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紙の本
在北京的青年:白毛男
2008/07/20 15:24
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
大昔、YMOのメンバーが、とあるインタビューの中で、「文化大革命で活動を禁止されていた中国のオーケストラが嬉々として演奏するすがたに心打たれた」と答えていた。
それが70年代後半の出来事だろう。80年代末に「第二次天安門事件」の挫折にいたる、民主化運動、その後92年、「白猫・黒猫」をさらに加速した最高実力者の「南巡講話」以降現在にいたる、資本主義化の大波。近年のネットとリンクしたナショナリズムの高揚。その一方で日本の新聞には、時折、中国の若き「オタク」たちの姿が描かれる。この30年余中国の「文化」には一体何が起きていたのだろうか。
「文化大革命」もまた。1966年、ある、古典を題材にした有名作家の手になる時代劇への、「四人組」の一人の批判論文から火を噴いた。中国において、「文化」という言葉は少なくとも40年余前には、文字通り、個人、組織、国家の死命を制する力を有していたはずである。
手に取りやすい、軽い題名の本書ではあるが、北京のオフィス・マンション再開発の動向、国家による、依然存在するメディア統制や、個々の「文化商品」の流通事情など、当該マーケティングの入門・基礎資料としても実用に耐えうる堅牢な作りである。90年代の通観した各分野の動向もきちんと提示してくれているので、現状を切り取ることに偏りがちな、ネットによる情報収集の穴も十分埋めてくれるだろう。
とはいえ、「文学」「映画」「演劇」「音楽」「テレビ」「マンガ・アニメ(ラノベ)」「アート」「建築」「食文化」「メディア・ネット」と区分された各章は20ページ程度でさくさく読める。かつそれぞれの著者たちの、身銭を切った各分野への「オタク」ぶりが伺える内容の濃さ。
広義のライトノベルで正規版(非海賊版)で中国語版が発行されているのは『銀河英雄伝説』のみであるが、1999年にはモーコの願いも、空しく、木更津より先に北京にスターバックスの中国一号店が開店している。ちなみにケンタッキーがマックより先に上陸。勝負デートはハーゲンダッツだそうだ。
日本全国のカラオケボックスに「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」を鳴り響かせた、「あの」アニメがカットされまくりつつ(「大人のキスよ」とかがだろうか?)公式放映されている一方で、小津安二郎監督作品は上映禁止。とはいえ、韓国経由でライトノベル(中国語「軽小説」)が流入、ラノベの「ジャケ買い」も盛んであったりする不思議な風潮と当局の規範意識。
ロウ・イエ監督(『ふたりの人魚』)をはじめとする、国内で「上映禁止」で国際的な賞を勝ち取る映画監督たちが、なぜ輩出するのか?そんな「かゆい」ところにも本書の手は届く。
そして、中国(北京官話)、香港(広東語)、台湾(台湾語)の「一つの中国・三つのナショナリズムの中で、苦闘しつつも「国境」を越えるミュージシャンたちの姿も活写。
古典中の古典演劇、昆劇がバブリーなディナー付きで十八万の個室で観賞「できる」、不思議な現状。「Orz」も通じるWeb上の諸問題、国家統制との相克。
社会管理制度「単位」の崩壊とともに取り壊されていく「四合院」(古民家):「胡同模様」。95年に失脚した北京市長の「趣味」で町を覆ってしまった、大仰な「民族様式」の大建築群。消える屋台。
そして中国には「中国料理店」がないという、これまた不可思議な事実。
行く人も、行かない人にも。もちろん行かねばならぬ人にもお勧めできる一冊です。
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