紙の本
人が生きていくということは、
2023/03/26 15:58
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投稿者:びずん - この投稿者のレビュー一覧を見る
一体どういうことなのだろう。肉体的に健康であれば生きているのか。心はどこにどんな形で残されていくのか。美しいと感じること、嫉妬など心の痛み、身体的な苦しさ、肌で感じる温度。そんなものの全てが一人ひとりにあって、全然違う。違うことがわかるのは、私とあなたが存在しているからなのに。そういう奇跡を多くの人が奇跡と感じていないこの時代のことを表している小説なんだと思った。
紙の本
不思議な小説
2022/10/31 14:42
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投稿者:yomogi - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初は読み進みにくい内容だけど読んでいくうちにそういうこと?!と少しずつ理解されていく感じ。とても不思議な小説。
紙の本
子供達の話なのに、暗い。。。
2020/11/30 23:29
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投稿者:chieeee - この投稿者のレビュー一覧を見る
少し前に「約束のネバーランド」の劇場予告版を見て、この小説を思い出し、読みたくなり再読。子供達ばかりを収容した学校のような孤児院のようなところが舞台で、子供の話ながら終始暗い雰囲気が漂う物語。あまり救いがないお話ではあるものの、海外翻訳作としてはかなり読みやすいです。外国物で陥りがちな名前こんがらがりも少なめ。これはいつの時代設定なのでしょうか。昔のような今のような、未来のような…。ネタバレなしで感想を書くのが難しい物語。
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切なさをこえてこそ
2015/09/04 16:35
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投稿者:しろくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者はこの小説で何を言いたいのか。ひとことで言い表すことは難しいですが、読書中も読後はさらに頭を抱えてしまいました。丁寧な心理描写や極めて慎重に物語を展開している点など、なぜこういう書き方をしたのか。
なるほど作者自身はあらゆる可能性に触手を伸ばし、物語を紡いだのでしょう。あるいは読者に考えるきっかけを与えたかったのかもしれません(その意味でわたしもしっかり作者のフックにひっかかってしまっていますが…)。しかし、そうであれば、ああいう小説の書き方をすることに戸惑いを感じてしまいます。切ないという気持ちより、何か居心地の悪さ、気持ち悪さを抱えてしまいました。爽やかにすぎる。作品の読み方も含めて、読者に多くの宿題を与えてくれる作品、労作であることに違いはありません。
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さすが世界のイシグロ
2011/08/19 07:12
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投稿者:renogoo - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画化されたと聞いたので、原作もよんでみた。
良くも悪くもイシグロカズオだった。
もりあがりにかけるといえば、かけるんだけど、これがイシグロ文学といわれれば、はあぁそうですかってかんじ。
淡々とした語りが、さすがブッカー賞作家と言われれば、まあそうですねって納得するしかない。
臓器ファームがテーマとなっているんだから、いくらでも泣きを取れるだろうに、淡々としすぎて、あっけなく終わってしまった。
凡人の私は、泣き所がほしかった。
さすが世界のイシグロ。
ということでこれは映画でみてください。
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なんとなく先が気になってぐいぐいと一気に読んでしまった。カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」。
単行本が出た時から気にはなっていたが、ビミョー…という感想も出ていたので、なんとなく文庫本が出るまで待っていた。
謎解きという要素があるのでミステリーといえなくはない。現実を越えた世界の物語だからSF(Science Fiction)といえなくもない。3人の男女の青春時代と人間模様を描いたある種の恋愛小説といえなくもない。なんとも不思議な味わいの作品。
いろいろな書評で言い尽くされてはいるようだけれども、私が惹きつけられたのはやはり抑制された文体の美しさ。
テーマからすれば、もっと感情的に迸る、激情的な作品になってもおかしくない。そこがイシグロの巧さなんだろうな。
最初はなんだか唐突にわけのわからない話が始まって戸惑う。なんだかわからないのに、話は淡々と進むので、不安な気持ちで読み進めるしかない。ここで挫折せずにちょっと我慢して読み進めると、わりと早い段階でこの世界のカラクリは見えてくる。
だけど、別にミステリーではないので、そんなことはこの物語の中ではたいしたことではない。やはりそこにも「人間」が生きている。そのことを受け止めながら、いつしか「自分だったら…?」と考えずにはいられない。
不思議な世界観に「テープ」という古めかしいメディアがなんともマッチしている。
ちょっと伸びたテープが奏でる音楽が聴こえるような気がする。
あのなくなったテープは本当に「世界のロストコーナー」にあったのかもしれない。
「Never let me go(わたしを離さないで)」。タイトルが沁みて哀しい。この世に「Never」なんてないんだ。(2008/Aug)
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読んで2日たっても、自分の頭の中で物語について整理しおえることができない。とても濃厚な読書体験。この物語世界は、何度でも反芻して、味わうことができる。
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この本のことは一度どこかで噂に聞いて、強く印象に残ってはいたものの買う機会もなく、そんな日にふと本屋に出てみると文庫版が発売されていたので、胸を高鳴らせながら買った、というエピソードがあります。
カズオ・イシグロという作家自体の異邦性(日本人でありながら英語で著作をしていること)にも興味があって、どんな作品を書くんだろう、リアリズムに徹底したものなんだろうかと勝手に予想していたら、それを見事に裏切られました。
気付けばいつも、へールシャムを探している―――。
主人公は介護人・キャシー。彼女は「提供者」の世話をしていて、へールシャム出身である。
へールシャムというのは、臓器提供者を集めて育てる施設のひとつのことで、物語の大半はここでキャシーやその友人たちがどのような日々を送ったか、という細部の描写につぎこまれる。
そこでは創作活動が強く奨励されていて、ときどき「マダム」が外からやってきては優れた作品を選んでいく。
彼女はそれを「展示館」に持っていっているのだ、という噂もある。
そんななか、創作活動が苦手な少年、トミーはキャシーと深い友情を育み、へールシャムの秘密についていろいろと話し合う。
この二人に、トミーの恋人でありキャシーの親友であるルースを加え、彼らは青年期を経て大人になっていく。
そして大人になって自分たちが提供者となったいま、知ることとなる。へールシャムとは、何だったのかを――。
最初に読んで数行、へールシャムでの回想シーンに移ってすぐに、「これは、マーガレット・アトウッドの『侍女の物語』に似ているな」と直感したのを覚えています。
そしてその印象は最後まで揺らぐことなくわたしのなかに残り続けました。
外界から隔離された場所、さらに、社会とは切り離されそれよりもさらに「下位」とみなされる存在たち、といった設定が類似していたためと思われます。
ついでに言うならば、その書きぶりも、かなり似ている。アトウッドのような比喩の多用は決してないものの、緻密な構成と丁寧な描写が似ている。気がする。
とにかくそういうわけで、この二つの物語から受ける印象は未だに近い。
わたしはたぶん、この物語が内包するものの、10分の1程度くらいしか汲めていないのだと思います。だからよけいなことは書けない。
人間の残酷な自己本位性とか、合理主義への批判とか、つきつめて考えればそれっぽいことはたくさん言えるだろうけど、言いたくない。
これだけ計算されつくした物語を、そうやって言葉でさっと片付けてしまっていいものだとは思えないので。
だからひとつの文章を引用するだけにとどめます。
「新しい世界が足早にやってくる。科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。目を閉じて、胸に古い世界をしっかり抱きかかえている。心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱きしめて、離さないで、離さないでと懇願している」(p415-416)
翻訳は非常に美しく読みやすく、���訳ものを読んでいるという意識はほとんどありませんでした。
一度読み始めたら世界にどっぷり耽溺すること間違いなしの本です。
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深く染み渡るような感じですね。読み終わった後の余韻が静かに続いています。
ところどころ話が他の思い出に移ったりして、本当に主人公の話を聞いている(読んでいる)ように感じました。読み進めていくと、彼女らの置かれていた状況に対しての違和感が明らかになります。臓器提供とか、クローン人間とか・・・。一見「えっ!?」と思うようなことでも、主人公視点の日常として書かれているためか本全体の雰囲気と調和しています。でも、最後は・・・運命の理不尽さというか動かし難さというか。どことなく切なく、物悲しい気持ちになりました。しかし、それが良いのかも、と思ってみたり。
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最初から最後まで、キャシーという女性が自分の過ごしてきた過去のことを静かに語りかける、という構成。最初少し戸惑いましたが、そのうち自然に物語の世界に入ってゆけました。”ヘールシャム”というところの出身で、自分は介護人になり、親友と恋人は提供者になった、ヘールシャム時代はこうだった、そこを出た後のコテージに居たときはこんな風だった、と、子供同士でグループが出来たり無くなったり、リーダー格の子の気分でお気に入りやみそっかすが入れ替わったり、先輩や友達に見栄を張りたくてどうでもいい小さな嘘をついたり、それをだいなしにすることを言ったり言われたりしてケンカしたり、、、という、自分の小学生時代を思い出すとああわかるわかるわかります、という、そういうことが満載の本でした。
キャシー、ルース、トミーがどういう生い立ちでどういう人生を送っているのか、、、という設定とそこから湧き上がってくるジレンマなどが後からジワジワとボディブローのように効いて来る、不思議な話。地味でしたがおもしろかったです。
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ものすごい期待のせいか?
翻訳に違和感があるのか?
なんか言葉しか、文章しか頭に入ってこない。
情景もイメージできるし声も聞こえるのだけど、
だからなんなんだ!と苛ついてしまうこと何度か。
臓器提供のために培養された子ども達を、
「提供者」っていうのとか、訳がいやらしい。なんか。
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待望の文庫化。落ち着いていて、じわじわと魅力が浸透してくるような小説なのは相変わらず。かといってテンションが低いわけではない。とても緻密な小説。よかった。
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(メモ)
主人公キャシーの回想で話は進む。『提供者』は臓器提供のために作られたクローン人間で、複数回の提供で使命を全うする。その間に行われる介護も提供者の役割で、(ここはいいなと思った)キャシーは同じ施設に生まれ育ったトミーとルースの介護をし、ルースの最期を看取る。
トミーとは、提供を猶予してもらうために規則を破って施設の先生に会いに行くのだけれど、猶予は与えられない。規則は変わらない。それどころか、会いに行った先生から二人は恵まれている方だとまで言われる。(ヘールシャム以外の施設で、提供者は酷い扱いを受けていることになっているけれど、話の中でほとんど触れられていない)結局トミーとは最後の提供の直前に別れてしまう。それでも、一緒にいられた三人は幸せな気がした。静かな話だと思った。
キャシーの回想は施設でのこと。噂話があって、宝箱や交換会があって、打ち明け話があって、気楽な生活。守ってくれる保護官がいる。
マダムが、寮の部屋で踊るキャシーを見たとき思っていたことが最後明らかになるけれど、キャシーの頭の中には、施設(ヘールシャム)も、ルースとトミーの記憶も消えずにちゃんと残る。(マダムは悲観しすぎ?)
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あまりに予想外な題材を、心の準備もできないうちにただ知識として与えられ続ける。だから‘教えてもらっているようで、実はなにも教えられていない’。
使命を果たすために生み出されたのだ。でもせめて、子ども時代くらいは…という先生方の理想が、優しさなのか欺瞞なのか、その両方なのか。結局、誰の心も本当には教えられないまま、ぼんやりとした霧の中で物語も、彼らの人生も幕を閉じていく。人生?彼らの人生って、これまでって一体なんだったんだろう。決められた運命があってただそこに向かっていくだけの人生に、つらいとか哀しいとか幸せな記憶が何をもたらしてくれるのか。そんなことはない、必要なんだと彼ら自身は言うんだろうか。
そういう運命を背負って生まれた彼らの気持ちははかれない。でも私には、自分と彼らとの違いも、分からないままである。
タイトルが、あまりにきれいだ。
わたしを離さないで。
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今年読んだ海外文学の中ではもっとも高い点数がつけられる。抑制された語り口の中に、徐々に明らかにされる謎と彼らの運命。SFでもありミステリーでもあるが、SFやミステリーはこのような感動は呼びにくい。日常的な感情のやりとりを緻密に語ることで、登場人物たちに感情移入を促し、逆にこの小説は恐ろしくなる。「提供者」たちの運命は、私達自身の生のメタファーでもある。最後の一行を読み終えると、めまいがするような感じで、しばらくは動けなかった。