紙の本
マニア向けに書かれた本格ミステリはここまで面白くなくなる、っていうお手本のような一冊。その筋では評価されても、これじゃあ小説読みは納得できません。、『犯罪ホロスコープ』の楽しさはどこ?
2009/01/10 17:42
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
突然ですがカバー折り返しの言葉から入ります。
無数の時計が配置された不思議な回廊。その閉ざされた施設の
中の時計はすべて、たった一つの例外もなく異なった時を刻ん
でいた。すなわち、一分ずつ違った、一日二四時間の時を示す一
四四〇個の時計――。正確な時間を示すのは、その中のただ一つ。
夜とも昼とも知れぬ異様な空間から脱出する条件は、六時間以
内にその“正しい時計”を見つけ出すことだった!?神の下すが
ごとき命題に挑む唯一の武器は論理。奇跡の解答にはいかにし
て辿り着けるのか。極限まで磨かれた宝石のような謎、謎、謎、!
名手が放つ本格ミステリ・コレクション!
ええ、これはそのまま写したものですが、最後から二行目の最後、「謎、謎、謎、!」は「謎、謎、謎!」が正しいんじゃないでしょうか。横書きのものでは分かり難いでしょう、是非実物を見て確認してください。違和感、ありありです。これって本当にプロの技?装幀は抜群のセンスなのに。
いや、装幀といってもあくまでカバーのお話。各話の扉のデザイン、ちょっと不満です。本の小口を見てください、チョット汚れのようなものが・・・。実はこれ、扉に打たれたタイトルの痕跡です。左上に大きな文字を寄せて、それが紙の端に懸かっているので、小口を見るとそれが模様になる。これはいいんです。
デザインとして分かります。でも、それなら統一しろ!って。イン・メモリアム、猫の巡礼、四色問題、の三タイトル、どうしてそのポリシーを守らない?カタカナだから?だって、ダブル・プレイ、でやってるでしょ?製本の問題?逃げちゃあいけません。これって装幀家・松 昭教の仕事でしょ。それとも編集者?どっちでもいい、責任とれ!
なんてね、思うんです。この横の黒い汚れのようなものを見ながら、ああ、この話は長いな、思ったより短そう、なんて見当つけて読む側にしてみれば、それがいい加減なら迷惑しごく。そんないい加減なものなら、小口が汚くみえるだけじゃありませんか。デザインだから、って許されるのはそれがピシっとした考えでやられている時。手抜きはいけません、はい。
というわけで早速各話の紹介。
・使用中(『小説新潮』1998年6月号):スタンリイ・エリン「決断の時」を下敷き、とありますが原本を読んでいないので、それはともかく、こんなに愚かな編集者はありえないのじゃないでしょうか。北村薫『北村薫の創作表現講義 あなたを読む、わたしを書く』を読んだあとでは、リアリティを感じません。
・ダブル・プレイ(『NON』1998年10月増刊号):夫と妻の犯罪、というか交換殺人のお話。
・素人芸(『小説現代増刊 メフィスト』1999年9月号):夫と妻の犯罪。遊んでばかりいる妻が、夫に無断で贅沢な趣味に走ると・・・ロバート・ブロック「最後の演技」みたいな背筋の凍る話をめざしたそうですが、作者が認めるように今ひとつの感
・盗まれた手紙(『小説現代増刊 メフィスト』2003年5月号):暗号方式の一つに、ボルヘスが友人と共作した『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』に登場したヘルバシオ・モンテネグロが絡むのですが、正直、小説としては少しも面白くありませんでした。恋文の消失を巡る話ですが、論理ばかりで肝心の話が面白くありません。
・イン・メモリアム(『小説現代』2007年2月号):デイヴィッド・イーリイ「ヨットクラブ」が発想の元だそうです。珍しく、元本も読んでいます。追悼文を扱ったせいか、しんみり。ミステリとして読む必要は全くありません。ラストの捻りも不要、純文学でもいい?
・猫の巡礼(『小説現代』2007年6月号):作者いわく、本書中一番の異色作。テリー・ビッスン「熊が火を発見する」みたいな現代のほら話を目指す、とありますが、これまた知らないので関係は読めず。でも、現在、我が家では猫が人気なのとファンタジー好きなので楽しく読みました。老人の旅行を連想したりして。らしくない作品ではあります。
・四色問題(『小説NON』2004年11月号):都筑道夫「退職刑事」シリーズのパスティーシュ。ご本尊が少しも面白くないので、こちらもその影響を受けてしまったかもしれません。ダイイングメッセージだけで勝負、というのは今ひとつ。おなじパスティーシュなら「なめくじ長屋」のほうが小説としては楽しめるのではないでしょうか。
・幽霊をやとった女(『ジャーロ』2006年冬号):都筑道夫「酔いどれ探偵クォート・ギャロン」シリーズのパスティーシュ。これも都筑作品を読んでいますが、あまり元本を意識せず楽しんだほうがいいのでは。なぜ自分が焼死させられそうになったか、極めて論理的ですが、日本が舞台でも良かった気が・・・
・しらみつぶしの時計(『小説NON』2008年3月号):タイトルは都筑道夫「やぶにらみの時計」のもじり。カバー折り返しに説明してあるのがこのお話の骨子。お話、といえるかどうか。マニアは喜ぶんでしょうが、私としては個人的にはタイトルのみ評価したいところ。
・トゥ・オブ・アス(『小説NON』1998年6月号):あとがき冒頭に「断続的に発表した非シリーズ短篇(レギュラー探偵の法月綸太郎がとうじょうしない)を収録しました。」とあるのに、堂々と法月林太郎(字が違う、というのは作者も断っている)が登場する、アイデンティティーを巡る話、と堅く言えばなります。自分が恋していた相手は誰だったのか、というお話ですが、男がヘタレすぎて・・・若書き、と断り書きがあり、『二の悲劇』の原型だそうです。
あとがき
となります。お気づきでしょうが絶賛しているものは一つもありません。殆どが否定的、とまではいかないまでも楽しめない。パロディではありませんが、著者が触発された作品が先にあって、それを自分なりに工夫している。それを、あとがきではっきりとさせている姿勢はいいのですが、でもあまりにマニア向けというか自分だけが楽しんで納得している感があります。
「四色問題」「幽霊をやとった女」「しらみつぶしの時計」でお手本にされている都筑道夫ですが、彼の晩年の作品のいくつかが似た傾向を示していたことを思い出します。論理的なのはいいのですが、それで終ってしまい肝心の小説としての面白さが失せた作品群。鬼、と呼ばれる人たちの間では評価は高いのですが、私などはパズルを解くだけなら要らない、と積読のまま。
ま、都筑のもと歌は本来、ガチガチの本格ではなくてもっと粋で軽妙な作品だったはずですが、どうもそういう味わいを今の法月に期待するのは無理のようです。結局、お堅いだけのパズラーになってしまう。それは他の作品にもいえるので、残念だなあ、『犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題』ではあれほどの冴えをみせてくれたのに、って思います。明らかに装幀に負けた一冊でした。
投稿元:
レビューを見る
『使用中』
担当である桐谷と打ち合わせに喫茶店にやってきた作家・新谷。新谷が語る新作のアイデア。新谷のコーヒーを間違えて飲んだ桐谷。コーヒーに盛られた下剤。喫茶店の店仲田真美子の殺意。使用中のカードのかかったトイレで殺害された新谷。同じくトイレに駆け込んだ桐谷。死体とトイレに閉じ込められた桐谷の運命。
『ダブル・プレイ』
妻の牧子と口論してバッティングセンターにやってきた木嶋省平。そこで持ちかけられた交換殺人。カメラマン・宮沢の叔父である山崎を殺害した省平。名古屋出張でアリバイを作る省平の落ちた罠。
『素人芸』
浪費癖のある妻・早苗が買った腹話術の人形。早苗と口論になり弾みで殺してしまった保雄。隣人の通報でやってきた警察官。死体を天井裏に隠した保雄の耳に聞こえた早苗の声。
『盗まれた手紙』
シンジケートのボス・シャルラッハに盗まれたG将軍の妻の手紙。愛人に向けた手紙をいれた鍵をかけた小箱を愛人に送り愛人から新たな鍵をかけおくり返される小箱の中身が消えた。捜査を依頼されたレンロットの捜査。
『猫の巡礼』
9歳になった猫が行う巡礼。夫婦が飼っている飼い猫も巡礼の年になり巡礼に旅立たせるかを悩む夫婦。
『四色問題』
殺害された穐野久美。何者かに刺殺された彼女は死ぬ直前に自分の左腕にナイフうを刺し十字に切り傷をいれた。戦隊物のヒロインとして活躍した被害者と彼女たちの着替えの映像の流出。戦隊物の俳優たちの中の犯人。退職した父親への相談。
『幽霊をやとった女』
元探偵のギャロン。浮浪者として暮らす毎日。寝ている間に火をつけられ危うく焼き殺されるところだったギャロン。そんなギャロンに仕事を依頼するジャネット。夫であるクリスの様子がおかしいと訴えるジャネット。クリスの上着をきて尾行するギャロン。ギャロンの姿を見て自分の頭を撃ち抜いたクリス。
『しらみつぶしの時計』
1440個の時計の中から正解の時計を論理的に探すように求められる男。
『トゥ・オブ・アス』
真宮涼一が再会した木下悠子。彼女に惹かれる涼一。法月警視が担当する事件。殺害された北沢靖子、犯人として追われる悠子。同級生の二人。取り違えられた卒業アルバムの写真。涼一に会いにきて死んだ悠子。三人の人間に隠された秘密。
投稿元:
レビューを見る
法月綸太郎の非シリーズもの短篇集。「使用中」「素人芸」など面白く読めた。表題作「しらみつぶしの時計」のラストも好き。
投稿元:
レビューを見る
久々の氏の短編集。
遅れた読み手でパズル崩壊から入ったので余計に久々に感じたのかも。
逆に三部作を読み返したくなって文庫で揃えなおしてしまった。
タイトルからもわかるように都筑氏へのオマージュ作品の表題作や、
パスティーシュ、奇妙な味、そして某長編の試作的なボーナストラックと色とりどり。
元ネタがわかると更に面白みが増すでしょうね。
(私は一作知らなかったのでそのうち探して読んでみます)
法月さんの短編は論が先に行くイメージがありましたが、
今回の短編集は倒叙っぽいものも複数あって、表現の技巧を駆使しようという感触が結構楽しかったです。
投稿元:
レビューを見る
おもしろかった。「使用中」「素人芸」「猫の巡礼」が好き☆
みどろちゃん可愛い☆
2008.11.26
投稿元:
レビューを見る
ノンシリーズの短編集。個人的にはとても気に入った。
『使用中』ひねった展開のリドル・ストーリー(?)。スラプスティックな笑いって感じ。
『ダブル・プレイ』二重三重の構成が光る。面白かった。
『素人芸』そんなところに落とし穴を作るか。
『盗まれた手紙』凝ったパスティーシュ。徹底的なパズル的展開が好き。
『イン・メモリアム』短くて状況が飲み込みにくいんだけど、想像してる通りの狙いでいいのかな。
『猫の巡礼』イマイチ。
『四色問題』シンプルなダイイング・メッセージもの。専門的知識が必要なのもあり、イマイチ。
『幽霊をやとった女』凝った展開と、ハードボイルドな会話と状況が素晴らしい。
※上記二つは都筑道夫のパスティーシュ。文体とか会話が都筑節って印象で、読んでる最中幸せだった。句読点の打ち方もw
『しらみつぶしの時計』あまりにもパズルに徹しすぎな気もするが、最終局面までの絞込みは最高だった。ただ、最後の一つを選ぶ決め手はいかがなものかと。
『トゥ・オブ・アス』オチは分かりやすいが、そこに至るまでの心情や会話が胸にしみる。
投稿元:
レビューを見る
バラエティに富んだ作品集のように見えるが、そのほとんどが贋作。リスペクトする作家へのパスティーシュだらけでオリジナリティが感じられない。トリックもパクリのように思えてイマイチ感心できない。本作品とオリジナルを読み比べようなどという無駄な衝動も起きないので、あとがきでくどくどと説明されても、私のような読者には無意味極まりないだけ。贋作を意識しすぎたのか、文章が恐ろしく稚拙で読めたものではない。もともと文体が巧い作家ではないだけに、こういう嫌がらせをされると萎えてしまうのだ。
読書家なのは認める。ミステリに対する知識や薀蓄も豊富。しかしそれと書くのは別物。読み手としての過剰なインスパイアは、書き手の個性を殺してしまうということか。パスティーシュというしばりのない舞台で勝負した方が楽だとは思うが、これがこの作家のスタイルのひとつなら仕方がない。つくづく当たり外れの顕著な作家である。というより、本格そのものがそうなりつつあるのだろう。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりに読んだ綸太郎様の短編集。
が、しかし、あんまりだったな…(笑)
ちょっとロジック偏重に感じるのは私がバカだからか。
投稿元:
レビューを見る
ほ〜〜ぉ
と、言うのが感想です。 読んでみてください。
ほ〜〜ぉ。って言っちゃいますよ。
密室 夜か昼かもわからない 閉ざされた部屋
1分ずつ進んだ時計が 24時間分!!
そう!1440個の時計 きもい〜〜。
その中から 正しい時間を刻んでいる時計は1つ 6時間以内に探し出せれば外に出ることができる。
え〜〜。
どうするの? どうするの?って
あっという間に読んでしまいました。
投稿元:
レビューを見る
無数の時計が配置された不思議な回廊。その閉ざされた施設の中の時計はすべて、たった一つの例外もなく異なった時を刻んでいた。すなわち、一分ずつ違った、一日二四時間の時を示す一四四〇個の時計―。正確な時間を示すのは、その中のただ一つ。夜とも昼とも知れぬ異様な空間から脱出する条件は、六時間以内にその“正しい時計”を見つけ出すことだった!?神の下すがごとき命題に挑む唯一の武器は論理。奇跡の解答にはいかにして辿り着けるのか。極限まで磨かれた宝石のような謎、謎、謎、!名手が放つ本格ミステリ・コレクション。
投稿元:
レビューを見る
バラエティに富んだ短編集。ミステリあり、ちょっと不思議な話あり。楽しめます。特に都筑道夫さんのファンには嬉しいオマージュ作品も(タイトルからしてそうですけどね)。
お気に入りは「しらみつぶしの時計」。読んでいるとしんどくなってきそうな作業ですが(笑)。これはもうラストですっきりしましたー! 読み終えるともの凄く爽快。「ああそうかあ!」という納得感が素晴らしかったです。
「猫の巡礼」も好き。これは不思議な雰囲気のストーリーですが。いえもう猫好きにはたまりませんってば。こんな光景を見てみたいです。
投稿元:
レビューを見る
1998~2008年に発表した非シリーズ短編集。つまり、名探偵法月倫太郎が登場しない短編を収録しております。(厳密には、1編あるのですが。)「異色作家短篇」風のクライム・ストーリーと、名探偵パスティーシュが二本柱です。
以下、簡単な雑文を書いときました。
●「使用中」→著者曰く「会心作」。題名から察するにトイレがキーです。密室のとあるジレンマ。どうあっても、そんな状況に陥りたくないです。
●「ダブル・プレイ」→割に合わない犯罪だと思いました。騙し騙されです。
●「素人芸」→当初は、ホラーだと思いきや。
●「盗まれた手紙」→将軍の政敵は、二つの南京錠によって保護された頑丈な鉄の状箱から、いかにしてくだんの手紙を抜き取ることができたのか?/頭の中で何回もシュミレーションして、ようやくトリックの全貌が掴めました。なるほど!
●「イン・メモリアム」→ショートショート。ジワリと面白いです。
●「猫の巡礼」→とある夫婦と飼い猫のみどろのお話。猫好きに良し。
●「四色問題」→都筑道夫先生の「退職刑事」シリーズのパステーシュで、ダイイング・メッセージものです。そういえば、本家が二巻までしか読んでいないのに気づきました。
●「幽霊をやとった女」→雰囲気が好きでした。これもパスティーシュ。本家も読んでみます。
●「しらみつぶしの時計」→すべて異なる時を刻む1440個の時計。その中から「正確な時計」を探し出せ。制限時間は6時間。神の下すがごとき命題に挑む唯一の武器は論理(ロジック)!/というあらすじを読んで、どんな話なのか気になってしょうがなかったです。二人称で緊張感のある語り口。こんなラストも好きな自分がいました。もしかしたら、ずっこけるかもしれませんが。
●「トゥ・オブ・アス」→ボーナス・トラック。『二の悲劇』の原型となった短編です。改めて読んでみても悲劇的。こちらのバージョンも好みでした。
というわけで、個人的に好みなのは表題作「しらみつぶしの時計」でした。
(百石)
投稿元:
レビューを見る
2010/3/27
選りすぐりの短編集。
とくに表題作『しらみつぶしの時計』は神々しいほどの作品。
収録作品は以下。
・使用中
・ダブル・プレイ
・素人芸
・盗まれた手紙
・イン・メモリアム
・猫の巡礼
・四色問題
・幽霊をやとった女
・しらみつぶしの時計
・トゥ・オブ・アス
2010/3/22
amazonで衝動買い。
投稿元:
レビューを見る
最初の二編が既読だった。
そのうちの一つ「使用中」が一番面白かった。
衝撃を受ける程の面白さは無かったな。
投稿元:
レビューを見る
『しらみつぶしの時計』はおもしろかったな。最後の二つまでは予想通りだったけど、最後の一つは予想外で面白かった。最後の話もなかなか。法月倫太郎さんらしいはなし。