紙の本
昭和秘史の裏側
2023/06/04 08:27
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投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦時中に陰謀工作を企て、そしてその任務を遂行する目的で設立され、絶対口外厳秘であった「中野学校」を現代に甦らせ将来への戒めとすべく記録された書。読み手である私は、昨今テレビドキュメンタリー番組などで紹介されている帝銀事件などの昭和の裏歴史への関連から興味本位で読み始めたが、そこに綴られた当時の本校学生・教官・関係者などの証言は余りにも重い。誰にも職務について語れず、任務の途中で死が訪れても「行方不明」として、また日本という国からもその存在を拒絶されて葬り去られる人々。どこの国のスパイたちも同じだが、あまりにも「ヒトとしての尊厳」を無視された人々の哀しみは想像してもその範囲にとどまるものではない。改めて「戦争」「軍事侵攻」の犯罪を考えてしまう。実は侵攻国側つまり加害者側の国民は自らの悪徳所業に気づいてはいても、数人の戦犯・首謀者によって「我が身可愛さ」から良識ある国民の反論を暴力で封じているとすればこれ程のエゴは厳しく断罪されるべきである。
本書はドキュメンタリーというよりも寧ろ歴史書が古文献の解説をしていくような仕立ての構成であり、歴史は好きだが古代文献の解説を読むのは苦手、また考古学は好きだが発掘物件一つ一つの解説を読むのは苦手とい私のような人には興味が続かず厳しい本であった。ただし、下山事件を追ってその当事者に迫っていく章は面白く読み応えがあった。
中野学校に真面目に勤務し真面目に勤めを終えた人々に対して、口外厳秘だったその歴史を「取材」の名のもとにジャーナリスト的興味本位からぐいぐい迫って口を割らせるような本書を、これまた興味本位に読んでしまった自分に対して、深い反省を感じている。後世のため、国のため、などと恩着せがましい口上で自己の行為を正当化する行き過ぎたジャーナリストのこの上ないエゴに加担してしまったと。
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京極堂シリーズ読者にはお馴染み、陸軍中野学校。
ははぁ…うーん、実際そんな大層なものじゃ…。てか出来るの遅すぎ!
非公式にしろそれなりに結果残してれば戦後にあっさりなくなってる筈もないしね。
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●:引用 →:感想
●太郎良は、この計画書を参謀本部第二部第五課長の白木未成大佐に提出した。計画書は若松只一陸軍次官を通じて阿南惟幾大臣の許に上がり、大臣がこの計画に承認を与えたのは終戦二日前の昭和二十年八月十三日であったという。
●また、小俣はGHQ潜入工作について、ごく親しい関係者に「参謀本部からの密命があった」と語っていた。
→戦後の地下活動は、このように各組織からの計画を省部が承認する形で実行されたのだろう。そのため、各組織は別個に活動し、組織間の連携、統括する組織が存在しなかったため、大掛かりな抵抗活動が行われなかったもではないか。
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陸軍中野学校の卒業生に取材を重ね、彼らの活躍と中野学校で教えられていた講義の内容などを取材した本。副題に諜報員たちの戦後とあるように、彼らが戦後、戦犯として裁かれたり、GHQとの取引で戦犯を逃れたりした経緯、更にはGHQとの共謀工作などに、記述の重きが置かれている。 よく噂されている下山事件への関わりとか、占領直後に米軍が皇室をどのように扱うか不明だった時に、皇室護持のために練られた計画とか、などなどだ。
この本では設立時のことにはあまり触れず、戦局悪化以降の遊撃戦の工作員がたどった道の記述が多い。ルバング島の小野田さんが中野学校の二俣分校の出身というのも有名な話だ。小野田さんが戦後もずっと密林に隠れ続けたのも、中野学校で学んだ遊撃戦の任務を怠らなかったからだ。
卒業生たちが身に付けた技能は特別なものだっから、戦後も様々なところで活躍の場を得られた。ただしそれが真っ当な仕事だったかというと、そうでない場合も多いから、特殊技能のおかげで生き延びられたいっても、幸せだったかどうかはわからない。
この著者の一番の成果は、中野学校で使用されていた教材を発掘したことだ。終戦時に資料はすべて処分されたはずだし、そもそも校外に持ち出し厳禁だった教材なので、出てきたことが奇跡に近い。その一部は巻末に資料として載せられている。研究者からしたら、よくぞこんなものが、という感じじゃないだろうか。
ただし、うがった見方をすると、この本の中で証言する関係者が、真実を語っているのかどうかわからない。関係者があまり残っていない現実を考えると嘘をつく理由はないかもしれないが、でも中野学校の関係者でも何でもないただのジャーナリストに全てを語っているかというと、そこまで信じていいの?と疑問に思う。
なぜなら彼らは秘密を守るために、相手をミスリードするのが仕事だったから。
彼らが関わった工作の全貌と真相は、彼らが優秀であればあるほど知りえない。下山事件なんて真相を知ると言う人物が証言すればするほど、新たな謎がでてきくるので、永遠に解決しないと思う。
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なんだか、下山事件って、その時代の人には重大な事件だったんですかね?
この本でも、下山事件の章の前までは、比較的客観的な視点で中野学校について描かれているのに、下山事件の章以降は、あまりに主観的で、かえって読みづらくなっている感じがします。
どちらかというと、本編より資料の戦術教材の方が興味深くなってしまった印象です。
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中野学校もののなかでも、関係者の戦後の動きにフォーカスした作品。
こういうテーマなのでなにかともどかしい思いばかり残るのは仕方がないかな。
憶測が走ってる感じも少しあるが、そこまでトンデモ感はない印象。
情報勤務者マインドの一端がわかって良かった。
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著者の特徴ないし独自性のあるしぶとい個人取材ベースの情報源を基礎として陸軍中野学校の戦中・戦後のリアリティを描こうとした一冊。
個人取材ベースであるため、全ての詳細な事実や結論まではたどり着いていない話題も多いが、伝わってくる雰囲気や陸軍中野学校卒業生のマインドみたいなものを知る上では貴重な書物となっている。
この一冊を通じて、陸軍中野学校の自由な発想の推奨や、目的達成のために個人レベルで試行錯誤しその場で最善の手段を講じるというようなマインドが、戦後の各種事件、潜入工作、戦後体制への関与といった部分に現れていることがとても良く感じられた。