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幾何学といっても数学の本ではない。自然の力を創り出し、世界の秩序を支配するのは、"神聖幾何学"と呼ばれてきた単純な幾何学の法則であるという。伝統的にこういう考え方が存在し、自然の造形の中に、そして、意図的あるいは無意識に、優れた芸術や建築の中に、幾何学的秩序を見出すことができる。本書ではそれらを概観し検証している。
1990年代、フラーレンの発見とともに形の科学が盛り上がり、その手の本がたくさん出版された。
当時僕も大いに関心をもって、その多くを読んだ。本書はそれから時代が一回りした十数年後の本年に著された。一時代を経てそれらを総括し、たいへんわかりやすい形の入門書である。ベストセラーで映画も売れた『ダヴィンチ・コード』を話題に取り上げているところからも、初心者の興味をひきつける編集がされている。
ミステリーサークルについても紹介されていて、原因については「いまだ謎」と結論を保留している。確かにそれは中立で妥当な見方である。
レイラインについて大きく取り上げているところは、1990年代のブームの際にはあまり見られなかったことだ。これについても、一部の解釈については"こじつけ"が多いと、全面的に受け入れるべきではないとする立ち場を取っている。
黄金比については、神聖幾何学の根幹を為す概念で、よく解説されている。ここまで書いてあるのに、宇宙についてはケプラーの法則までは出てきて、惑星の会合周期に黄金比や偶然とは思えない比例が現れることには触れられていない。そんな辺りがまだ深みを避けているように思える。
写真や図版を多用したきれいな本で、全160ページと読みやすい分量である。さすが世界的な大手出版社だけあってうまくまとまっている。けれども、深遠なテーマを扱っているにしては表層の部分をざっと見渡したにすぎず、これで分かった気になっていると誤解を招きかねない。さらに興味をもった読者は専門書を当たってみるとよいだろう。