇒ アングラマネー
イスラム金融のポストBRICs
VISTA ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンの5カ国
■インドネシア 世界最大のイスラム教徒国
■トルコ 親日国 財閥(サバンジュ、コチ、ゾール、オヤック)、政教分離はケマル・パシャ以来の伝統
MEDUSA マレーシア(M)、エジプト(E)、UAE(U)のドバイ首長国(D),サウジアラビア(SA)
■マレーシア イスラム銀行が急増、プミプロラ政策
■エジプト 観光収入、スエズ運河の収入、原油天然ガス、海外からの直接投資 で急成長
■UAE 7首長国 アブダビ、ドバイ、シャルジャ、ウム・アル・カイワイン、アジュマン、フジャイラ、ラスアルハイマ
■サウジアラビア 世界最大の産油国 経済特区(SEZ)、メガ経済都市構想
イスラム諸国のイスラム金融事情
■ブルネイ BIBD:イスラム・ブルネイ・ダルサラーム銀行
■バーレーン イスラム法のグローバル・スタンダードをつくろう
■シンガポール IBアジア:イスラミック・バンク・オブ・アジア
■香港 イスラム金融債、イスラム投資ファンド
■UK 英国金融サービス機構:FSA イスラミック・バンク・オブ・ブリテン
■イラン すべての金融システムが、イスラム金融
■スーダン すべての金融システムが、イスラム金融 ダルフール紛争
■パキスタン ネクストイレブン
■インド タタ財閥がバングラディッシュに投資 ムスリムは1億5千万人、全人口の13.4%
■ナイジェリア 銀行・保険の金融セクター
■クウェート 12のイスラム銀行、2つのイスラム保険会社
■ヨルダン 全方位距離外交
■シリア 社会主義国家
■新疆ウイグル自治区、ウィグル、カザフ、キルギスの民族は、イスラム教徒
■日本
・三菱東京UFJ,三井住友、みずほ がGCCへ進出
・ドバイの政府系投資会社がソニー株を多量購入
・シャリーア適合の日本株指数「S&P TOPIX150シャリーア指数」
目次
プロローグ 金融市場の新たな勢力
第1章 イスラム金融、これだけ知れば大丈夫
第2章 有力グループ、MEDUSAのパワー
第3章 目が離せない、あの国この国
第4章 インフラ投資にイスラムマネーを
ISBN:9784344980792
出版社:幻冬舎
判型:新書
ページ数:224ページ
定価:740円(本体)
発売日:2008年05月30日第1刷